私と彼は
クライアントと護衛で
人と機械で
感情の塊のような娘と無感情な青年で
私の想いが正確に通じることなどないのだろうけど
でも、人間同士だって気持ちがすれ違うのだから、
私とシオンが分かり合えないのも当然なのかもしれない。
もしかしたら、シオン自身も分かってないだけで、
彼に心があるのかもしれない
私自身の『心』を取り出して見せることもできないのに、
どうして私(人)には在って、彼(機械)には無いと言い切れるのだろう。
ふと、ある童話を思い出した。
心を持った人形が、冒険を得て、良心というものを学び、本物の人間になるというお話。
妖精が命を賭して人を守った人形の願いを汲んで、叶えてくれるのだ。
もしも、願いが、叶うのなら―――
「ねえシオン」
「どうした」
出しっぱなしだった植物図鑑をぱらりとめくって、私は提案した。
「腕がよくなったら四葉のクローバーを探しに行こうね。」
「構わないが...一体どうした」
くすくすと笑った私を彼は不思議そうに眺めている。
「お願いごとをしたのよ」
―――彼も知らない「心」というものを、見つけられますように
*
けれど、その約束は果たされなかった。
数日後、家にまでのりこんできた見知らぬ集団に、リナリアが撃たれた。
ほんの数分、リナリアから離れた瞬間の出来事で、本当に、僅な隙だった。
相手から武器を奪い、全員を伸したあと、
急いで駆け寄って抱き起こしたときには、彼女はもう虫の息だった。
「どうして...庇ったりしたんだ...きみは...きみは...生身の人間なのに」
先生が言っていた、新しい銃弾。
それが俺の胸を狙っていると気づいた彼女が、俺を突き飛ばして、被弾した。
人間の心臓と同じ位置に、アンドロイドにも弱点がある。そこを爆破されたら
流石に自分も破壊されてしまう。
そうは言っても、俺が撃たれてしまうなら、それで仕方ないことだったのに。
そのための護衛アンドロイドだというのに。
腕の中でリナリアは薄っすらと微笑んだ。
「体が勝手に動いたの。貴方が爆破するところなんて、見たくないから...」
脇腹を、ごっそり持っていかれたその傷は、間違いなく致命傷だった。
病院に搬送っても、間に合わない。彼女の命はあと数分で尽きてしまう。
そうわかるほど俺は冷静なのに、ただ力なく言葉が落ちていった。
「どうして...!」
「どうしてか、分からなくていいわよ」
彼女は目を細めて微笑む。信じられないほど穏やかな表情で。
「ねぇ、シオン」
静かな声が人口鼓膜を震わせる。
爆発で耳がいかれてしまったのだろうか、リナリアの声以外は何も聞こえない。
彼女の声だけがやけに響いた。
「私、きっとこのまま死んじゃうんでしょうけど、最新鋭のアンドロイドの貴方なら
長い時間をこれからも生きるよね。だから...憶えていて」
小さな手をこちらに伸ばしてリナリアは言った。
「私は本当に幸せだった。お金なんてどうでも良かったの。貴方と過ごせたことが
幸せだったのよ」
こほ、と口元が赤く汚れた。
今の彼女にとっては血液は命の一滴だというのに、全く気にも止めず、続ける。
「だからね。命令よ、シオン」
それは8歳のとき以来の2回目の命令だった。
「私を幸せにしてくれた貴方が、幸せになりなさい。」
幸せとはなんだろう。
自分はアンドロイドで、仕事を正確に迅速することが役目で、リナリアの護衛で、
彼女を護ることが
彼女の笑顔を護ることが―――
「シオン...どうしたの」
冷たい指先で頬に触れられ、自分のそこが濡れていることに気がついた。
瞳から勝手に涙が溢れている。
人間と同じ生体反応をするように、この体はプログラミングされている。
けれど。
「なかないで」
けれど、この『痛み』はなんだろう。
感覚の反応に異常はないはずだ。
だというのに、どうして胸の奥が軋むように感じるのだろう。