「リナリア...」
「ね、シオン。あとね...」
止まらない涙で指先を湿らせながら彼女は言う。
「落ち着いたら、私のために四つ葉のクローバーを探してね」
果たせなかった約束を今更のように。
「わかったよ。探す、探すから、だから...!」
生身の君が、俺を置いて行かないでくれ。
俺の音声にならない叫びをかき消すように、リナリアは告げた。
「貴方のこと、大好きよ」
それが最期の言葉だった。
良家のお嬢様で
大金持ちで
明るくて、素直で心優しい、完璧な少女。
彼女の唯一の欠点は、恋愛下手だったこと。
愛した相手が人間ではなく、自分の護衛アンドロイドで
しかもそいつを庇って、命を落としたことだった。
*
「シオン!」
青々と草が生い茂る地べたに座り込んでいる俺に、女の子が駆け寄ってきた。
この協会が運営する孤児院にいるリリーだ。
「何してるの?」
隣にしゃがみこんで訊かれたので、摘んだクローバーを見せてやる。
「四葉を探してるんだ。」
それを受けて、リリーはきょとんと小首を傾げた。
「お願い事するの?」
その言葉にひっそり微笑みながら、俺はゆるく首を振る。
「いや...あげるんだ。リナリアに」
リナリア、という名前を口にすると、また胸の奥がつきんと痛んだ。
その痛みをごまかすように、笑みを深くする。
少女は「一緒に探す」と、宣言してぺたんと座り込んだ。
その小さな手で三つ葉ばかりの茂みをかき回していく。
俺も作業を再開すると、リリーが呟いた。
「リナリアさま、お願い事したかったの?」
「うん...俺にも教えてくれなかったけど、探しに行こう、って約束したんだ」
ふぅん、と相槌を打って、リリーはにっこりする。
「約束ならみつけなきゃ」
「そうだな」
「リナリアさま、きっと喜ぶよ」
この孤児院の子供達は、皆リナリアによく懐いていた。
ご両親が運営費を寄付していたこともあって、ご家族総出でよく訪ねていたからだ。
そして、同行していた俺も人間だと思ってか、懐いてくれていた。
「リリーね、リナリア様大好き」
「....そうだな」
小さなつぶやきに上手く応えることができなくて、俺はただ事実を認めた。
「優しいし、綺麗だし、たくさん遊んでくれたし、お花の名前も教えてくれたし」
「お花?」
「そうだよー」
手を止めてリリーはにっこりする。
「リナリアも、リリーも、それからシオンも、みんなお花の名前なのよって」
「そうか...」
『私がリナリアだから、貴方も花の名前がいいわ』
植物図鑑を頭からめくっていって、時間をかけて見つけた名前だった。
『シオン。背が高くて、薄紫の優しい花よ』
微笑みとともに呼びかけられた名前が、どこか違う響きを持っていた。
「いっぱい、いっぱい覚えてるもん。だから会えなくなっちゃってもね、大好きだよ。」
にこにこしながら少女は澄んだまっすぐな瞳でこちらを見つめて問いかける。
「シオンは?」
リナリア
リナリア
「わからない、んだ...。すき、って、なんだろう」
教えてくれ
どうして君は俺を好きだなんて言ったんだ
「俺には、わからない...」
つ、つきん、ずきん。
胸の痛みが増していく。
軋むように、締め付けるように。