そして、我々はその目的を果たせる可能性のある手段をも発見していた。
ダァバール融合。
「ダァバール融合」とは、ヘブライ語で「神の言葉」を意味している。その名の通り、「ダァバール融合」とは我々マルクト教団の擁する実在する神・創造維持神と人間を融合させることで神の言葉を得ようとする試みだった。
マルクト教団内の上層グループである我々「コリエル・メンバー」の最古参、コリエル1号の口から明かされたその禁術に関する情報を収集し、実行する段階にまで移行することが我々の最大の目的となっていた。
このダァバール融合に関するデータは、マルクト教団のデータベースの最深層に何重ものプロテクトをかけられた状態で発見された。そのプロテクトは現在まだ解析が続行されており、その全貌についてはまだ明らかになってはいない。
明らかになっていることはただひとつ。ダァバール融合の成功例は未だないということだけだった。
そもそも現段階で、「創造維持神と人間を融合させる」という記述が具体的にどのようなことなのかわかってはいない。確かに我々は実在する神である創造維持神に対して直接的なアプローチを行ってきた。[[rb:神経節 > コード]]を繋ぎ、その生体情報を常時モニターしている。しかし、そうした研究から得られている創造維持神のデータはあまりにも少ない。直接触れることのできる神を前にしても、我々にとって未だ神は不可知の存在なのだ。
そんな状態でも、我々コリエル・メンバーが可及的速やかに創造維持神と直接的な異意思疎通を果たさなくてはならない理由はいくつもあった。
ひとつは、現在各所で確認されている歪みの拡大と深刻化だ。
若者の集団自殺、奇妙で強固な妄想、常識では理解できない理由による殺人事件――そうした事件は伝染病のように社会に蔓延し、徐々に、しかし確実にこの世界を狂わせている。こうした歪みの先に待っているのが確実な破滅であることは、誰の目にも明らかだった。その確実な破滅を回避する方法を、実在する神である創造維持神に求めることは当然の成り行きだっただろう。我々は刻々と迫りつつある破滅の足音に怯えながら、神の言葉を求める日々を送っている。
また、我々が神の言葉を求めるように、歪みの蔓延している社会の中で生きている人々も救いを求めている。しかし、人々がいくら求めようとも祈ろうとも、天から梯子が降りてくることはなく、救い主の足音は聞こえない。そして、救いがもたらされないことがさらに社会の、人々の歪みを助長している。破滅へのカウントダウンは、早まりこそすれ遅らせることはもちろん、食い止めることは出来ずにいるのだ。
そして――我々マルクト教団が、否、コリエル・メンバーがたくさんのリスクを承知でダァバール融合を急ぐ最大の理由。それが、巨大な純白の偽翼を背負って姿を現した。