「……っ、ん……?」
朝、ふと目が覚めた。
時計の方へ目をやると午前2時を指していた。
中途半端な時間に起きてしまった。
ピン大人気芸人として活動している簓はスケジュールが分単位で構成されている。
そんな中、睡眠の時間はとても大切だった。
しばらくぼんやりと床の方へ目をやっていたが、時計のカチッという音ではっとした。
寝起き過ぎてわからなかったが、すごく頭が痛い。それに全身の怠さもある。
「ねつでも、あるんかな……」
そういって、体温計のほうへと手を伸ばすが、指先に全く力が入らず、つかめない。
「っ、はぁ……しんどいわぁ……」
丁度今日は仕事がなく、ゆっくりできr……そうでもない日だった。
どつ本、『どついたれ本舗』のメンバーと珍しく全員の休日がそろったため、普段の息抜きに食べ歩きにでもいこうかと予定していたのだ。
「どうしよ……無理していっても倒れたらいややし、でもって折角やすみかぶったんに……、」
思考をぐるぐると巡らせるが、おそらく熱のせいでいつものようにさえた考えが思い浮かばない。
悩みに悩んでいると、スマホが鳴った。
『簓?』『なんかあったん?』『時間過ぎとるけど』
盧笙から通知がきていた。
しかし、返そうとした次の瞬間、視界がぐにゃりとまわって真っ暗になった。
「あっ……?」
「んっ……」
カーテンのすき間から差しこむ光によって目が覚める。
必死に記憶をたどろうとしていると、ガチャッと扉の開く音がした。
「あ、簓起きとったん?」
「まったく、心配したんだぜ?」
どついたれ本舗のメンバーがいた。
「ろしょ、れっ……?」
突然のことに驚き名前をよぶが、滑舌が終わっている。
しかし、頭痛が治まっているような気がした。
頭の下に冷たい感覚があった。きっと、氷枕を作ってくれているのだろう。
無理矢理体を起こそうとするが、まだ全体的に怠いため、いつもより重く感じる。
「っ、しょっと……」
グラッと体が傾く。
が、ポスッと受け止められる。
「…く、ま…ぜ、の…い…ら…」
「…た、……な……」
廬笙と零がなにか言っているようだが、とぎれとぎれにしか聞こえない。
「、ふっ……はぁ、はぁ、!」
こころなしか呼吸も荒い。これは相当やばい状態だ。
「っぅ……」
目を開けていることすら厳しい。
と、背中にあたたかさを感じた。
大きな、そして優しい2人のてが背中にあたる感覚と同時に。
「簓、大丈夫や。ゆっくり、息、すってみ?」
「っ、すぅー、…はぁ、っ」
「できるじゃねえか。落ち着きな。」
2人が耳元で優しい言葉をかけてくれる。
次第に呼吸も落ち着いてきた。
「大丈夫か?」
「おんっ……!もう平気や、おおきにな、」
「せや、俺熱なんぼぐらいあったん?」
「はぁっ!?」
普段聞かない廬笙の大声にびくっと肩が跳ねる。
「急に大声だすんじゃねえよ?」
「っ、すまん……。ほんでも、熱あるってわかっとるんやったら、連絡ぐらいせぇ!」
体調不良のせいか、心なしか精神的に幼児退行していた簓は言葉の矢先が自分に向かったことに、また肩が跳ね上がった。そして、目元にうっすらと涙が浮かんだ。
「やっ、その、…ごめん、なさっ……!」
涙がほほをつたって、ぼたぼたとシーツに染み込む。
「ちょ、え!?簓!?」
「うぁっ、っつぅ、…ぁっ、。。」
涙は止まることを知らず、流れていく。
「おうおう、とりあえず落ち着きな。熱、はかるんだろ?」
簓はこくりとうなづく。
ぴぴぴぴっ、と計測終了を知らせる電子音が部屋に響く。
「おぅ……」
40.1という、子供のときにすらだしたことのないような温度を示す体温計を見ておもわず声が出る。
「うわぁ……」
「こりゃぁ、ひでえなぁw」
何故か零は笑っているが、そのことにすら突っ込む気力もなく、さらっと受け流す。
「じゃあ俺らは雑炊やらなんやらもってくるから、よこになっとき。」
そういって席を立とうとした瞬間、うしろに引っ張られ、簓のベッドに腰を下ろす体制になった。
「はっ、……?」
一瞬何が起きたのか分からなかったが、後ろをふり向いた瞬間、状況が理解できた。
簓が右手で零の、左手で廬笙の服の裾をつかんでいた。
「、いややっ、……いかんとって……?」
うっすらと水の膜を張った目でこちらを見つめてくる。
いつも糸目な簓の目が見える。つまり、開眼しているということ。
それだけ、必死なのだろう。
「なんだなんだぁ、今日は甘えたなのかい、簓くん?w」
零が茶化すように返す。
しかし簓は満更でもないように、耳の端をほんのりと赤らめた。
「しゃーないなぁ……」
廬笙はリズムよく、簓の腹をたたき始めた。
それが心地よかったのか、次第に簓はうとうと仕始めた。
「今は寝ときな。時間になったらおこしてやるから、」
「、……う、んっ……」
すると、簓は一定のリズムで寝息を立てはじめた。
「……よし、寝たやんな。ほな零、色々かってくるで、」
「はいよっと。」
そうして二人は部屋のドアノブをひねった。