~甲斐田視点~
 「んーーー、遅いですねぇ。」
控え室で加賀美ハヤト(後記:社長)がぽつりとつぶやく。
 「たしかに……もう時間から30分以上経っていますよねっ?」
 「なんか、あったんかな…?」
その声に賛同するように不破湊(後記:不破さん)と甲斐田晴(後記:自分)が口を開く。
たしかに、この時間ならいくら遅くても部活は終わっているだろう。
 『うちの剣道部、よく延長するんですよね~。でも30分以上の延長はしたことないんですよね。不思議じゃないですか?』
いつか剣持刀也(後記:もちさん)とそんな会話をした気がする。
 「あっ……。」
あることに気がつき、思わず声を漏らす。
 「?どしたんかいだぁ~?」
 「どうかされましたか?」
社長と不破さんが声をかけてくれる。
思いついたことを、声にしてはきだす。
 「あのっ、もちさんって実家暮らしですよね。」
 「せやな。」
不破さんが相づちを打ちながら聞いてくれる。
 「で、お兄さんもいる。ってことは、お兄さんに連絡したらもちさんどうしてるかわかるんじゃないですかねっ!?」
眼を輝かせながら力説する。
 「でも、おにいさんって今、おられるんですかね、」
 「それは大丈夫です!」
少し食い気味に答えてしまった。
申しわけない、あとで謝っておこう。そう思って口を開く。
 「今お兄さん、テレワークでお仕事をしてらっしゃるって、もちさんから聞きましたっ!」
反省はしているが、話すテンションは変えなかった。
 「じゃあ、電話してみますね。」
そういい、社長がカバンからスマホを取り出そうとしたとき、不破さんが口を開く。
 「まってっ!俺ももちさんの兄ちゃんと話したいっ!」
 「じゃ、僕もっ!」
 「はいはい、了解です。」
スマホを3人で囲む形にすわる。
画面をおすと、コール音が部屋中に響きわたった。
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何回か同じコール音がくりかえされた後、ブツッとその音が途切れる音がした。
スマホから男性の声がきこえる。
 〈……もしもし?〉
その声を聞いた社長が話をくり出す。
 「どうも。こちら、にじさんじ所属バーチャルライバー兼加賀美インダストリアル代表取締役加賀美ハヤトと……」
社長が不破さんの方へと目を向ける。
 「ぁ、バーチャルホストの不破湊と、」
不破さんが自分のほうへ目を向けた。
自分の番が回ってきたことに一瞬驚いたが、すぐにスマホへ声を出す。
  「か、甲斐田晴と申します……っ!」
 「そちら、剣持刀也さんのお兄様でお間違いないでしょうか?」
問いかけると、すぐに返答が帰ってくる。
 〈あ、はい!もしかしてろふまおさんですか?あの、そちらに、刀也は……!?〉
凄い早口で話し始めた。
でも、質問の内容からして、もちさんのお兄さんも、もちさんがどこにいるか知らないようだった。
社長がなだめつつ、話し始める。
 「そう、刀也さんについてなんですけれども、」
 〈ぇ……?〉
あちらからぼそっとこえが聞こえた。
 「刀也さん、収録に来られていないんですよ。30分間待ってみましたが、連絡もつかず……」
社長が一つひとつ話を進めていく。やっぱり、社長はこういうときに、凄く頼りになる。
 〈え…あっ、……とうや……?とうやっ……!〉
 「落ち着いてくださいっ!まだ刀也さんの身になにかあったと確定したわけではありませんっ!」
パニックを起こしているお兄さんを落ち着かせようとしているが、どうにもならない。
いったいどうすれば……。
 「あのー、お兄さん。」
隣にいた不破さんが口を開く。
この現場で唯一冷静だった。
 「刀也さん、”まだ学校にいる”とか、ないですかね?もちろん、この時間だから部活は終わってると思うんですけど、なんか用事があったとか。」
確かに、自分は感心した。
たしかに、まだ学校にいるかもしれない。
そんな発想があったのか、と。
 〈たしかに……でも、僕これから企業先と会議があるんですよ……。〉
つまり、”どうしても抜けられない事情”というわけだ。
「それなら大丈夫です。
          ___僕らが、行きますんで。」
ろふまおメンバーはこの後は何も予定が入っていない。
なら、暇な自分たちが動かないでどうする。
そういって、ほかの2人と目を合わせた。
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社長の車に乗せてもらい、もちさんの学校の校門まできた。
もちさんの学校のつくりは自分の母校とかなり違う。
なんせ、校門のすぐそばに体育館があるのだから。
 「さて、と。剣持さんどこにいるんでしょうk……」
カシャンッ。
社長が言い終わる前に体育館の壁に反響し、ここまで響いたであろう、硝子のようなものがわれる音がした。
 「さがす手間、省けたな……W」
現時刻はもちろん下校時刻をすぎている。
先生の鍵の点検すら終わっているところだ。
……まぁ、点検で硝子が割れることなどそもそもないと思うが。
 「それじゃあ、いきましょうか。」
そうして、体育館のほうへと足の向きを変え、歩き出した。
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入り口付近に来ると、だれかが泣いているような声がきこえた。
それに、途切れ途切れだが、かすかに話し声もきこえた。
『…う、い……グスッ』
社長が苦笑いしながら言う。
「この声、絶対剣持さんですよね……?」と。
~剣持視点~
僕はいつものように部活で練習をしていた。
心なしか、すこし浮かれていた。
実は、僕がこの前国の大会に出場したときに使った、独自であみだした技がえらい人たちに高く評価され、命名の権利を得ることになった。
『虚空哀歌』と、名付けた。
もともとこの技は、一撃で相手を撃ち落とすのではなく、数回に分けじわじわと追いつめていく技だ。
ゆっくり体力を失う自分に戸惑う相手に、心の中でこうささやく。
 『マイナスじゃない、虚空に近づいていっているだけです。なにも怖がることはありません。虚空は、全てを受け入れてくれます。』
名前を決め、書類を出そうとしているときに、部員のみんなにこえをかけられた。
なんていわれたのかは覚えていないが、みんな『名前』を連呼していたことだけは覚えている。
 『ーー!名前ーーーーーーー?ーーーー、ーーーー?ーーー!ーー名前ーーーーー!』
 『ーーーーーーー!ーーーーー名前ーーー!』
 『ーー名前ーーーーー。ーーーーーーー。』
と。
でも、誰も技の内容については触れてくれなかった。
それは部活おわりの出来事だっただろうか。
僕はそのまま、部員が帰るのを横目にその場に座り込んでしまった。
あんなに時間を掛け組み合わせて、作った、技なのに。
なんで、なん、で?どうシて……?
頭の中が黒い、どす黒いなにかに埋め尽くされていった。
ふと、壁がきしむ音がして、思わず顔をあげた。
鏡だ。目の前に自分のすがたがあった。きっと、部員がそのまま放置していったものだろう。
 「ぇ…………?」
でも、おかしかった。目の前の”剣持刀也”は、
                  ___目から、透明な水を伝わせていた。
信じられなくて、その水が涙だと分かるまで、少し時間がかかってしまった。
本当に自分が泣いている……?
”絶対に泣かない”で有名の男が?
 「はぁっ……、…!?」
なにか、熱いものがこみ上げてきた。
これは、さっきまで感じていた悲しみ等の感情ではない。
たぶん、”怒り”。
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気付けば自分は凄い力で木刀をにぎっていた。
目の前にいる男が、どうしても憎たらしくて。
鏡に向かって振りかざしていた。
はっとした時には、もう遅かった。
パリンッ。
硝子の割れる音が、体育館中に響きわたった。
それと同時に、ほほに鋭い痛みが走った。
きっと、割れた硝子がほほに突き刺さったのだろう。
まだ鏡には硝子の部分が残っていた。
はやく、なくなってほしくて、一心不乱に木刀をふりまわした。
~甲斐田視点~
先に職員室から借りた鍵をつかってとびらをあけた。
扉の先には予想もしなかった光景が広がっていた。
4,5,6……程度の、硝子のない鏡。その鏡にはまっていたであろう、粉々になった硝子。そして、ほほや額に硝子の破片が突き刺さったまま、木刀を支えに座り込んでいる、もちさんの姿があった。
今のもちさんの眼は、いつものきらきらとしたものではなく、怒り、不安、悲しみといったマイナスな感情が入り交じったような、そんなどす黒い色をしていた。
 「ヒュッ……」
 「っ………!」
社長も不破さんも、いままで見たことのないもちさんの姿にあ然としていた。
 「ぼくなんて、…ぼく、なんて……」
もちさんはこちらの存在など気付かずに、なにかぶつぶつとつぶやいていた。
ここは自分が進めなくては、きっとこのまま時間がとまってしまうだろう。
もちろん怖かったが、震える声を無理に張って話した。
 「…………も、ちさ~ん、!なに、してるんです、かっ?もう、集合時間すぎて、ますよ~?」
やっぱり、震えてしまった。
でも、きっともちさんはこちらがみえていないから、声だけでも明るく振る舞おうとした。
そしたら、次の瞬間にもちさんが凄いスピードでふり返った。
 「え、っ?な、んで、みんなが、いるんです、か?」
なんて吐き捨てて。
自分は正常だ、と伝えたかったのだろうか。あちらも無理に声を張っているように感じた。
あまりにも重々しい空気に、さっきまで動いていたであろう自分の口が全く動かなくなってしまった。
どうしよう、どうしよう。口火を切ったのは自分なのに、これではあまりにも無責任だ。
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その時だった。背中に温かい感覚がしたと同時に、視界の隅をなにかが通って行った。
なにか、だなんて言っているがその正体はすぐに分かった。
不破さん、不破湊だ。
 「大丈夫です。あとは不破さんが全部してくれます。よく頑張りました。」
頭の上から少し低めの落ち着いた声が聞こえてきた。
 「しゃ、ちょ」
自分が顔を上げて名前を呼ぶと、優しく微笑んでくれた。
それがまるで父親のような安心感で、自分はふっと意識を手放した。
~剣持視点~
後ろから甲斐田くんの声がして、思わず振り返った。
甲斐田くんがいた。嫌、甲斐田くんだけではなくろふまおのメンバー全員がいた。
 「え、っ?な、んで、みんなが、いるんです、か?」
なんて、思ってもないことを吐き出した。
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甲斐田くんがなにも答えないため困惑していると、不破くんが近くに来た。
 「ね、もちさん。血でてるからさ、手当てしに行こ。そしたら、甘いものでも食べに行こ?」
 「あ、ぇっと………」
不破くんに、そんなことを言われ困惑した。
 「ね?」
優しい、甘い口調で話しかけてくれた。
いまは、どうしてもその優しさに縋りたかった。
僕が頷くと不破くんも頷いて「さてと、」と言いながら立ち上がった。
 「ほらもちさん、いきますよ。」
と、手を差し伸べてくれた。
~加賀美視点~
ふと、一気に緊張がとけたのか甲斐田さんが寝てしまった。
 「しゃちょ~!」
遠くから不破さんの声がした。声のしたほうへ目をやると、後ろから剣持さんもちゃんとついてきているのが見え、安心した。
 「不破さん、ありがとうございました。」
 「………あれ、甲斐田くんどうしたんですか?」
自分の腕の中で眠っている甲斐田さんをみて、さっきまで黙っていた剣持さんが声を上げた。
 「ああ、ちょっと疲れてしまったようで、」
 「それってやっぱり、僕のせいですよね。ごめんなさい……。」
やはり少しネガティブ思考になってしまっている。
そんな剣持さんを見て、不破さんと自分がすかさずフォローした。
 「ちがうって。いつもの疲れがどんっときたんやろ。」
 「甲斐田さんも剣持さんのせいだとは思っていませんよ。」
 「……そっか。」
少し表情が明るくなってきたのをみて、不破さんが口を開いた。
 「さて、そいじゃ手当てしにいくぞー!」
拳を突き上げたその先には、雲の隙間から覗く眩しい太陽が輝いていた。
おわり!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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