「天童、実は……」
改まった若利くんの言葉から全てが始まった。いつものようにのんびりと夕飯を突いていた俺はそんな話がまさか若利くんの口から発せられるとは思っていなかったので一度聞いただけではその話を理解できなかった。
「どうやら、俺はマゾヒズムの気があるらしい」
「は?」
「一度で良い。天童、サディストとして振る舞ってみてくれないだろうか?」
ポロリと持っていたフォークを落としてしまったのも仕方のないことだろう。
若利くんと恋人関係になってそろそそろ3年が経つ。しかし、そんな若利くんがMだったなんてみじんも感じなかった。というか、俺たちの関係はいわゆる俺の方が「受け」というやつであって、それがSになるというのは可能なのだろうか? AVの女王様物でもみて学習しろと言うことだろうか?
一人でぐるぐる考えていてもラチがあかないので、一応、本人に確認を取ってみる。いわゆる「豚野郎が」とか「靴をお嘗め」とかやるべきなのだろうか? と。
「マゾと言っても、完全にこちらが劣勢である状況はあまり好ましくないんだ。難しくて申し訳ないが、同等程度の力関係にもかかわらずこちらがやむを得ず屈する強さを見せて欲しい」
訊いてみると、若利くんはなかなか難しい要求をしてきてくれた。思わず俺が「え。それ、マゾなの?」と訊ね返してしまったのも無理は無いだろう。だが、若利くんは至極真面目な表情で「そう認識している」と呟く。その様子が少し申し訳なさそうなので、酔狂やネタで言い始めたことでは無さそうであった。
「でもそれ、俺、負けチャわネ?」
「両手足でも縛ってくれ」
「おぉ。それはなんかポイね!」
両手足をベッドにくくりつけられた若利くんを想像する。モチロン、素っ裸だ。そんな抵抗できない若利くんに乗っかって好きかってやるのはなかなか新鮮で良いかもしれない。思わずドキリと胸が高鳴っていた。もしかしたら俺にも少しくらいSッ気があるのかもしれない。なら、好都合だ。
「それか、ルールを作らない?」
「例えば?」
若利くんにSMしたいと言われた時から少し考えていたことがあった。試せるなら、試してみたい。
「Sitって言ったら座った状態から動いちゃいけないとか、stopって言ったら動いちゃ駄目とか……」
その提案に、若利くんは意外と「それもありかもしれない」と生真面目に頷く。その手応えになるほどならばこんな感じはどうだろうか、と提案する。なんだかちょっと燃えるかもしれない。
「そういうのならいろいろ考えられるかもなんだヨ。handで手しか使っちゃ駄目、lipで口しか使っちゃ駄目、とか?」
「それは俺も指示できるのか?」
「そのホーがイーブンだけどそうしたらルール作った意味ネェじゃん?」
「解った」
handで永遠に若利くんに愛撫してもらえたら幸せかもなぁともう既に妄想でウキウキしてしまうくらいにはまだ、俺だってそれなりに若利くんとのエッチが好きなのだ。
「どうしても駄目なことだけ拒否できるようにしよう。俺も加減がわかんないから」
「では、どうしても駄目な時はnieと言おう」
「ポーランド語?」
「母語でない方が使わずにすみそうだ」
なるべく拒否したくないスタンスらしい彼の様子にビビッと背中が震えた。
「なるべく使わない方向で行きたいんだ。ホントにマゾなんだね?」
「天童も不快だったら止めてくれ」
「ダイジョーブ。上手く俺主体になるようにするヨ」
では早速、とlipで服脱がせて、と指示する。
一度やってみたかったシチュエーションだ。ベッドの縁に腰掛け、ほら、と両手を万歳して若利くんの行動を待つ。
まずはTシャツ。がっしりと裾を食んだ若利くんは、そのまま手を使わず俺の服を脱がしていく。もちろん、こちらも脱ぐ手伝いをするけど、時々邪魔もしてみたりして。もぞもぞと動きそうになる若利くんの腕を見ながらlipだけね、と念を押す。
問題なのは多分上衣より下衣だ。ジーパンを脱がすにはベルトがあり、ボタンがありチャックがある。それらを全て口だけで器用に外そうともがく若利くんを見ながら、いいこいいこ、とその頭を撫でた。ガチガチとベルトの金具に当たる歯の音が静かな寝室に響いた。
「時間かかるネェ。でも、手は使っちゃ駄目だヨ?」
ピクピク動く腕を優しく撫でながら、しかし、それを使わないようにもがく若利くんをゆったり眺める。
悪くない。最高のバレーボーラーにこうやって奉仕して貰うのは大変気分が良かった。
やっとどうにか若利くんが俺のジーパンのそのチャックに前歯を当てたとき、待ちくたびれた俺の前はゆるりと熱を持ち始めていた。じりじりと下ろされるチャックは中央が少し盛り上がっている。
ジーパンを脱ぎさるのを腰を上げて手伝い、それから、下着を下ろしてくれるのかと思ったら、そのまま下着の隙間から性器を舌で引っ張り出される。指示していないのに、そのままパクリと性器を銜えられ、俺は思わずヒャッと声を上げた。
「若利くん、ソレはまだ駄目。今度はソコ以外をhandでキモチくして?」
「まだお預けなのか?」
「ゆっくりやろうヨ。折角の初めてのSMごっこなんだから」
「わかった」
と言っても、若利くんはどちらかというと不器用な方だ。ペタペタと俺の胸や腹、腰、足と撫でていくけれど、愛撫というよりはどちらかというと身体チェックのような素っ気なさだ。
「若利くん。全然ダメ。もっとえっちに触ってヨ」
「エッチに……とは?」
「こんなカンジ」
すぅっと、若利くんの左肩の上を触れるか触れないかの弱さで撫でる。それからそのまま、首筋、顎、と撫でていくと、パチッと若利くんと視線が合ったのでキスするすれすれまで唇を近づける。
「こうやって、そっと触るんだヨ」
そうしてその丸みのある若利くんの頬を曲線に沿って丁寧に撫で上げる。すると、う、と小さなうめき声が若利くんの口から漏れていた。
若利くんは覚えが良い。こうやって、とちゃんと見本を示せば、その通りやってくれるし、時にはそれ以上に上手く物事をやってのける。先ほどまでただ触るだけだった手つきが怪しくなり、柔らかく腰を撫でたり、強く尻を揉んだりする。そうして、うろうろとする両手は俺の乳首にたどり着き、くうるりくうるりと乳輪をなぞる。コリコリと乳首を揉み潰すようにされて俺も思わず吐息が漏れた。
「若利くん、そろそろ勃ってきた?」
下着以外身につけていない俺とは裏腹に、夕食を摂っていた時と全く同じ姿のままの若利くんをつま先から頭まで見上げる。ふっと短い吐息を吐く彼の頬もわずかに上気しているのでそれなりに彼も楽しんではくれているのだろう。
「lie down。寝っ転がったままになって。起きちゃダメだヨ?」
服のまま仰向けに寝っ転がった若利くんの頭をまたぎ、彼のスラックスの前をくつろげる。確かにそこはほんのり勃ち上がっていて。そっと下着から取り出すと芯を持ち、熱くなっていた。
「何をするんだ?」
「若利くんは何もしちゃダメなターン」
サイドテーブルの引き出しからローションと綿棒を取り出す。そうして、綿棒によぉくローションを染みこませ、その先で若利くんの鈴口をつついた。
「う……」
「痛い?」
「いや、大丈夫だ……」
「若利くん、息子さんが立派すぎるから綿棒だと短ぇかもだけど」
そのまま、それで割れ目を幾度か撫でてやると、あっという間に手の中のモノが勃起し、天を向く。もう一度改めてローションをたっぷりまとわせ、それから、それをぐちゅりと先端の孔から差し入れた。
「あ、あっ……」
「まだ入りそぉ」
くるくると綿棒を転がしながら少しずつ中に押し込む。あ、あ、と今まで聞いたことの無い声が若利くんの口から漏れていた。
「ほら。全部、入っちゃったヨ?」
トントン、と綿棒の先をつつくと、それに合わせてビクビクッと若利くんの腰が跳ねる。
「俺が突っ込まれてるときの感覚にちょっと似てるのかな?」
「天童は、俺に挿入れたいの、か?」
「ぜぇんぜん!」
言いながら俺はもう一度トントンと綿棒をつつく。その少し出ている丸い部分が全て中に入ってしまわないように慎重に触れながら。でも、時々ピンと指先で弾いてみたりして。
「俺がやって欲しいのは、この綿棒入りのチンコで奥までゴリゴリして欲しぃの」
いつも硬くて太くて熱い若利くんのソレが俺のナカに挿入ってくる瞬間が最高に気持ちいい。でもソレが、もっと太くて硬かったら? と時々夢想する。たった1本の細くて小さい綿棒だけれど。これを差し入れたことによって、若利くんのモノがいつもよりいくらか硬さも太さも増している様に見える。
その勃ち上がりきったモノにくるくるとコンドームを着けていく。それはいつも着けている物よりもワンサイズ小さい物だ。若利くんの性器のでかさを見誤って買ってしまったそれをあえて着ければ、長さも足りず、いかにも窮屈そうであった。
「キツい?」
「キツい。射精できなさそうだ」
「そ。最初は出しちゃダメだからこっちのキツいコンドームね?」
仰向けに寝転がって何もできない若利くんの腰の上にまたぎ直す。モチロン、下着など脱いでしまって。
「俺は脱いだからいーけど、若利くんは服着たまんまだから出しちゃったら汚れちゃうでショ?」
「天童はどうするんだ?」
「俺のはねぇ?」
しっかりとシーツを掴んでいた若利くんの両手を引っ張り、腹の上でお椀のように合わせさせる。そうして、そこに俺自身の先端を向ける。
「若利くんの手の中に出すから、ちゃんと受け止めてね? それ以外に手ぇ使っちゃダメだヨ?」
零したらお仕置きネ? だんだん俺自身もこのSMごっこに乗り気になってきた気がしていた。不器用な若利くんが俺の出す精液を受け止めきれなかった時どうしてやろうかと思えばワクワクと胸が騒いだ。そうしながら、ひたりと若利くんのモノを俺の孔に当てる。そのいつもとは違う硬さ。先端が明らかに硬い。ぞくそく、する。その甘い痺れを甘受する。その硬さを楽しむように先端でわざと孔の縁をなぞらせる様に腰を回した。
そのまま、一気にぐっと腰を下ろす。ぐぐぐ、と割り入られる感覚がいつもより鋭い気がした。
「ん、あ……」
「てんどう……」
「わ、かとし、くんッ、キモチーぃ?」
「あぁ。だが、もどかしい……」
「もっと詳しく……」
「天童のナカが絡みついてくる」
「ン。で?」
「温かい。湿っていて、心地良い。もっと、奥に……」
「きょーは俺のペースでやらして貰うからっ」
いつもはワカトシクンが挿入って来たらその後は若利くんのペースになってしまうのだ。まだ今日は俺に理性が残っている。だから、ゆっくり腰を上下させる。最初は浅く。少しずつ深く。時々、指先にローションを絡ませてナカに足して。
それから、俺のナカの気持ちいい一点をわざと外して。そこに当ててしまったらすぐに理性が飛んでしまうから。コリコリと硬い切っ先でイイトコロの周囲をこすり上げる。その、チリチリとした焦燥感。
「てん、どぅ……」
「わざといつものトコ外してるの解る?」
「あぁ。もっと……」
腰を動かそうとした若利くんの腰骨を両手で押さえつけて動けなくさせる。
「ダメ。stopダヨ。俺が動くの」
「だが……」
「もどかしーほーがイーじゃん?」
若利くんがキモチーケド物足りないって顔してるの、めっちゃカワイー。
感情のまま思ったことを言うのは気持ちが良い。困ったような表情をする若利くんは、年相応よりも少し幼く見える。高校の時はまだ恋人関係じゃなかったけれど、もし恋人関係になれていたらもっとこういうあどけない表情の若利くんを見られたのかもしれない。
俺の気持ちいい一点を通り過ぎ、もっと奥。ヒダを二つ越した最奥。そこまで届くかと思って、ぐっと腰を落としてみる。しかし、やはりそれは俺一人の力では難しいらしい二つめのヒダの辺りで先端が止まってしまう。何度か抜き差しすればいけるかとも思ったが、ただそれではナカのローションが押し出されてしまうばかりだった。
「天童。出したい……」
「まだ、ダメ」
我慢すればするほど若利くんの顔が紅潮していくのが解る。我慢すればするほど、俺のナカのワカトシクンが熱く硬くなっていくのが解る。ソレを、最高潮まで高めて、そして、最後に思い切り突いてもらいたかった。
何度かコツコツと二つめのヒダを先端で撫でる。その圧迫感でも俺の前が弾けそうだけど、もっと高い快感を俺たちは知っている。
「天童、出したい。出させてくれ」
たのむ、と弱々しく懇願する若利くんが愛しくて仕方がなくなる。好きかってされて、それが気持ちいいと感じちゃうなんて。やっぱり本当に若利くんはMらしい。そして、俺には多分Sの素質がある。
「イーよ」
そう言った瞬間の、ぱっと輝いた瞳の中の光の強さに、一気に香った雄の気配に。またゾクゾクと背中が震える。その衝動のまま、ぎゅっとナカを締めると、若利くんが切なさそうに、くぅっと小さな声を出していた。
腰を上げると、ボタボタとナカに入っていたローションが落ちた。若利くんの履いたままだったスラックスは粗相でもしたみたいにびっちゃりと濡れていた。
そんなことにはもう気にも留めず、若利くんの性器からずるっとコンドームを取り去り、綿棒を一気に抜く。
すると、びゅっと俺の顔まで若利くんの精液が飛んできた。びゅうびゅうと飛ばし、それから、亀頭をパクパクと動かし、じわじわと残った精液をその先端にしみ出させる。
俺は、ただ無言で口に飛んだ精液をペロリと舐め、残りを両手に取り、若利くんの服の裾からその両手を刺し入れる。そうして、そのままべったりと若利くんの素肌の胸の上に精液を塗る。それなりの量が出されたおかげで、若利くんの量の乳首がベタベタとべたつくには充分だった。
だが、そんなに勢いよく精を吐き出したと言うのに、まだ若利くんのモノは元気だ。きっちりと反り返り、硬度を保ったまま、次の吐精のタイミングを待ち望んでいる。
「ずっと俺、我慢してたんだけど、今日は生で挿入れて欲しい」
今までは後処理が大変だから、と必ずコンドームを着けてやっていた。しかし、ここまで若利くんのMッ気に付き合ったのだ。最後まで俺の好きなようにやらせてもらいたかった。
「良いのか?」
「後処理も全部若利くんがやってくれるって前提で考えてるけど」
「もちろん」
天童の言うとおりに全てしよう。
欲に濡れる瞳が、唇が、全てがキラキラと光って美しかった。あぁ、そうだ。知っている。人は好きなものを見つけたとき、こういう輝きを伴っているのだ。
「あとはもう、好きにしていいヨ」
疲れた、とベッドに転がると、今まで何もできずにもどかしそうにしていた若利くんがパッと起き上がる。そうして、そのまま俺の片足だけ持ち上げて、股の間に座るようにして若利くんのモノを俺の孔に宛がう。と、思った瞬間にはもう既にぐっと押し入られていた。
さっき散々直撃しないようにしていたナカのしこりにゴツゴツと先端を当てられて変な声が上がる。そこに射精のボタンでもあるみたいに、押されるたびにびゅ、びゅ、と俺の前から精液が飛び散る。
「あ、あ、あ……」
いつもの若利くんのペースになってしまえば俺はただされるがままだ。されるがまま、その熱いモノにうがたれる快感にだけ酔う。ヘッドボードにしがみつく。そうしないと、上に押し上げられる力に負けてしまいそうだった。
あからさまに俺のナカが妖しくうごめく。もっと、奥、その奥にまで来て、と。
それに素直に導かれるように、若利くんはもっとナカに。奥に進んでくる。先ほどは届かなかった二つのヒダのもっと奥。
「あ、あぁっ‼‼‼‼」
「ぐぅっ‼‼‼」
ゴツッと最奥までうがたれたところで、俺は大きな声を上げていた。最奥で放たれた精は、そこよりもっと奥。「そんなところまで?」と思うような奥の奥まで入っていったような気がした。
さて、犯し尽くされたのは、一体、どちらなのか?
その夜はいつもよりもずっと長い夜になりそうだった。