Twitterが終了したので、ここでしか繋がっていなかった助手との関係が切れた。
嘘だろ、イーロン・マスクがTwitterを魔改造し続けていることは知っていたが、それにしたってもっと保つと思っていた。なんだかんだで永遠がそこにあると思っていた。だから俺は、移住先なんか考えずにのうのうとしがみついてたんだ。どうせ終わるんなら、せめて予告の一つくらいしてくれよ。みんな逃げ遅れちまってるんだよ。
ああ、確かにTwitterはカスみたいな場所で、一刻も早く無くなるべきな地獄ではあった。有名人に日夜投げつけられるクソリプ。炎上の種を探してるハイエナども。RTするだけで一万円をやると嘯くスパムアカウント。神待ちの女子高生達は変な男に引っかかって殺されてるし、子供を轢いた『上級国民』の晒し上げや、明らかアウトな裏垢女子のエロ写メ投稿、規制もクソもないスナッフの投稿など、こうして列挙してくと、ほんとに無くなってよかったよな?
けど、俺にとっては大事な場所ではあった。
なにせ、俺が行沢遠助ではなく、名探偵・ホム沢でいられるのはTwitterだけだったからだ。
そう、俺が皆様ご存じ『ホム沢』の中の人である。フォロワーは脅威の二万七百七十三フォロワーだ。今となっては泡に消えた数字だが、これはちょっとしたもんだと思う。俺は別にアイドルでも配信者でもないんだぞ? なのにこの数字だ。すごいよなあ。本当に、マジで、失いたくなかった。
アイドルでも配信者でもない、なのにフォロワー二万人超えの俺の職業は、探偵である。しかも、リアルで事務所を構える探偵じゃなく、Twitterに事務所を構えるTwitter探偵である。
『リアル事務所を開ける日を夢見て。あなたの依頼に誠心誠意お答えします。ご相談はDMから。ホム沢』
これが俺の最初のツイートだった。マジで最初はえっちな男性を探している女か、副業で二千万稼ぐ方法を教えてくれる男しかフォロワーがいなかった。まったく、Twitterの治安が悪いのは、こういう奴らを排除出来ないからなんじゃないか?
最初はまともな依頼が来なかったものの、せっせとアマギフを配るRTキャンペーンをやっていた甲斐もあって、DMにスパム以外のメッセージが来るようになった。まあ、大抵はTwitterでの揉め事を仲裁して欲しいとか、誹謗中傷を繰り返してくるこのアカウントの主を特定して欲しいとかだったんだが──(残念ながらそれは弁護士の方が役に立つ)──ごく稀に、いなくなった娘を探してほしいとか、ネットロアにされてしまった殺人事件を解決してほしいとか、そういう俺向きのものが飛び込んで来た。
俺は殆どタダ同然で依頼を引き受け、ネットと現地調査を駆使して解決にあたった。現地をあたるのは週末しか無理だが、ネットの海なら夜更かしすればいくらでも泳げる。
普通の探偵より時間はかかったと思う。何しろ俺はTwitterを根城にしている素人探偵である。正直、探偵活動だって趣味みたいなもんだ。でも、趣味だからこそ粘り強く続けられた。こんなことを犯罪絡みの稼業で言うのもなんだが、好きなものっていくらでも出来るだろ?
で、俺はちょっとずつ依頼をこなしていった。
で、フォロワーがちょっとずつ増えた。
で、俺の活躍がバズった。
TwitterのTwitterドリームらしいところって、一回バズってフォロワーが増えりゃ、後は倍々ゲームになるところなんだよな。見てくれる人間が増えるから拡散されるようになるっていうグッドスパイラル。一〇〇人と二〇〇人ってTwitterにおいては結構違う。一〇〇人の時にはバズらなかったものが、二〇〇人の時には案外バズる。
フォロワーが一〇〇〇人を超える頃には、ありがたいことにクソリプアンチマンも増えてきた。『素人のおっさんが探偵気取りって、それ自体がもう犯罪だろ』うっっっっっせえぇええよ! じゃあお前は他人の娘を探しにトー横巡り出来んのかよ。素人探偵であるところの俺はやらない善よりやる偽善をモットーにしている。
そういう俺のポリシーって意外とTwitterではウケがいいんだよな。現実で言うと鼻白むような理想って、Twitterではそこそこに映える。俺は、実際にちゃんと事件を解決してたわけだし。
で、Twitter探偵が本業じゃない俺は、段々と依頼の全てを捌くのが難しくなってきた。DMを一件一件精査するのも大変だし、それに返信するのだって精神的なコストを使う。
そこで俺が考えたのはTwitter助手で、現れたのが助手太郎だった。
ホム沢『業務が手広くなってきたので助手募集します』
助手太郎『僕でよければやりますよ』
リツイート直後のツイートを表示するツールを使わなくても分かるくらい即レスだった。二年前に作られたアカウントのくせに、フォロワー0の完全なロムアカウント。しかもアイコン未設定で、フォローしてるのは俺とファッションプレスと人間食べ食べカエルのみ。わっかんねえ~よ、なんかその二つをフォローしてるの、逆に怖い。ていうか、助手に採用される前からその名前なの? マジで怖い。
なのにIDはデフォルトなの? 全部怖い。
でも、俺は助手太郎を助手として採用した。助手太郎がいの一番に名乗りを挙げた所為で、他に誰も名乗り出なかったからだ。Twitterってこういうところあるよなあ! 周りのことめっちゃ気にして、出方を常に窺ってる後出しジャンケンみたいなとこ! いや、単純にTwitter探偵の助手なんてきな臭いもんになりたくないのかもしれないけど。
ホム沢『それじゃ、まあ。よろしく』
助手太郎『よろしくお願いします』
俺が助手太郎の初めてのフォロワーになった。
そっから助手太郎の快進撃が始まる。
端的に言うと助手太郎は優秀なやつで、バリバリ連絡を返してバリバリ依頼を捌いていった。それだけじゃなく、俺の手の回らない調査や下調べなんかも請け負って、なんかもう本物の助手より本物の助手って感じだった。知らんけど。
助手太郎『ホム沢先生。二十七日までに届いた依頼には全て返信済みです』
ホム沢『おう、助かる』
日中働いている俺と違って助手太郎はなんだか好きに時間を使えてしまうようで、本当に、いや本ッ当に、俺の探偵活動に貢献してくれたと思う。てか、ホム沢として解決した有名な事件の大半は助手太郎と一緒に解決したものだ。
本当に参っちゃうね。
なんだかっていうアイドル──あ、そうそう青メルだか、いや、東グレだか(ここが怪しいのはまずい。燃える。Twitter終わっててよかった)の脅迫事件を解決したのも、当時流行ってた寿司ペロテロ犯の大学生を捕まえたのも助手太郎と一緒。この大学生、結構いいとこの子で親御さんも反省してて可哀想だった。結局弁護士と相談して、どうにか誹謗中傷と私刑執行を止めさせたけど、俺への批判もデカくなったし、あれは嫌な事件だった。
でも、嫌な事件であったけど、注目度はあって。
ホム沢のフォロワーも伸びに伸びた。
助手太郎(DM)『ホム沢さんはちゃんとやったと思いますよ。あれ以上犯行は重ねさせなかったですし、晒した人間には法的措置を取るって脅しつけたし、あとは警察に任せましたし』
ホム沢(DM)『そうなのかね。俺が待ち伏せして説得もどきしなくても、いずれ捕まっただろ。それなのに俺は野次馬根性でしゃしゃり出て』
助手太郎(DM)『掲示板見ました?』
ホム沢(DM)『ありとあらゆるもの見た』
ホム沢(DM)『発言小町まで』
助手太郎『Twitterが絡んだ事件である時点で、万全な終わりなんてないと思いますよ。というかフォロワー一万越えてます』
ホム沢(DM)『なんでお前は一万二千いるの?』
そんなやり取りが出来る程度には順調だった。いや、事件とかではしゃいじゃ駄目だよな。でも、俺がやってるのは趣味の探偵活動で、主戦場はTwitterだ。Twitterなんて不謹慎な場所で犬猫探しに精を出していた俺達のことを、まあちょっとは認めてほしい。
悪いことばっかじゃないから、俺のフォロワーは二万七百七十三人になったし、助手太郎のフォロワーは三万六千二十一になったんだと思う。ていうか、そう。なんかしんないけど、俺よりも助手太郎の方がフォロワー数は多かった。単にホム沢探偵事務所の連絡窓口が助手太郎のDMだった……てだけじゃないような気もする。
何しろ、
助手太郎すこすこ侍『今回も太郎ぴの活躍で事件が解決したようなもんですよね。そろそろ助手太郎ではなくホム太郎として独立してもいいのでわ……。』
ってアカウントがあったくらいだ。しかも一つじゃなく、大量に。
俺は普通のおっさんらしさを隠さずに、泥臭く探偵稼業をやってたから、中の人間が見えづらい助手太郎にそういう人気が集まるのが分かる。っていうか、助手太郎のムーブは助手っていうより有能な秘書みたいで、そこが女の子にはまたたまらないんだろう。
おまけに、最初は怪しさ満載の匿名アイコンだった助手太郎は、いつの間にか万人受けする猫アイコンに変貌していたからだ、おまけに、ちゃーんとフリー素材である。そこフリー素材なんかよ! って思うけど、誰の権利も侵害してないってのは、ことTwitterにおいては安心しかない事実だ。
猫アイコンってかーわいい。っていうことで、助手太郎は更にチヤホヤされ、俺と太郎のどうでもいいやり取りがまたほのぼのでかーわいいってことになってチヤホヤされて、俺は概ね満足していた。アンチが「終わってきてる人間が必死で媚びてるのって死にかけのセミみたいで胸痛くなる」って引リツしてきても、まあ気にはするけどそんな甚大なダメージは受けなかった。ブロックしたら効いたと思われそうだったから、ミュートした。
俺はTwitterで幸せだったのだ。太郎もそうだったと、思いたい。
助手太郎『頼まれていた資料用意出来ました』
ホム沢『たすかる』
助手太郎『ちょっと問題がありまして。調査してる間に例の息子さん見つけてしまったんです。もう事件解決ですね』
ホム沢『え、まじかよ』
助手太郎『拾い解決なのでどうしようかと。ホム沢先生の手柄にして頂いていいんですけど』
ホム沢『拾い解決ってなんだよ』
ホム沢『あ、まさか拾い画からきてる?』
助手太郎『Twitterに投稿されてる画像を無断転載して拾い画って言ってるやつってムカつきません? そいつが『拾い師』とか名乗ってたら余計に。何が師なんだよ』
ホム沢『なんか拾い師に恨みあんの?』
助手太郎『オタクなので……」r
ホム沢『いいよ。拾い解決はお前のにしろよ。Twitterで唯一拾っていいものだよ』
助手太郎『僕のフォロワー増えちゃいますね』
ホム沢『これ以上差が開くと困る』
先方から戻ってきたクソみたいな指示を反映して戻す。適度に手が空いてそうな部下にSlackで指示を飛ばす。業務って概ねTwitterみたいだな、いやむしろ社会の全てってTwitterぽくない?
どこにでも転がっている三十四歳男性、行沢遠助の本業はしがない広告代理店勤務である。大手じゃないから適度にゆるい。でも趣味に精を出せるほど暇じゃない。でも、嫌いな仕事ってわけでもなくて、むしろ好きではある。ただし、一番じゃない。そういう仕事だ。少なくとも、子供の頃の俺は広告代理店に勤める人になりたい、とは書いていなかった。
疲れ果てて取った昼休憩で、なんと自販機のクジが当たった。明らかに身体に悪そうなカフェイン盛り盛りの缶コーヒーが二本転がり出てきた。うれしいけど死ねってこと?
って、Twitterがあった時代なら即座に呟いていたと思う。運の良いことが起こりましたよーって報告+ちょっとした社畜ネタツイみたいな感じで。
Twitterが無くなると、こういう日常のちょっとしたことを報告する場が無い。報告出来ない時点で、こんな缶コーヒーに何の意味があるだろう? というか、Twitterが終わってから気づいたけど、俺は結構、寂しい。付き合ってる女性はいないし、当然結婚もしていない。今まではフォロワーが多く、飯を食べてる時にもフォロワーと会話していたから気づかなかったが、俺は結構孤独な人生を送っていたのだろうか? そんなはずはない。Twitterの中には血の通った人間がいる。その交流がまやかしなんかじゃないことを、俺はちゃんと知っているのだ。
とはいえ、そのTwitterが無くなったから、結局俺は血の通った交流の全てを失ってしまったわけだが。
誰にも報告出来なかった幸運の一本目を啜りながら、俺は助手太郎のことを考える。
助手太郎について知っていることは、びっくりするほど少ない。
まず、男であること。これについては、助手太郎が助手になる時に確認した。「太郎って言ってるんだから男でしょうよ」なんて奴は言っていたが、Twitterでの名前なんて何の信用にも値しない。っていうか、人間食べ食べカエルが本当にカエルだと思ってんのか? 俺はそれでも、助手太郎が探偵助手に憧れるうら若き女学生である可能性を疑い続けてはいたのだが──まあ、色々DMなんかで話してると、まあこいつ男だよな、男の解像度高すぎるよなって思ったので、多分男。あと、資料を送ってくれた時に見切れていた手とか爪が結構男。無骨な深爪気味なので、ネイルの趣味は無さそうだ。
で、何度も強調されていたから俺よりは年下であること。多分……二、三個下。場合によっちゃ、六歳くらいは幅があるか。ただ、やっていたゲームとか観ていた子供番組の話で、こんくらいの幅だろうっていうのは絞れた気がする。Twitterで昔の話するのって何であんな楽しいんだろうな? 助手太郎は何故か本当の年齢を教えてくれなかったけど、まあ、Twitterって年齢の話あんましないもんな。とはいえ、助手太郎は多分二十代後半から俺と同い年くらい。
あとは全然わからん。Twitterで話すことといえば探偵活動の話か、そうでなかったら趣味の話だけだからだ。助手太郎はTCGが好きで、ポケカの新弾が出る度に開封動画を上げていた。あと、なんかガチャが引き放題だからって理由でちょっとブルーアーカイブに手を出していた。ミカの為にリセマラした。なんか、アニメもよく観てる。俺がもう追えなくなったアニメ達をきっちり観てる。オタクなんだと思う。あと暇なんだと思う。……これ言うのちょっと躊躇うけど、ピンク髪のキャラにめちゃくちゃ弱いし、巨乳より貧乳が好き。多分寝取られ属性がある。
これだけ性癖のことは(なんとなく)分かってしまうのに、俺は助手太郎がどこの誰か全然分からないのだ。
Twitterが便利すぎたのがいけないんだと思う。だってLINE無くてもDMでいいし。ていうか俺と助手太郎ならそもそも空リプでいいし。空リプないしリプライで会話してると、俺達のファンは結構喜んでいいねしたりTogetterにまとめてくれたりしたのだ。マジで、外に行く必要なんか無かった。Twitter終わるとか思わないから、マジでそこに比重を置きすぎていたのだ。
あ、とここで俺は思い出す。イーロン・マスクがTwitterの鳥を謎の犬に変えたあの日、助手太郎は俺にDMを送ってきたのだ。
助手太郎(DM)『Twitter終わったらどうします』
え、こいつまさかTwitterが青い鳥じゃなくて犬になったから不安になってんの? まさか、そんなきっかけで終わりゃしないだろ、鳥派か? と思って、俺は適当に返した。
ホム沢(DM)『そしたらコンビ解散かもな』
小粋なジョークのつもりだった。空が墜ちるか心配した昔話の馬鹿を笑うみたいな感覚だった。結構面白いやり取りだし、スクショして後でTwitterに載っけるか、と思った。
助手太郎の返信は汗を掻いた黄色い顔の絵文字だけだった。おいおいリアクションだけかよ。でもこれはこれでシュールで面白いな。ウケそう。
とかなんとか言っている内に、スクショを載せていいねを一稼ぎする場が消えた。
本気で後悔してる。妙なことは言わない。強がりもしない。助手太郎と連絡先交換しとくんだった……!!!! ディスコでもいい、LINEでもいい、SkypeでもZoomでもいい。Twitterが終わった後の待ち合わせ場所を設定しておけばよかった!!! なんでこうなんだ? イーロン、終わるなら一日前に言ってくれよ。そしたら俺もディスコのアカウント作ったよ。あれ? 別のとこのサービスに誘導しようとしたらBANされるんだっけ? どういうことだよイーロン。
俺はもう助手太郎に連絡することが出来ない。助手太郎のことなんか何も知らない。今期のアニメでどいつが推しかは答えられる。でも、それ以外はわからない。
ただ、俺は思うのだ。俺は助手太郎よりもずっと自分のことを開示してきた。多分、個人情報も知らず知らずのうちにガバッてたはずだ。
俺より優秀な助手太郎は、どうして生身の俺を見つけてくれないんだろう?
Twitterが欲しい。こういうやるせなさを呟いて、フォロワーと共有したい。でも、それも出来ない。部下にはこんなこと話したって理解されない。
俺って、一体何を、どこまで失ったんだろうな?
「ホム沢さ~ん。Twitterの終了した世界へようこそ~。Twitterが終われども何にも特別じゃないカフェ、ラビットバンケット@ほ~るへようこそ☆」
退勤後に、某所へ寄った。店の中に入るなり、きらっきらの声に迎えられる。
ここは所謂コンカフェで、俺を迎えたのはTwitterネーム『絶対負け子ちゃん』こと今梁ミスカである。ミスカは不思議の国のアリスに出てくる三月兎のドレスを着て、胸にぴかぴかの『ミスカ』というネームプレートを付けていた。
「『絶対負け子ちゃん』は完全に辞めたんだな」
「辞めたっていうか、ああいう名前ってTwitterじゃないと通用しないんですよ。私はもうインスタに移行したから、本名でやってくわけです。仮にMisskeyとか行ったり、例のBluskyとかきたら『絶対負け子ちゃん』にしよっかなあと思うけど」
「確かに、インスタは今梁ミスカのが似合うよなあ……」
それもただの感覚であって、別に何の根拠も無い発言なんだが。俺がホム沢アカウントをインスタに作れないのと同じだろう。ちょっと浮いた雰囲気になるのが、もっと言うならスベるのが怖くて、なんか躊躇う。
『絶対負け子ちゃん』は、俺の──というよりは、ホム沢の古参フォロワーだ。何度か誹謗中傷の相談に乗ったり、自宅凸案件の相談に乗ったりしている、依頼人兼友人である。俺のフォロワーが五十未満の時から見守ってくれている相手なんて、最早家族みたいなもんだ。そうだろう? 俺は『絶対負け子ちゃん』がミスカであることを知っているし、ミスカは俺が行沢であることを知っている。
「まーだ助手太郎さんと連絡取れないんですか。Twitterが終わった日、泡食ってここに駆け込んできてから早二週間くらい経ちましたよねえ」
「音沙汰無しだ。方々でアカウントを探したりしてるんだが」
「うーん。どこで待ち合わせか決めてないとねえ……。ネットに放流された関係っておしまいですよ。私なんかはこの店にいるって分かってるから、Twitterが終わっちゃっても会えはするんですけどね。私からフォロワーに会いに行くことは出来ないんですよ。一方通行」
一方通行。その通りだ。俺のフォロワー達も、もう俺を見つけることは出来ない。みんなは俺のことを惜しんでくれているのだろうか。それとも俺のこともTwitterも忘れて、新しいSNSで新しい推しを見つけているんだろうか。ミスカのおすすめである映えクリームソーダを飲みながら、俺は一人溜息を吐いた。こんな若干不味い、でも映えるドリンクを飲んでも写真を上げる場所が無いんだもんなあ……。
「ホム沢さんもリアル事務所構えたら助手太郎さんが戻ってくるんじゃないですか?」
「あー……そういう可能性もあるのか」
ミスカのこの店の如く。
Twitter以外の場所にホームを作って、かつてのフォロワーを待つ。
それがTwitterを失った人間のやるべきことなのかもしれない。俺もそう思う。
けど、それで再会出来なかったら?
凍結された本アカの代わりに作った新アカにフォロワーが全員付いてきてくれるわけじゃないように、ホム沢探偵事務所に太郎のやつが来てくれなかったらどうなるのだ?
再会の目印が無いって言い訳が使えなくなったら、人間関係の終焉を突きつけられる感じがして怖い。この歳になると、一回懐に入れた人間から切られる経験とか無理なんだよなあ。ていうか、太郎って優秀なんじゃないの? 俺がラビットバンケットにいることくらい推察してくれよ!
「ま、でもそうなったら本格的に会社に副業届とか出さないとですもんね。Twitterでホム沢とか名乗ってるのとはまた違う責任が発生するかあ」
「……そもそも、事務所開く金が無い」
「Twitterがまだ生きてる内に、Twitterサブスクとかやっとけばよかったですよねえ。二万人もフォロワーいたら結構投げ銭集まったんじゃないですか」
「あれ大分しょっぱい金額しか入らないんだぞ。大部分がTwitterに取られるんだって」
それでも、助手太郎と一緒にやったら、小遣い程度にはなったのかもしれない……。そうしたら、適度に美味い肉とか食って、それをまたTwitterに載せていいねを稼いで、名札の付いた肉を食べたりして……。サブスクがちゃんと機能していたら、Twitterが今も生きていたのかもな、とすら思う。みんな、真面目にTwitterに金を払うべきだったのかもしれない。
「ありゃ、大分重傷ですね。なんか、思い詰めてます。いやー、インスタ始めて分かったんですけど、Twitterにどっぷり浸かった人ってTwitterでしか息出来ないんですよ。ノリがちょっと違うもん」
「やめろよ。線を引くな」
「なんで無くなっちゃったんでしょうね。みんなから鬼嫌われてたおすすめタブ、私結構使ってたのにな……おすすめタブを開くと、知らないフォロワー同士の喧嘩とか、あんまり詳しくない界隈の炎上とか無限に見られて楽しかったな」
「やっぱりTwitter無くなってよかったなって思っちゃうだろうが」
俺が言うと、ミスカはけらけらと笑った。そんな陰湿な使い方をしていたくせに、ちゃっかりインスタに乗り換えやがって。
「ていうか、ホム沢さんと助手太郎さんってオフで会ったことないんですか?」
「Twitterでのフォロワーとほいほい会ったら危ないだろ。リテラシー無いのか」
「っていう茶番は置いておきまして」
「……いや、本気で会ったこと無いな。結構初期の頃は打ち上げしようとか、気になる映画があるとかで誘ってたんだが、嫌がられて」
それが、俺と奴が別の連絡手段を持たなかった理由でもある。
助手太郎(DM)『すいません。僕、Twitterとプライベートは分けたいタイプなんです』
こんなこと言われて、それでも食い下がれるか? 食い下がれるわけないだろ。だって、Twitterだもん。インスタとかならまだしも、Twitterはプライベートと切り離した過ぎるだろ。俺も「あ、まあそうだよな……」しか言いようがねえよ。助手太郎は実は可憐な女の子で、ホム沢とオフで会うのに警戒心を抱いている……って可能性も無くはなかったが、それを信じるにはTwitterはあまりにカスなSNS過ぎたのだ。俺も、職場の人間にホム沢アカウントのことをバラされたら死ぬ。
あるいは、単にプライベートで会うほどの仲でもなかった可能性もある。俺はホム沢と朝までDMしてたことがあるが、ぽんと浮いた夜の暇つぶしなんて、俺じゃなくても多分よかった。俺も多分、太郎じゃなくてよかった。あの意味の無さ、誰でも良さが、Twitterだ。
「え、でもTwitterフレンズなのはいいとして、もくりとかやってないの? そもそもTwitterにはスペースがあったじゃん。ホム沢さん、寂しい夜とかによく開いてたでしょ」
「寂しかったから開いてたわけじゃない。喋りたかったからだ」
「あーでも、助手太郎さんが参戦してた記憶無いや」
「何回かスピーカーに招待したけど、あいつが上がってきたことは一度も無い。リスナーにはよくいたんだけどな。たまに拍手の絵文字を送ってくれたけど、喋らなかった。ていうか、必ずスペースに来てくれたわけでもないしな。助手のくせに……」
「助手って探偵のスペースを絶対聞かなくちゃいけないんですか? やだな」
あ、ていうかあ、とミスカが瞳を輝かせる。
「気づいちゃったんですけど、太郎くんって芸能人だったんじゃないですか?」
「なんだそれ。どういう推理だよ」
「きっとジャニーズとか、にじさんじとかなんですよ。ていうかろふまおなんですよ、多分。だからスペースとか上がってこられなかったんです。声でバレちゃいますからね。うわ、完全に分かっちゃった。解決です。助手太郎の浮上時間とろふまおの浮上時間が被ってないか調べましょう」
「俺にじさんじはまだ分かるけどろふまおのろが誰でふが誰かとか全然分かんない」
「あちゃー、全然駄目だ。被りまくってる」
「なんなんだよ」
休憩します~