疲労感にたゆたう中で、離れていたときの話をしろよとせがんだ。
司が用意した靴を蹴るように脱いで、ベッドの柱沿いに投げ落とす。鹿皮のものより段違いで、クッション性はあったが、本日まるまるの地獄トレーニングで靴下ごしでも熱を持っているのが分かる。パンパンだ。
「君の体力を鑑みれば、このまま寝るべきだよ」
司は俺の靴下を脱がせて、一対セットで丸めながら、それを洗濯かごに投げた。俺が投げた靴よりきれいな放物線を描いた。
「変なとこ興奮して寝られそうもねえ。びりびりしやがる」
俺はわがままを言った。
司はため息をつき、たしかに俺も子どもの頃、鍛え始めたときはそうなった──辛かった時期の話だろうに、少し懐かしそうな穏やかさでもって言われた。
それならちょっとだけ。あっちにいるときの現況はいつも通信していたから、途切れていた間のことね。君なら推測できる内容だから無意味だけど。
司はむき出しになった俺の足首をつかみ、ゆるゆると心地よい圧を加えながらもったり話し始めた。
君は知っているだろうけど、この世界の航路は限定されている。
燃料補給のために、すでにある街を経由していかなくてはならなかった。
──あ゙ー、作るか直行便
いいよ俺は急がない。作るなら君と龍水の判断だ。
ゼノの指示どおり、マナウスから古いメデューサをあらん限り回収して船に積んだ。あれは何に使うんだい?
──何でも。素材としても、実験体としても。
そうか。ともかく、超合金の街を出発した。新しい船は俺は初めてだったから、驚いたよ。お客さん扱いはイヤだったから、運航を教えてもらった。前のペルセウス号では拙いながらも携わったけど、電子機器などは君や羽京の管轄だったからね。
──唆るだろ?
そこはまだよくわからない。
──ちぇ
ふふ。できるとしたいは違うんだよ。今がそうだけど、したくても出来ない時もある。
──チッ、バレバレか
そこはお互い様ということで。
──体力ついたら覚えてろよ
楽しみにしてるよ。それで、蛍石の街についた。超合金の街でも少しスペイン語は使っていたからバルセロナで役に立ったね。蛍石って本当にホタルみたいに光るんだね。あと爆発した。
──ククク、驚いたか。加熱で光るが時々弾けちまう奴があんだよ。アタリを引いたな
あれは当たりなんだ。それで採掘が進む中で、すごいものが出てきてた。クラフトに関係ないのともっと調査が進められてからってことで、まだ報告はこっちにされなかったそうだけど。
──なんだ?
サクラダファミリアの彫刻
──そうか、ありゃ石で出来てる
祈りというのはすごい力だ。楽し気な採掘現場の空気が変わった。少し怖さもある。
──まあな
地中海を抜けると両岸の砂漠が増えてきて、昼は酷な暑さだけど、夜は月がきれいだった。海と砂の匂いがまざって、よく甲板から外を見ていたよ。
そうしたら、スエズのあたりだったかな。壊れた石像がたくさん沈んでいたから、できるだけ引き上げて、断面が新しそうなものはつないだ。ここの航路ではよくそうしているそうだね。
それで少し帰還が遅れた。すまなかったね。
──おう
で、数学の街に到着して、燃料も積んで、あっちも史跡が見つかったって。
──当ててやろうか
どうぞ。
──タージマハル
大正解。石材の基盤部が出て来たそうだね。ただ、バルセロナと違って川が近いから流されたものも多いだろう。
──そうだな
アルミの街では、グレートバリアーリーフを見たね。旧世界でも見たけど、飛行機からの小さい姿だけだった。
──泳ぐか? 狩るか?
必要あればね。なければ未来を連れて珍しい貝殻を拾わせてあげたいというだけだよ。
──テメーは
こっちで久しぶりに会って確信したけど、あの子は自分の力で自身を守れる子だ。俺がお守りを作らなくても大丈夫。
──確かにな。で、お次はゴムの街
採取に参加して、君のあの靴の基盤を作った。きっと必要になるから。いつものでは宇宙に行くにも鍛えられないし、あっという間に履き潰してる。復活してから何足だったんだい?
──数えてねえわ。ふわぁ……
秒を数えるよりよっぽどカンタンなのに、妙なものだね。気持ちいい?
──ごくらく
明日の朝、筋肉痛がんばって
──鬼だな
知らなかったかい?
──って汚ねぇだろ
ふふ、よく動くように、おまじない
──無意味だが、マジ効きそ
そうだね。
きみの道が開けますように
その旅の困難が少しでも和らぎますように
この石のような足が、1gでもいいから軽くなりますように
爪の先まで俺の足を舐める司を見たら色々な意味で最後だと思ったので、目を閉じた。首から足まで、司はいつだって痛みゼロで俺を悩ます。これが経歴(キャリア)の賜物ってやつか。
予測はできるが、理解はしていないこれまでの司、これからの司。
そうしていたら、まぶたがアホほど重くなり、ブラックアウト。司に身体を任せるといつだってこれだ。畜生。任せてきたときには百億倍に返してやる。