縹 清代の一日は早くに始まる。
 ジリリと鳴る目覚まし時計を止めれば朝の五時。この頃はそろそろ日も明けやらぬ空が、夜の紺色を惜しむように纏っている。
 いつも通りに痛む頭を軽く振って、てきぱきとお湯を沸かす。マグカップにさらさらとフリーズドライのアサリの味噌汁を作る。熱々のそれは彼女の頭痛を少しだけなだめてくれる。
「おはよう、叔父さん、お父さん、お母さん」
 警官学校に受かった時に叔父が撮ってくれた写真にいつも通りの挨拶。ルーティーンは彼女にとって大切だ。
 昨日読んだ本をまとめてリュックにしまう。図書館までは二キロある。朝、読んだ本を返却BOXに入れてから出勤するのが彼女の日課だった。
 小学生のころ叔父から与えられた勉強机は、もうすっかりサイズが合わないけれど、まだ捨てられずにいる。整頓されたそれだが、子供らしさの名残だろう戦隊ヒーローのシールが一枚大事そうに貼られている。
 半分残ったマグカップをその上に置いて、彼女は一つ伸びをする。昨日は深酒をしすぎた日らしい。体の奥にこびり付いた怠さが、彼女のきびきびとした普段のふるまいを鈍らせる。
 これではいけない。いつも通りの頼れる班長でなくては。
 深く息を吐いて、マグカップの中身を飲み干す。
 冷めたそれは舌を焼くこともなく嚥下された。
『二キロ走って、着替えて、シャワーを浴びたら、いつも通りの私。』
 シャンと立ってみて、自分にそう言い聞かせる。
 頼れる班長でなくてはならないのだ。ただでさえ背が低く、童顔で、頼りなげに見られがちなのだから。ふるまいくらいは取り繕わねばならない。
 それが虚栄に満ちたものだとしても。
 いつか本当にして見せると、嘘が本当になるように、縹 清代は今日も見栄を張る。
 マグカップを洗って、鼻歌を口ずさむ。脳内でもう何度も繰り返し見た戦隊ヒーローは、今日も裁きの時間だと名乗りを上げている。
 正義の通りに、悪を裁き、弱きを助け、強きをくじく、そんなヒーローになるのだ。
 ならねば、ならないのだ。
 洗い終えたマグカップを乾燥機に入れて、リュックを背負う。
 さぁ、いつもの一日を始めよう。
 平和のための、一日を。
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