こんな夢を見た
夢を見ていた。悲しくて、辛くて、苦しくて、目の前が真っ暗で、きっと人生のどん底から見た景色と同じ感じの、そんな夢だった。
不幸の詰め合わせ、なんて嬉しくない響きがよく似合う。
早く夢から覚めたくて目を開けたら、そこには優しい人がいた。母のような、姉のような、ともすれば親友のようなその人はあたたかいこの空間で、いつも出迎えてくれる。
怖い夢を見たの、そう言えば、彼女は両手を広げて、包み込んでくれた。心地よさに包まれて、安心する。怖い思いも痛い思いも、もうしなくていいんだ、とようやく自由になれた。そんな気がした。
いかに怖かったか、いかに酷い夢だったかを語れば、彼女は少し困ったように眉をひそめた。
そして彼女はいつものように優しい声でこう言った。
「それは夢じゃないよ。夢なんかじゃ、ない」
「え?」
「あなたが経験してきたことだから、それは全部夢じゃない」
「何言ってるの? ここが現実でしょ? こうやって触れるし、目を覚ましたらここにいた! そうでしょ?」
「ううん、眠っているの。あなたは今夢を見ているのよ」
「う、そだ……」
「ごめんね、でもあなたはあなたの世界を生きなくちゃ。こっちに来てはダメなのよ」
「なんで? こんなにあたたかくて、優しくて、幸せな世界なのに?」
「あなたが、そう作ったから。だからここはそういう場所になった」
「じゃあ、私の世界じゃん!」
「確かにあなたが作った世界ではあるけれど、あなたの生きる世界じゃない」
「……そんな、」
「さあ、起きるのよ。目を開けて。怖がらなくていい。私たちはいつだってここにいる。また戻ってきてもいいから。だから、私たちを作ったあなたが私たちと同じ存在にならないで」
悲しげにそう言う彼女は、まるで最後の別れのようにきつく抱きしめる。
「ごめんね、こんな形でしか愛してあげられなくて」
どちらの涙かわからないそれが絨毯を濡らす。徐々に遠くなる意識の中、彼女が優しく微笑んだ顔が最後に見れた気がした。
目が覚めたら、病院のベッドらしきところに横たわっていた。心配してくれる人も、見舞いに来る人も特にいないことはわかりきっていたから、そっと息を吐く。
願わくば、もう一度彼女に会いたいけれど、怒られそうな気もするから、もう少しだけこの世界にいることにしよう。
なんて、柄にもないことを思いながら、あれが夢であったことをようやく理解した。
これは、そんな夢を見た話。
夢を見ていた。
辛くて、苦しくて、暗くて、何もかもが嫌になってしまうような、そんな夢。
でも、そっと目を開けたらここはとてもあたたかくて、優しくて。ああ、夢でよかったって安心したんだ。
母のような、姉のような、ともすれば親友のような存在だった。
ごめんね、こんな形でしか愛してあげられなくて。
夢じゃない。あなたが経験したそれは夢じゃないよ。
あなたはあなたの世界を生きなくちゃ。
嫌だ。この世界が私の世界だもん。
この世界はあなたが作った世界ではあるけど、あなたが生きる世界じゃない。
さあ、起きるのよ。目を開けて。怖がらなくていい。私たちはいつだってここにいる。また戻ってきてもいいから。だから、私たちを作ったあなたが私たちと同じ存在にならないで。