リビングの床は床暖房。床暖房は大変良い。私は今、パジャマを着て、着る毛布を着て、毛布をかぶって座布団を四つ折りにして枕にして、そうしてうつ伏せ気味にうずくまりつつ、スマホでぽちぽちやっている。
きのう、昨日の昼間、急に思い立ったように美容院を予約した。思い立ったようにと言うのは嘘かもしれない。ちょっと前から美容院の予約サイトを見ていたし。それでもなんだか急に、今、予約せねば! と言う気持ちになり半ば衝動的に、翌日(つまり本日)の14時〜で予約したのであった。
14時からとは、なかなか良采配。私のことをわかっている。本当は朝にそんな用事は済ませたかったが、私が休日の朝に起きるのが困難なことは理解していて、それで欲張らず、14時。賢い。偉い。天才。素敵。
そんでもって美容院に行きました。以前なら、美容院に行くときはもう少しマシな格好だったんですけれど、今日はもうすっぴん、1ヶ月以上ほぼ毎日着ているのに洗濯していないニットとスカート。これで行ってしまった。(シャツとかパンツとか靴下とか下に着るやつは毎日変えている)
この時点で、何か気付くべきだったのかもしれないが、私は「昔は若いから気を張って美容院だしと少し見た目を気にしていってたんだろうけれど、もうなんか自分の外見などどうでも良くなったんだろう。これが加齢なのかもしれない、知らんけど」なんて思ってとりあえず出た。美容院に着いても、何も感じず、施術である。
「雑誌お読みになりますか」
シャンプー、ドライヤーの後、しばらく淡々と無言でやってた美容師が私に声をかけた。声をかけたタイミングをよく覚えていないので違うかもだけれど。とにかく、そう言われて私は、
「いえ、いらないです」
と答えた。答えて、ぼーっとした。それまでの時間もぼーっとして座っていたが、それからもぼーっとして座っていた。向こうの席で髪の毛をなんらかの事情があり染めている中学生が「2年生に膝くらい長い女の子がいて、その子が毛先が明るくて」とか「中学入ったら私くらいの髪色の子結構いて、みんな、地毛なんかな。それとも染めとるんかな」とか言うのが聞こえてくる。
「聞いたらええやん、染めてんの〜って」
中学生の女の子と会話している美容師が言うと、母親らしき声が「この子が気にしてるから、こういうの気にする子やから、聞かれへんのです」とか言っている。
こっちの美容師と私は無言である。私はなんらかの事情により髪の毛を染める女の子の「剣道の練習はしんどくて嫌だけど、剣道はすき」とか「染めてるんかな、明るい子はどうなんかな」とか、そういうのに、なにかうるっときている。しかしこんな無言で髪の毛を切られている人間が、雑誌を読まずにぼーっと机の辺りを見て無表情の人間が、すっぴんの、なんかダサいし、靴もボロボロだし、鏡を見ると、私はマスクをしていた方がよく見える(マスクを外している)人間が、急に涙を流したら、美容師はびっくりするだろうなと思って、あまり女の子のことを考える方に思考を向けないようしにして、再びぼーっとする。
雑誌、雑誌を薦められたとき断ったのは、情報を入れたくないからであった。疲れる、文字なんて、見たくない。そう思って、それから、私はまあぼーっとしているのが好きだし、と本当かどうかわからない方向に思考を転がして。やがて「この後は春日大社に行こうかしら」なんて思ったのであった。(余談ですが、奈良は梅雨や夏に来るのは良くないです。ものすごくジメジメして暑いので、比較的冬がおすすめ。春日大社は冬場は凛としてよろしい)
「髪の毛乾かすのが面倒で」
「とにかくくくれる長さは欲しいが、できるだけ短く」
「くくった後にピョンと飛び出すのも嫌」
そういうことを言ってやってもらって出来上がった髪型で店を出る。ここまではよかった。
「ありがとうございました〜」と言って病院から数歩歩いたところでなんか腹痛がきたのであった。
腹痛だ、これは痛み止めを飲もう。そう思って自販機を探して歩くも見つからない。そうしている間に、なんか、なんだろうなんで痛みかな。今は温かにうずくまってたおかげでよくなって痛くないんです。痛くなくなるとどういう痛みだったか忘れてしまう。とにかく、痛くてふらふらと百貨店に入り、トイレに入り、少し座って、休んだ。座って休むとマシになる。マシになって出て歩くとまた痛くなる。あ、そうそう、トイレに入って生理だ生理だと思ったのであった。まあ生理だろうと思っていたので特に驚かない。今週の平日の睡眠不足もイライラも生理前の症状だったのかもしれないと、その時になって思う。いつも、何事も、過ぎ去ってからそうだったかもと気づく。毎回繰り返しているくせに学習しない奴め。なんて思いつつ、とにかく痛くて、吐き気もして、ふらふらと「の、飲み物……」とスタバに入った。飲み物は、薬を飲むために要る。別に水無しで錠剤を飲むことはできるのだが、流石に胃に何も入れてない状態で鎮痛剤を飲んだら胃がやばいと思ったのであった。そこら辺を計算する脳はまだ残っていたのであった。
スタバで「ほうじ茶ラテ」を頼む。メニューを見て、とりあえず一番なんか優しそうと思ったので頼んだ。そうして受け取って席に座り、両隣ともなんかかわいい女の子の二人連れ。その間で私ははあはあと死にそうな息をして、ほうじ茶ラテを啜り、啜り、啜り、こんくらい胃に入れればいいかと思って薬をパキり、啜る。熱いからなかなか量は啜れない。もどかしくなりつつ、啜る。
[母親がリビングでノートパソコンを開きワンピースのウィーアーの歌ってみたを流し始めたお陰で書きにくくなってしまった。日本語の歌詞は脳に意味を運んで私の思考を邪魔する。移動する。自室に来た。寒いが寒気のために換気のために窓を開けてそれから石油ファンヒーターをつける。腹には(正確にはパンツ)カイロを貼っている。カイロの温もりはいいですね]
吐き気と腹痛に苛まれながらツイッターにそのことを書く。スタバでゲロ撒き散らしたらどうなるんだろうと思う。思ってスタバを後にする。歩き出すと腹が痛む。生理痛かほんまにこれ、痛み止め飲んだのに痛いじゃねえか。
家から美容院へ来るときには歩いたが、もう今は出来るだけ歩きたくないので電車に乗る。電車に乗って最寄駅につき、比較的温くなったほうじ茶ラテを飲み干して捨てる。ポカリスエットを買いつつ、ホットポカリなんていいかもと思う。
駅から家への距離を、よろよろ、小さな歩幅で歩く。出来るだけ小さく、歩く。歩くと痛いが歩かないと着かない。休憩ポイントがあればいいのにと思いつつ、歩く。
家に着いて、マスクを外し手を洗いうがいをして服を脱ぐ。拘束具のブラジャーだとかタイツだとか、そういうやつを脱ぎ散らかす。そうしてパジャマに着替え着る毛布を着てリビングの床暖の床に丸くなって頬すり寄せてハアハアハア。荒い息をする。頭の中では「生理なんて碌なもんでない、今度こそこれが終わったら婦人科に行きピルをやろうぞ」と思うが同時に「おれは喉元を過ぎれば忘れるタイプだから、生理が終わったらこんなこと忘れてケロッとして、やらないんだろうな、大体、毎日薬を飲むなんて無理無理無理無理」とも思っている。バファリンルナが効かないとなると、ロキソニンを試そうとかそんなことを思いつつ、洗い息をする。リビングでは母親がパソコンで雨月(だっけ?)の動画を見ている音が聞こえて来る。うう、と体勢を変えた拍子に母親と目が合う。母はニヤとする。
「あーもう夕飯考えんのめんどくさい、何がいい?」
「餃子。餃子しか言わんぞ」
スーモだったか、なんだったか賃貸斡旋業者のCMで「お兄ちゃん実家出て一人暮らししようよ」「実家はご飯出てくるしサイコー!」「自立しなさい!」とか言っていたなと思い出す。サイコー、サイコー。ワハハ。床暖房はあったかいし、サイコーだよ。ワハハ。
うずくまっていると腹痛はおさまってくる。歩いてないからか、あったかくしているからか、薬を飲んだからか。私の顔、冷たいな。顔に手の甲で触れて思う。思って顔を床に擦り付ける。ツイッターをちらと見る。美容院で雑誌を前は見ていなかったのに今日は見る気にならなかった。ぼーっとするのが好きというのは違うかもしれない。ツイッターも、なんだか、情報を受け取る力が弱まったのか、受け取らなければいけないというツイートを見るのが苦しくなった。受け取らなければいけない? なんだろう、情報を伝えようとする意思が強いツイートというのだろうか。中の人間が伝えたいという思いがあるとあまり良くない。そんなわけで、ちょっと前からツイッターのフォロイーをミュートしたりしている。困ったな。みたい情報はあるのに見れない。でまあ、まだ間に合うか。なんて思いつつ、いまはミュートにしている。色々頭に浮かんでくるポロポロとした記憶の断片をつなぎ合わせ「私は疲れているのかも」なんて思う。でも、そんなのは、昔の記憶は、現在の感情によって好きに利用されて結論づけられるしなあなんて思う。
自室の、窓から入る風は冷たい。石油ファンヒーターからふく風は熱い。瞼は重い。腹は、今は、ベッドフレームに背中を預け床に座る今は痛くない。
美容院に行くときの気分が、よかったのか、悪かったのか、考えていたことがポジティブなのか、ネガティブなのか。ポジティブだと思い込んでいたのに本当はどうだったのか。思い出せない。
髪は内巻きに仕上げられ、普段とは違う匂いがする