話は謁見の間に全員居た頃までさかのぼる。
 アスカが出た後を追いかけるマルーとリンゴは、駆け足で道を引き返し、城門を抜けて橋を渡りきった。
「ここから森へは、どっちだっけ?」
「謁見の間に居たあたし達は、こっちを向いていたはずよ」
 そう言ったリンゴは城へ向き直る。確かにこの向きでリンカと相対していたような――考えているうちにマルーは自然と左を向いていた。
「あっ! あそこに居た!」
「えっちょっと!」
 突然駆け出したマルーが真っ直ぐ向かうのは、謁見の間で上から見た"妖精が住む森"へ歩いているアスカの姿。
「アスカさーん!」
 名前を呼んで彼女を立ち止まらせたうちにマルーはぐんぐん速度を上げる。一方リンゴは、マルーと対を成すように足取りがおぼつかなくなった。
「良かった、追いついた!」
「ちょっと、マルー! 足、早いんだってば! はあ、はあ……」
 先にアスカまで辿り着いたマルーが、脚を開いた立ち姿で両手を両膝について息を整える。そんな彼女に手を伸ばすリンゴが崩れるようにしゃがんだのを、アスカはまぶたをぱちぱちさせながら見ていた。
「――他の方達は」
「えっと……まだ、話し中だと思う。私達、もう我慢できなくて、あの後すぐリンカさんとお別れしたんだ!」
「そうですか。でしたら、このまま森まで一緒に行きましょうか」
 声色淡白にマルー達へ伝えたアスカは森へ向き直る。マルーも姿勢を正し、今回の依頼の現場を見据える。
「あれが妖精が住む森だね。リンゴ? もう休めた?」
「こ、こんな短時間で、休めるわけ、ないじゃない。それに! あたしは先へ行くより、皆を待ってから行くのが正解だと思うわ」
 立ち上がったリンゴがこう言い放つ。再びこちらを向いたアスカを鋭い眼差しで捉える様からして、確固たる信念を持っているようだ。その強さに気圧されてか、マルーは「確かにそうかも」と小さく呟いてからアスカの方を見た。
「アスカさんは、どう思う?」
「既に城から離れてしまっているので、森付近まで進んで人を待った方が、待機中に魔生物に追い回される危険性が下がります」
「あ、そうなんだ」
 恐る恐る聞いたマルーへ淡々と意見を述べたアスカは眉一つ動いていない――こちらも確固たる信念を持っている様子。
 互いの意見を聞いたマルーがしばし思考を巡らせた後、リンゴの名前を呼んだ。
「ここはアスカさんに従おう。あの森まで三人で行くよ」
「あぁ、そう。ならさっさと行きましょ」
 呆れたような口ぶりの後、二人より先に歩き出したリンゴ。森まで一直線にすたすたと行く姿は、疲れ切っていたのがまるで嘘のようだ。そんな光景を、マルーは目を丸くして見ることしか出来ずにいた。
「良いんですか? 追いかけなくて」
 隣で言ったアスカも、距離を離してゆくリンゴを眺めている。
「今の私達は、城からも森からも距離がありますから、もしもの時の避難が困難な状態です。今すぐ追いかけて一緒に居てあげてください」
「そ、そうだね。アスカさんも早く――」
「私のことはお構いなく。あなたとじっくりお話をしたそうでしたし」
「本当? ……分かった。アスカさんには悪いけど、お言葉に甘えて追いかけてくるね!」
 アスカに向け、両手のひらを合わせながら軽くお辞儀したマルーは踵を返した。
 未だ早足で歩き続けているリンゴ。マルーは彼女に追いつくべく、アスカを追った時よりも腕と脚を動かして全速力で駆けてゆく。
「リンゴーっ! 待ってよー!」
 そうして手が届く距離まで近付いたマルーは速度を落とし、彼女と肩を並べるべく歩を進める。しかし、リンゴは止まらない。よたよた歩きのマルーなど気にも留めず、歩幅そのままに森へ向かっている。無視を決め込む彼女に、もう! と憤慨したマルーはもう一度走った。
「リンゴってば、いい加減にして!」
 リンゴの目の前に現れたマルーはこう言い放った。
「どうしてそんなにツンケンしてるの? 全然リンゴらしくない!」
「そう?」
 いつも通りよ、と言いながらマルーを避けたリンゴはまたも独り歩き。すかさずマルーは追走し、ううん全然違う! と反論する。
「お城を出てから反応冷たいし、変に素直だし。さっきまでは、見返す! とか、負けてられない! とか言ってて気合い充分だったのに」
「それはそうだけど――」
 言葉の途中でリンゴが後ろに視線を向けた。マルーも同じ方向を見てみると、つい先程まで一緒に居たアスカが一人で歩いているのが分かった。これを視認するや否やリンゴが無理矢理マルーの背中を押し、再び森へ歩き始める。
「なんか、あの歳のくせして何でも知ってるみたいだし、戦いにも慣れてるっぽいし。どこか達観しててムカつくから見返したいし、負けたくないのに。今のあたしじゃ全然ダメって分かりきってるから尚更ムカムカして」
 はぁ、とリンゴの口から出た溜息で、強張っていた表情を少しばかり解く。
「こんな事考えてちゃ、あたしのダメさは変わらない。それなのにこんな事ばっかり考えてて。そういうあたしに、あたしはムカつくの」
「……そうだったんだ」
 うつむいたまま、マルーの一言を聞いたリンゴ。やがて顔を上げた彼女は、何故か表情に晴れやかさを帯びていた。
「あれ? リンゴ、何か良い事あったっけ?」
「良い事、なのかしらね。マルーのおかげで気持ちが軽くなったのって」
「本当!? それなら良かった!」
 屈託ない笑顔でマルーが言うと、リンゴも笑みを見せた。そうして微笑み合う二人の間を、木々の囁きを連れて風がそよいできた。その風は、二人の目と鼻の先まで近付いた目的地からそよいだものだった。
「ここが妖精さんが住んでる森だね!」
「いつの間に着いたのね」
「ほー、ここが目的地ねー」
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イセカイサイクロン『069話 妖精が住む森へ / 前編』23.1.13~1.16
初公開日: 2023年01月13日
最終更新日: 2023年01月16日
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今までサイト用ので書いてたんですけどごっちゃになってきたので、コピペを駆使してがんばります()
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