「そういえばさ、三年生って期末の最終日は何教科あるの?」
「うん……」
 投げかけた言葉に返ってきたのは明らかな生返事で、ボクは思わずため息をついた。
 昨日からずっとこうだ。ボクが屋上に来た時には先輩はもう本に没頭していて、結局下校時間になるまで先輩は本を読みふけっていた。
 分厚い本ではあったけれど、先輩のことだから明日には読み終わってるだろうと思ったのに、今日になっても先輩はまだその本に夢中だ。
 昨日帰るときに残り半分くらいだったページは、今日も同じくらい残っていて、家では読まなかったんだろうかと思うとなんとなく面白くない。屋上にいる時間は、先輩にとってただの暇つぶしなんじゃないかって気がして。
「ねぇ、先輩!」
 ちょっと強めに言ったら、先輩はようやく顔を上げた。
「ああ、ごめん瑞希くん。何か言ったかい?」
「……その本そんなに面白い?」
「そうだね、今月読んだ中では一番興味深いよ」
「にしては、昨日から進んでなかったみたいだけど」
「え?」
 きょとんと、先輩は目を見開いてボクを見る。そんな風にすると、先輩の琥珀色の目は大きな飴玉みたいだ。日の光に透けて、おいしそうに光ってる。
「ああ、これは下巻だよ。昨日のは上巻」
「――そうだったんだ」
 それだけで、少し満足してしまうなんてボクは単純だ。
「君は記憶力がいいね」
 フフ、と面白そうに言われて、なんだか居心地が悪い。
「少し失礼するよ」
 先輩は急にそう言うと、本にしおりを挟んでコンクリに置いて、そのまま屋上を出て行ってしまった。夢中になって読んでいた本を置いていったということは、きっとトイレにでも行ったんだろう。
 ――何読んでるんだろう?
 ボクは先輩が置いていった本を、そっと手に取って見た。
「……演劇…マネジメント論?」
 パラパラとページをめくってみたけれど、見慣れないカタカナ用語ばかりでとても面白く読めそうな気はしない。先輩がしおりを挟んだところも見てみたけれど、ちょっと読んで見ただけで意地の悪い読解のテストの課題文より目が滑った。
「全然わかんないや」
 ボクだってそこそこの読解力はあるはずなのにな……と思うとなんだか悔しい。いつもはレベルを落として話してくれてるんだろうかって、卑屈な考えが頭をよぎってしまう。
 と、そこに、急に階段を登ってくる足音が聞こえて、慌てたボクは本を取り落としてしまった。
 落とした本のページが風に煽られてめくれて、飛んで行きかけたしおりをボクはすんでの所でキャッチした。屋上の扉が開くのと、ボクがしおりを挟んで本を元の場所に置くのがほとんど同時くらいだった。
 ――危なかった……。 
 ボクが見せてって言えば、先輩は本を見せてくれるだろう。それどころか、嬉々として内容を説明してくれるかもしれない。
 でも、先輩があんなに夢中で読んでなければボクはその本に興味を持つことなんてなかっただろうし、先輩だってその本がボクが興味を持つようなものじゃないって分かってるはずだ。「見せて」なんて言ったら、いかにも先輩が読んでるものに興味があるんですって言ってるみたいで嫌だった。
 先輩はすたすたと歩いてきて元の場所に腰を下ろすと、待ちきれないとでも言うように本を手に取った。先輩ならしおりの位置が変わってることにきっと気づくだろう。
 先輩はしおりの位置を開くと、何事もなかったかのようにページをぱらぱらと進めて続きを読み始めた。気づかなかったフリをしてくれたのか、単に早く続きが読みたい一心なのか、どちらにしろ先輩はまた本に没頭してしまった。
 ――今日も話なんてできそうにないな。
 ボクはため息をついて、宿題を引っ張り出す。
「ねぇ、瑞希くん」
 それから10分くらいたっただろうか。急に名前を呼ばれてボクが顔を上げると、先輩がにこにこしながらボクを見ていた。
「……それ、読み終わったの?」
 ボクが見た限りではまだあと1/3くらい残っていたはずだ。いくら先輩でもこんな短時間に読める量じゃない。
「まだだよ。でも一番気になるところは読んだから、残りは帰宅してからにしようと思ってね」
「……ふぅん」
 今まで先輩があんなに夢中で読んでいた本を、それも終盤に差し掛かってから中断したことなんてなかった。――気を、遣われているんだろうか。
「この間読んだ本でね、瑞希くんが興味を持ちそうな本があったんだ。よかったら読んでみないかい?」
「ボクが、興味を持ちそうな本?」
 ボクがどんな本が好きかなんて、そんな話をしたことはなかった。正確には、会ったばかりの頃に何回かそういう話になったことがあったけれど、適当な返事しかしなかった。
「うん。舞台の演出について書かれた本なんだけれど、現代劇や時代ものではなくて架空の世界や想像上の生き物、動物なんかを衣装や小道具でどう表現してきたのか、その時代ごとの変遷を扱っていてね。図表も多くてなかなか興味深い内容だったんだ。どうだろう、読んでみないかい?」
「……へぇ。面白そうだね」
 ボクがそう答えると、先輩は見たことないくらいうれしそうに笑った。
「それならよかった。さっそく明日持ってくるよ」
 にこにこと言う先輩に、ボクは少し毒気を抜かれた気持ちで聞いてみた。
「なんでそんなにうれしそうなの?」
「最近、過ごしやすくなったし絶好の読書日和だろう?君と屋上で読書をするのも楽しそうだと思ってね」
「……まぁ、先輩がそうしたいなら」
「フフ、楽しみにしてるよ」
 先輩は単にボクに気を遣わずに読書に没頭したいだけかもしれない。でも、明らかにうきうきした風情の先輩を見ていたら、それでもまぁいいかと思えてきた。
 
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20:48
ななし@25acbe
こんばんは~執筆頑張ってください~
21:06
央野
ありがとうございます!なんとか0時までに終わらせたいです。
82:37
ななし@b46459
可愛いです!!!
91:40
央野
ありがとうございます!うれしいです。
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#ワンライ しおり
初公開日: 2022年12月10日
最終更新日: 2022年12月11日
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