目的地であるナチラン姫の居城に辿り着いた一行。その城を囲う水流に架かった橋の先には城の門番が一人立っていた。ミズキを目にしたらしいその人は一礼をし、門の脇に移動したのだった。
「姫から話は聞いております、ミズキ様! どうぞ、謁見の間へお進み下さい!」
「ありがとう。失礼する」
城の門番に挨拶を済ませたミズキは城内へ進み出た。
「同行無しに城へ入れるなんて、さすが世界を救った五大戦士だなー。俺も有名になれば、どんな城の出入りも自由に――!」
「何をしている? 早く来るんだ」
「へーい」
淡白に催促したミズキに軽々と返事をしたリッキー。先へと進む彼に対しランシーが呆れ気味に息をついた。
「リーダーったら、全然緊張感ないんだから」
「まあ、そこがリーダーらしいっすよね」
「私達も行きましょう。置いて行かれてしまいます」
アスカの言葉でシャークズが動き出した。
「私達も行こう。アスカさんの言う通り置いてかれちゃう」
マルーが率いるサイクロンズも、城門をくぐった。
門をくぐってすぐに広がったのは、外観と同じ白色の城壁と、吹き抜けのガラス天井。そこから取り込まれる陽の光が、城壁はもちろん、謁見の間へ続いているであろう朱色の敷物も、その横を彩る愛らしい花々もきらきらと輝いている。
そんな輝きに感化されてか、マルーの後ろで目を輝かせる者が一人。
「この景色こそまさに! お姫様が住んでいるお城だわ!」
「実際にお姫様が居るんだから当たり前だろ」
「ボールってば、夢が無いわね。こんな素敵な場所に心がときめかないわけ!?」
「ときめくも何も、お前は緊張しねえのか? これから一国を担うお姫様から直接話を聞くんだぞ? 失礼なことをしないように、とか考えねえのかよ」
「そんなの話が終わるまで静かにしていれば良いだけじゃない。緊張する必要がどこにもないわ」
言ったリンゴが鼻歌交じりに先へ進んでいく。
朱色の敷物が導く先は、ドレスを着ていても気にせず上り下り出来そうな広さを誇る階段。それを上りきった一行は、壁伝いに続く左右の通路を左へ。ぐるりと進んだ先、間仕切りとして垂れ下がっているレースをくぐると、右手にバルコニー、左手に大扉がある空間に到着した。
「どうやら彼女は、ここから外の私達を見つけて笛を吹いてくれたようだ」
先頭を歩いていたミズキは立ち止まり、バルコニーから見える景観に目を細める。彼女と同じ場所に立ってみると、青々とした草原と晴れた空が織りなすコントラストが目に飛び込んだ。
「ここからずぅーっと向こうにファトバルがあったって思うと、なんだか不思議な気分だわ」
「そうでしょう? この先には、ファトバルがあって、海があって、その先も、あらゆる景色が果てなく広がっているの。そして生命も、多種多様に存在しているのよ」
言いながら現れた人物は、ドレスの裾を引きながら一行の間を縫い、バルコニーへ進み出た。心地よい風にそよぐのは、毛先がふわりと膨らんだ黒い長髪。暖かな日差しが煌めかせるは、満開の花を点描によってドレス中に咲かせた小さな宝石達。
その後ろ姿に皆が釘付けであることを知ってか知らずかその人は、なんて、と言葉を続ける。
「こんな風に思わずにいられないのは、ミズキ達と五大戦士として旅に出られたおかげ……。ああ、想像しただけでまた旅に出たくなっちゃう。今すぐここから飛び出したいわ!」
「そんなことをしたら、家来や住民が大騒ぎするぞ」
「……まあ、そうよね。私はこの国・ナチランを治める姫なんですもの。もっと落ち着かないといけないわよね」
ミズキの言葉を聞いて落ち着きを取り戻した様子の“姫”は皆に向き直り、ドレスの裾を両手でつまみ、持ち上げては深々とお辞儀をしてみせた。
「ようこそおいでくださいました。私は、ここナチラン・ネイトを統治する姫、リンカと申します。この度は私の依頼を聞いてくださるということで間違いありませんか?」
顔を上げた姫――リンカは、コバルトグリーン色の瞳で二つのチームを交互に見つめた。それに飲まれたのか、サイクロンズのリーダーであるマルーは直立不動だ。
「ま、まま、間違いないのでありますですっ!」
「おいおい大丈夫かー? 新しく選ばれた戦士だってのに先が思いやられるぞー」
「だからリーダーはもっと緊張感持ちなさいって……!」
「あら、ずいぶん固まっちゃって。可愛らしいわ」
締まりがない口調をランシーに注意されるリッキー。一方でリンカは、固まったマルーを見てくすくすと微笑んでいる。
「リンカ、そろそろ本題に入らないか? 君の統治内の森で不審な動きが見られているんだろう?」
「――ごめんなさいミズキ。そうだったわ。だからミズキ自身と、ミズキとラビュラちゃんが率いる組織で結成させたチームを呼んだんだったわ。なら、広い所で話をしましょう。こちらにおいでください」
ミズキに催促されたリンカはバルコニーから離れると、自ら大扉を開け、一行を大扉の先へ案内した。
案内に従って到着した謁見の間は、左右から外の景色が分かるようにガラスが張り巡らされている。真っ白なタイルの上に敷かれた大きな朱色の敷物は、奥の玉座まで続いていた。
玉座は数段登った場所に位置し、朱色の暗幕を背に鎮座するそこへリンカは着席。一行も玉座を前にして、ミズキを先頭にそれぞれのチームに分かれて整列した。
「さて、あなた達にお願いしたいことをお話したいんだけど、まずはあなた達のお名前・チーム名を、それぞれのリーダーから伺おうかしら」
リンカがそう言ってすぐにリッキーが、はい! と返事をし、一歩前へ出た。
「俺はリツキ! シャイニングシャークズのリーダーをしてるぜ。後ろに居るのが、壁側から、ランシー、ブラス、アスカだ。ちなみに俺のことはリッキーと呼んでくれ! よろしく頼む」
深く頭を下げ、一歩後ろへ下がったリッキーがマルーに目配せをする。その視線の動きに合わせてリンカもマルーへ視線を移した。するとマルーの背筋がピシと伸び、からくり人形の如く動きでゆっくりと一歩前へ出た。
「わ……私達は、さっ、サイクロンズという名前で、チームを組んでまして! そのリーダーを、私、はしてます! まま、マルーと言いますっ!」
「うふ、マルーさん? あんまり固いと疲れてしまうわ。深呼吸して」
リンカが深く息を吸う動作をみせて、マルーに深呼吸を促す。
「すー……、ふー――」
「すー――」
「はぁ――」
「ふ~――」
お前らも固まってたのか、というリッキーの呟きは気にも留めず、サイクロンズはリンカと共に深呼吸。
「――少しはほぐれたかしら?」
「はい。なんとか。お姫様に会うのは初めてだったので、つい緊張しちゃって……」
「そうよね。私も他の国の重鎮と面会する時はいつも緊張するわ。この国の顔として面会するから、粗相が無いように常に気を配らなきゃいけなくて。一人で居る時しか緊張を解く機会はないかしら――あ、あとミズキとか、一緒に旅した皆と会ってる時は肩の力を抜いていられるわ!」
うふ、とリンカはミズキに向かって笑う。笑顔を向けられたミズキは目をそらしつつ人差し指一本で頭を掻いていた。
「それで、マルーさんの仲間のお名前は?」
「はい! リンゴと、ボールと、リュウです! よろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね。じゃあ今回の依頼内容をお話ししましょう」
そうして座り直したリンカは強く息を吹き、口を開いた。