*ルール*
「どこまでも、まよいみち」様の三題噺スイッチ改訂版【
https://mayoi.tokyo/switch/switch2.html】を使用。お題を回す→書く→お題を回す、の無限ループ。書けなくなるまでやります。
早速回していくぞい!ちょっと待って。
影
賢い
飛行機
賢い賢い子犬のトムは、散歩の途中で自分のまわりがふっと暗くなったときは、飼い主が側に近付いてきたのだ、とすぐにわかる。尻尾を振って振り向けば、ほらやっぱり。にこにこ笑う飼い主が、トムの頭に手を伸ばしている。
この日もいつもと同じように、ふっと暗くなったものだから、振り向いてみれば……白い太陽を遮ったあの影は、いったい何だったのだろう。遠く響く音を残して過ぎ去る飛行機を、トムはじっと見つめていた。
秋風
呉服屋(人)
包帯
うだるような暑さが続いたかと思えば、いつのまにやら山がすっかり色付いていた。通りをぴゅうぴゅう吹く風にも、冬のにおいが混じりつつある。せめてもうすこしだけ、秋風のままでいてくれよ。卯吉は、お店の前をさっさと箒で掃きながら、西の空へと目を向けた。
赤く空を燃やしながら、お天道様がゆっくりとその身を山の向こうへ沈めていく。……その瞬間、卯吉は己の目を疑った。ほんの一瞬だけ、お天道様が緑色に光ったような気がしたのだ。
「……いけねえや。逢魔が時って言うしな。変なもんを見ちまったかもしれねえ」
卯吉は軽く頭を振って、それから箒を肩に担いだ。そろそろ店じまいかな、と考えながら店の中へと足を向ける。普段よりかはいくらか早い時間だが、今日は売れ残りのぼろ切れの処分もしなくてはならないのだ。さっさと済ませてしまわなければ、かみさんに何を言われるかわからない。
その背中に、低くしゃがれた声がかけられた。
「……もし、呉服屋さん。もう店じまいですか」
「んあ? ああ、変なもん見ちまったからな。悪いが明日にしちゃくれねえか」
「……いえ、そういうわけにもいかんのです。だって、あなたは見てくれたのですから」
「……あんだって?」
卯吉は、くるりと振り向いた。お店の前に立っていたのは、全身をぐるぐると包帯に巻かれた男。かすかに包帯の間から見える皮膚は焼けただれていて、ぎょろりと光る大きな目は、赤く血に染まっていた。
「服を、いただけますな」
「あんた、何をそんなところで寝てんだい」
「はっ!?」
卯吉が目を覚ますと、かみさんが呆れた顔で見下ろしていた。
「あれ……いや、得体の知れない包帯のバケモンが……」
「はぁ? いったい何を言ってるんだか……それよりなんだい、捨てに行くならわざわざひとつ残さなくたっていいじゃないか」
「……んあ?」
かみさんの視線の先には、がらんとした土間の一角。ぼろ切れが積み上がっていたはずの場所には、見覚えの無い一本の包帯が、畳んで置いてあったのだった。
空
泣く
ボール
「雨が降る様子を、空が泣いている、なんて表現するときがあるけどさ」
「うん」
「空が泣くと雨が降るなら、じゃあ空が怒ったときは、何が降るのかな」
「槍じゃないかな」
「それじゃあさ」
「うん」
「あれは、いったいなんなんだろうね」
「うーん……遊んでほしい、とかかなぁ」
見上げた先には、空を埋め尽くす野球ボール。
なお、硬式。
「殺意が高すぎる……」
山
手品師
宇宙船
星を見ようということで、皆で夜中に学校の裏山に登ることになった。
ところが全員虫除けを忘れていたので、それはもう大変なことになった。懐中電灯めがけてワラワラ虫が寄ってくる。手足をこれでもかというくらいに、刺されて噛まれてかゆくなる。結局、裏山のてっぺんまで続く道を、半分も進まずに引き返すことになった。
僕と、田中以外は。
「いくぞ!」
「おう!」
意地があるのだ、男の子には! ……というわけではなく、単に二人とも蚊に食われにくい体質で、かつ、虫が苦手ではなかった、というだけのことだ。
「いてっ。あ、カナブン!」
田中が額にぶつかった何かを捕まえて、歓声をあげた。一方僕は黙って足を運び続ける。できる男は寡黙なものなのだ。そうじーちゃんが言っていた。ときどき面白いマジックを見せてくれる、かっこいい手品師のじーちゃんなのだ。僕は、けっこう憧れている。
「おい、田中、ついたぞ!」
すっかり手の中のカナブンに夢中になっていた田中を、僕は肘で小突いた。我に返った田中といっしょに、裏山のてっぺんの広場で、懐中電灯を消し、じっと空を見上げた。
「すげーな……」
「うん、すげー」
「星、でっけーな」
「うん、でっけー」
「……なんかさ」
「うん」
「でかすぎねーか?」
ほら、あれ。と、田中が指を差す。なるほどたしかに大きい気がする。具体的に言うと、月くらい。
「いや絶対おかしいやつじゃん!」
「つーかどんどんてっかくなってねぇ!?」
僕らが異常に気付いたときには、その星はもう空を覆うほどに大きくなっていた。いや、そんなに大きく見えるくらいに、僕らに近付いてたのだった。
それは星ではなく、煌々と輝く――。
「――う、宇宙船だぁ!」
こうして僕たちは宇宙人にさらわれ、人体改造によって人知を超える超能力を手に入れた。それによって僕は、文字通り種も仕掛けもないマジックを披露する魔術師として、憧れのじーちゃんの芸名を継ぐことになるわけなんだけど……その話はまた、別の機会に。
豌豆
銀色
織機
服がなければ人は生きていけない。そして服だけでなく、生活においては非常に大量の布製品が必要になる。だから、効率よく布や糸を作れる織機や紡績機の質は、工業化を進めるにあたって、非常に重要になってくるとかならないとか。
産業化のための第一歩なのだ。繊維産業というものは。
「しかし、それ以上に重要なものもある。それが――」
力説した私に向かって、男が長く息を吐いた。葉巻の煙が流れて、私たちの間にあったささやかな空間を埋める。
「――力だ」
私は知っている。
彼が私に向ける道具に込められた銀色の豌豆豆は、私の心臓を容易く射抜けることを。
星影
付録
本
「かがく」の本にくっついていた、手作りプラネタリウムの付録。ガタガタのキリトリセン、ズレたセロハンテープ。失敗作のガラクタは、それでも僕の宝物。押し入れの中で明かりをともせば、ほら。世界のすべてを覆い隠す、誰も知らない僕だけの星影。
波
聖職者
ワックス
俺には職人としての誇りがある。清掃業など賤業だと馬鹿にされることが多いが、まったくそんなことはない。こんなに素晴らしい職業はない、聖職者にも匹敵する素晴らしい仕事なのだと、俺は胸を張って言える。
今日も今日とて燦々と輝く太陽のもと、俺はせっせと床を磨く。おかげでここらはどこもピカピカ、スカートを履いた女性が通れば、もれなくその下が反射して見える――。
「なーにが聖職者に匹敵だこのバカ!」
昭和のラブコメのようなノリで、厄介な幼馴染が俺の頭を強打した。俺はおもいっきり顔面から床に叩きつけられた。地面とキスをするハメになってしまったが、我が手で磨き上げた床だ。全く汚くないから気にしない。
「あいさつがハードすぎませんか」
「床を鏡面仕上げになるまで磨くバカがあるか! 女性客が寄りつかなくなるだけだろうが!」
「おうふ」
抗議の声には耳も貸さず、口調の荒い幼馴染が俺を何度も蹴り飛ばす。ドスドスとリズム良く蹴られるおかげで、俺の体はぐわんぐわんと波打つように跳ねていた。すごく痛いが、まあいいだろう。
俺を蹴り続ける幼馴染は、スカートを履いていたのだから。
なんかこう、もうちょっとちゃんとしたものが書きたい。次。
蛙
命令
ベーコン
「今日の晩ご飯は蛙モモ肉のベーコン巻きにしろ!これは命令だ!」
お題を全て一行のセリフで回収するという三題噺にあるまじき暴挙に俺はブチギレた。晩飯の材料にされかけた哀れな蛙を手に、ボスの制止を振り切って窓から街へと脱出する。ここは三階だったが、なんとか両足を複雑骨折するだけで済んだ。
「ぐあああっ! か、開幕絶体絶命……!」
一体どうすればいいのか。激痛に脂汗を滲ませる俺の手の中で、蛙が鳴いた。
「ケロケロ。救急車。救急車」
蛙のナイスアドバイスによって、なんとか俺は一命を取り留めた。さすがに救急車両や病院を襲撃することはできないようで、ボスの魔の手も伸びてこない病院の一室。俺は手の中の蛙に話しかけていた。
「ありがとうよ。お前にも何かお礼をしなくちゃなぁ」
「ケロケロ。ベーコン。ベーコン」
どうやらこの蛙は謝礼にベーコンが欲しいらしい。俺は車椅子で病院の一階にあるコンビニへと疾走し、ベーコンレタスバーガーを買って病室へと舞い戻った。命を救ってくれた蛙の命令を、無視する理由がなかったからだ。
「さあ、受け取ってくれ蛙君。……はっ!」
そこで気付いてしまった。なんということだ。またお題が回収されているではないか。
「ふざけんな! こんなふざけた三題噺があってたまるか!」
しかし書けないものは書けないのである。人間潔く負けを認めるべき場面というものがあるのだ。俺ことヤギチュールには、この三題で面白い話を書くのは無理だった。その事実をしっかりと認めた上で、ここはしめやかに伝統的なクソ作品の締め方に則って、幕を下ろす必要があるだろう。
俺は、病室のベッドの上に佇む蛙のケツの穴に爆竹を差し込んだ。
「蛙爆弾だ!」
火薬と蛙が爆発する。豪華に包まれる病室で、俺はダイイングメッセージ代わりに床に「了」と書いたのだった。
<了>
やっぱり頭の悪い文章を書くのは楽しいわ……。脳じゃなくて心で書いてる感じね。うん。
おつかれさまでした、俺。おやすみなさい。