傍観の語り部 (一人称)
八戒って、背がデカいからどこにいても目立つんだよな。そう思いながら、数人越しに八戒のポニーテールを眺める。剃り込みの模様も、模様と同じまん丸のピアスも、紺色の髪の毛も、ヘアスタイルも、全部目立った。すげー高いとこで結んでるから、首がもっと長く見える。つい、自分の首筋に手を触れた。
あんなに長くない。それはそう。
声をかけようとしたけれど、声をかけなかった。のは、隣に三ツ谷君の姿を見つけたからだ。三ツ谷君は今日は髪をセットしてて、刺青の、龍の尻尾が見える。三ツ谷君は髪、おろしててもカッケーけどやっぱビシッてキメてるとより風格あってカッコいいんだよね。
ガラケーが鳴って、開くとアッくんからの電話だった。どうしたんだろ。通話ボタンを押すとチョットテンション上がったアッくんと、後ろからデカい音楽が流れてくる。
「──うん。暇、どこのカラオケ? わかった、すぐ行くね」
アッくん達との集合場所は、真っ直ぐ行って次の信号横くらい。皆もよくいく店だから、八戒も三ツ谷君もおんなじ店行くのかな。八戒声でかいし何気にいい声で、三ツ谷君はオレとおんなじような背丈なのにオレより声が低い。いい声だと思う。男のイロケ! って感じ。
そういえば千冬も声低いや。小さいと声高いもんだとばっかり思ってた。千冬もアッくん達といるのかな。アイツ、一回マイク握ると離さないから空気ヘンになる前に止めてやんなくちゃ。
……八戒と三ツ谷君。二人でカラオケ行くなら、なに歌ってんだろ。八戒はなんとなく想像できるけど、三ツ谷君は未知。何歌ってもサマになるだろうし、……二人、かあ。
三ツ谷君の手から八戒にアイスが渡る。駅前の自販機で売ってるやつ、買ったんだ。スティックの部分に見覚えがある。三ツ谷君の手から離れて八戒の手に辿り着いた瞬間、アイスは小さくなった。
八戒の手は、デカい。さっきから、「デカい」って言葉ばっかり浮かんじゃうから頭をブンブン振った。
隣にいる時だとか千冬と三人でいるときはそんなに気にならないのに。距離を置いて、離れて見るとびっくりしちゃうんだよね。八戒の背の高さと、体付きの良さと、顔の良さ。今顔見えないけど。
見たら、うわ〜……顔ちっちゃ〜……鼻高い彫り深い〜……、ってまた頭振ってみる。雑念が消えない。
地面を見ながら瞬き三回。もう、八戒の事は考えないにしよう。ナンカ、ペースが狂う。三ツ谷君とどこ行くかとか勝手に想像すんのやめよう。勘繰るみたいで良くないよな。いや、友達とその友達にナニ勘繰るんだ? オレ。
灰色のコンクリートの粒々のとこまで凝視してたら、汗が鼻先に垂れてきた。後頭部が熱い。店着いたら、パフェかなんか、食お。ズボンのポケットに両手突っ込んでから顔をあげる。
「……あ」
三ツ谷くんの頬と、八戒の頬が重なった。重なってすぐ、八戒の頬は真っ赤になって赤いの、耳の端まで広がる。三ツ谷くんは八戒の首根っこ掴んでて、手の甲に筋が浮き上がってる。八戒の手は行き場がないみたいで、食べ終わったアイスのゴミ握りしめて、宙に浮きっぱなしだ。
喧嘩なら、「八戒なにしてんだよ」って飛び出して「三ツ谷君怒らすなんて逆に器用だよ」なんて茶化して、そんで、ついでにカラオケ誘って、アッくん達とも合流して──なんて、都合のいいこと考えながら、口を手で抑えた。
真っ赤になった八戒と、薄い三ツ谷君の唇。喧嘩じゃない二人の息遣いが、聞こえた気がした。
終わりです