「……やってしまった……」
仕事の合間、気分転換に景趣をあれこれいじってるうちに、景趣装置が動かなくなってしまった。
タッチパネルをあちこち触ってみるも、画面がフリーズしたままうんともすんとも言わない。
困った時は再起動、を合言葉にコンセントを無理矢理引っこ抜いて差し直してみた。……が。
「……電源入らない……」
……そのまま起動しなくなってしまった。
「ああ……これ完全に壊れたよね……」
本当にうんともすんとも言わなくなってしまった景趣装置の前で頭を抱える。
決して、決して雑に扱ってたわけではない。それは声を大にして言わせてほしい。……いや今さっき無理矢理コンセント引っこ抜いたな。
いやいや、それは機械が動かなくなった時によくやる手段だから。この本丸もそこそこ長くなったし、装置の寿命が来てしまっただけだ……ということにしておこう。
ちなみに、一応まだ時間帯としては昼間。なのに外は薄暗い。……というのも。
「なんで花火の景趣で固まっちゃったんだよ~!」
軒下に吊るした「花火」の木札がそよ風で揺れる。
景趣装置が動かなくなる直前に選んでいたのは、昼も夜も外が薄暗くなってしまう、花火の景趣だった。
すぐにこんのすけに連絡したけど、景趣装置が直るのは最速でも明日になると言われてしまった。
外をちらっと見ると、庭に洗濯物が干してある。そういえばさっき堀川が干してくれてたな……というのを思い出してますます申し訳なくなってしまった。
「外が薄暗いまんまだと、洗濯物乾かないよね……」
なんとかならないかとまた景趣装置を触ってみたけど、相変わらず起動すらしない。
せめて起動さえしてくれれば……と思ったけど、その希望すら儚く散ってしまった。
そろそろみんなが「何かおかしいな」と気付き始める頃だろう。これは正直に説明するしかないな……と、大広間にみんなを集めることにした。
あーあ、気が重いったらありゃしない。なんでこんなことに……と大きな大きなため息をつきながら、第一村人ならぬ第一刀剣男士を探して廊下をとぼとぼ歩き始めた。
「ま、壊れたものは仕方ないでしょ。わざとじゃないんだから誰も怒んないよ」
そう言ってくれたのは初期刀にして最高の相棒・清光。あたしが半泣きで「清光ありがとう……!」と抱きつくと、清光は笑って頭を撫でてくれた。
大広間に集まってくれたみんなも、その通りだとうなずいてくれてる。うちの刀剣男士優しすぎない?
「洗濯物は部屋干しするから大丈夫ですよ」と堀川。この後和泉守は干し直すのを手伝わされるらしい。あたしも手伝おう。
それはまぁなんとかなったとして、明日景趣装置が直るまではこのまま。さてどうしようかと頭を悩ませてたところで、「それなら!」と一際明るくて高めの少年の声が響いた。
「明日までこの景趣のままなら、今日は花火大会にしましょう!主様、どうですか?」
パン!と手を叩いて笑顔を浮かべながらそう言ったのは物吉。その提案にみんなが「それいいね!」「楽しそう!」と次々に乗ってくれる。
秋田が「僕、流しそうめんもやりたいです!」と新しい提案をしたり、朝尊が実験用に作った花火を打ち上げたいとか言い出して肥前に止められたりして、大広間がどんどん賑やかになっていく。
──すごい、トラブルがあっという間に楽しいイベントに変わってしまった。物吉の提案ひとつで、だ。
「……へへっ、ありがとう物吉」
こういう時の物吉の存在のありがたさを噛みしめながらお礼を言うと、物吉も笑ってくれた。
「どんなことも、捉え方次第です。そう思えば、毎日が楽しくなって笑顔になれます」
ボクは主様の笑顔が大好きですよ、とまた物吉が笑う。みんなから見えないように繋いだ手が暖かくて優しくて、胸の内に温もりがじわりと広がっていった。
花火を打ち上げるのは完全に日が暮れてから。それまでに準備だとみんな忙しく動き始める。
そうと決まったら、と山伏と祢々切丸が山に竹を取りに行った。ホントに流しそうめんをするつもりみたい。あの2振りのことだし、とてつもなく長いのを作りそうだな……。
次郎太刀と日本号は「酒だ酒だ!」といつもの調子で万屋に酒を買い足しに行っていた。すれ違った時に「今日は主も飲むんでしょ!?」と次郎太刀に訊かれたけど、前に酒の席で盛大にやらかしたから遠慮しておこうと思う。
……まぁその盛大なやらかしがあったから今があるんだけどね!?今考えてもみんながいる酒の席でいきなりキスするのは痴女でしかないな!?
そして、そういうあたしはというと。
「主、苦しくはないですか?」
「うん、大丈夫」
篭手切の手を借りながらきゅっと帯を締め、鏡の前に立つ。浴衣着たのなんて何年ぶりだろう。普段も巫女服や着物じゃなくて洋装だし。
……特に、髪色と目が物吉の色に染まって以降、似合う服がガラッと変わっちゃって、その時に昔の浴衣も処分しちゃったんだよね。だいたいどこに行っても目立つから、あまりあちこち行かなくなっちゃったし。
髪も上げましょうか、と篭手切が櫛でとかしてくれる。最近、髪質まで物吉に寄ってきたのか、まっすぐのストレートだったはずの髪に、少しゆるいウェーブがかかるようになってきた。多分これ、切ったら思いっきり跳ねるな……と思って、美容室の予約をキャンセルしたのが1ヵ月前のこと。
手際よく篭手切が髪をセットしてくれて、最後の仕上げにかんざしを挿してくれる。浴衣と合わせて買った花のかんざしが、淡い橙色の髪によく映える。
「ふふ、物吉さんの驚く顔が楽しみですね」
鏡越しに篭手切が笑った。つられてあたしも笑って「そうだね」とうなずく。
──さぁ、そろそろ日も落ちてきた。花火大会まであと少し。
「主様、そろそろ時間ですよ」
部屋で一人、最後の仕上げにと軽く化粧を整えていると、部屋まで物吉が呼びに来てくれた。
すいっと唇にリップを塗って顔を上げると、驚いた顔した物吉と目が合う。
「へへっ、どうかな?」
ちょっと照れもあってはにかみながらそう言うと、後ろ手にドアを閉めた物吉からふわりと抱きしめられた。
「……とても、とても綺麗です。誰にも見せたくないくらい」