「燈子は太陽みたいだね」
そう言っていた夕陽色をした彼女は、「こっち行こう」と向日葵畑に分け入った。
出遅れた私は慌ててあとを追ったけれど、しばらく進んでも彼女は見当たらない。
一度足を止めて背伸びをする。少し低めの向日葵が植わっているけれど、それでちょうど顔が出るくらいには大きい。
ちょうど夕暮れ時だった。まるで向日葵が燃えているかのような景色が見える。
だけど辺りを見渡しても、彼女の姿はどこにもなかった。あの元気な跳ねっ毛も、向日葵の背丈に隠れてしまってる。
おまけに今日は生憎の風があり、どの向日葵も風に揺らされて心地よさそうにしている。
――さぁ、と血の気が引いていくのを感じた。
私は夕陽を背に、向日葵の向く方向へと走り出す。
……冷静な部分は、大したことじゃないと分かってる。この向日葵畑は広いと言っても、いざとなれば迷子センターもあれば一緒に来た車に戻ってもいいし、なんならスマホもある。
なら、この不安は、足を衝き動かすほどの焦燥は、なんなのだろう。
あぁ、きっと、この夕焼けと向日葵を見たからだ。
侑と同じ色が世界を染めてるから。鮮烈で眩しい色が。
まるで侑を溶かしてしまうみたいに。
足が回る。一層早く。向日葵の向く方へ。
向日葵は、太陽の動きを追うように花が回る。だから日回り。
だけどそれは生長するまで。生長に伴う茎と葉の運動は花が開く頃には偏り、東しか見なくなる。
――ねぇ、侑。
私を太陽みたいだと言ってくれた君は、本当にずっと私を見てくれる?
変わりゆく私を、見なくなったりしない?
普段はそんなこと絶対に考えない。私は私で、侑は侑。お互いの人生を歩む中で、一緒に歩いていけてる。そう実感できてるから。
だから大学も別々のところを選べた。サークルやバイト、友達、それぞれに交友関係を持つことにも異存はない。
けれど今は。全てを染める夕陽が、太陽に背く向日葵が、離れていった君が、不安を呼び込む。
分かってる。分かってるのに。
そうしてどうしようもない感情に駆り立てられて向日葵の中を進んでいた私は、やがて緑の外に出る。
そこに、彼女はいた。
夕焼けに溶けゆくのを待つようにして。
「――侑」
「燈子」
振り返った彼女は、夕陽に染まりながら小さく笑う。
それが本当に溶けてしまいそうだったから、思わずその手を握った。
「……帰ろう。一緒に」
どんな顔を私はしてたんだろう。
侑はいつものように優しく微笑んで、「そうだね」と頷いた。
そんな私たちを、向日葵はじっと黙って眺めていた。