新しい公演のメイク合わせをする時、司先輩は俺に口紅を選ばせる。赤、ピンク、時には紫色まで。色の多さに時々目が眩みそうになる。
「ねえ基弦、どの色がいいかしら」
「この……濃いピンクはどうですか」
「これ?」
 俺の選んだ口紅を手に取り唇に塗る姿は見慣れたものだ。舞台メイクに合わせて唇の輪郭を取りしっかりと色を付けた司先輩が俺を見つめている。
「どうかしら」
「似合ってますよ。そういや前から気になってたんですけど、どうして俺に口紅選ばせるんですか」
 身なりにこだわりの強いロードナイト生が人に化粧を委ねるなんてそうそうないことだ。司先輩は先輩方から自分に似合う化粧を教え込まれているし、先輩自身研究していることを良く知っている。それなのにどうして俺に選ばせるのだろう。
「あら、鈍いのね」
 ころころと笑う司先輩についむっとしてしまう。これでも察しがいいと言われる方なんだけどな。
「だってあなたは私のパートナーなのよ。パートナーに一番美しいと思われる華でいたいと思うのは当たり前でしょう」
 そう言って笑う先輩がとても綺麗に見えて言葉に詰まる。なんというか、この人ジャックの俺より口説き文句上手くないか。
「基弦、あなたも私の一番かっこいいパートナーでいるのよ。いいわね」
「もちろんですよ。女王さまの仰せの通りに」
 他クラスのジャックエース達を思い浮かべつい顔がひきつりそうになりながらも優雅に応える。ロードナイトのジャックエースの矜持にかけても、先輩の言葉に応えるためにも無様は晒せない。
「ささ、あなたのお化粧も直すわよ。たまには冒険しなくちゃね。真っ赤な口紅ネタなんてどうかしら」
「レビューじゃないんですよ!? あ、ちょっと司先輩顎掴まないでくださ……っ」
 一度やってみたかったのよね、と言いながら俺を思う存分化粧した司先輩は満足げに笑っていた。……その化粧が似合っている上に華やかだったせいで複雑な気持ちになったのは俺だけの秘密である。
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