立花くんのジャックは少年のようで、それなのに時折ぎょっとするほどの色気を感じることがある。不覚にもときめいてしまう……なんて本人にはちょっと言えないよね。
「アキカさん、ボクのことちゃんと見てる?」
「……カット。役に入り込むのも良いけどちゃんと抜けなきゃね」
誘惑するように迫ってくる立花くんのおでこをつつくとようやく我に返ったみたいでバッと離れた。顔が真っ赤なのがまたかわいい、なんて。
「す、すみません!」
「いいよいいよ。次はプレイボーイな役なんでしょ。雰囲気出てるよ」
「それなら良いんですけど……」
こんなに真面目な子がプレイボーイになるなんて凄いギャップだ。何人の女の子達が立花くんに夢中になるんだろう。
「ほらもう一度やってごらん」
「……、こんにちはオネーサン。ボクと楽しい時間を過ごさない? 退屈はさせないよ」
「どんなことをしてくれるのかな」
アドリブを投げてみると立花くんは少し目を瞬かせて笑った。この子はこういうときに良い顔をする。私はその顔を見るのが一番好きなんだ。
「オネーサンが望むことならなーんでも。お付き合いしますよ、ボクのオヒメサマ」
「ふうん、じゃあキスしてよ」
「えっ!?」
「ほら、なんでもするんでしょ」
自分の唇を指差して見せると立花くんの顔がさっきよりも赤くなって慌てている。私が引かないとみたのか立花くんは覚悟を決めたように私の頬に手を添えた。
「はい、ストップ。良くできました」
唇が触れる手前で中断すると立花くんは安堵の息を吐いてしゃがみ込んだ。耳まで赤い。ウブだねえ。
「こ、このままキスしちゃうのかと」
「舞台でのキスの仕方習ってない?」
「……あ」
そう見えるようなやり方を上級生から教わっているはずなのにわすれていたらしい。このあたりは要指導かな。
隣にしゃがんで立花くんの顔を覗き込む。まだ照れているのがかわいくて、つい意地悪をしたくなってしまった。
「お疲れ様、立花くん」
ちゅ、と頬にキスして立ち上がる。挨拶程度のものだけど君には刺激が強いかな。
「あ、アキカさんの方がプレイボーイです……!」
今日一番の顔の赤さに私は笑いを堪えきれず、何事かとやってきた塾長に珍しく怒られてしまったのだった。