いつも通りの演技レッスンのはずだった。立花がジャンヌで、俺がジャック。よくある恋愛物のなんでもない駆け引きの場面だ。真剣な表情で台詞を言い合い、動きも付ける。
『あら、あなた意気地がないのね』
『俺が?』
『おわかりにならないの?』
 生意気なご令嬢の手を掴んで引き寄せる。立花の軽い体はあっさりと俺の身体にぶつかるようにして抱きついてきた。
『わかりませんね。教えてくださいよ、お嬢さん』
 意地の悪い表情をつくって見下ろすと立花は固まっていた。台詞を忘れたのかと思ったが違うらしい。蜂蜜のような目が揺れて俺を誘うようにゆっくりと瞬いた。
「俺だって男だよ。……立花」
 台詞を一つ飛ばして言う。いや、もう台詞じゃないな。本気の言葉を乗せた唇で目の前の口を塞いだ。柔らかい甘さに離したくなくなる。何度したって足りないだろう。
「台詞言えなくなっちゃいます」
「今更だろ、なあ」
 お嬢さんより熱い目で誘っておいてそんな言い訳は聞けない。形ばかりの言葉を消すように俺は何度も何度も立花に口付けをした。
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初公開日: 2022年09月24日
最終更新日: 2022年09月25日
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