〆切間近、なのに捗らない進捗。そして現実逃避のようにやってしまう部屋の掃除。
 その中で、見たくないものを見つけてしまった。
「……うわ」
 ジャンパースカートとワンピース。一方は一度だけ、そしてもう一方は結局袖を通さなかった代物だ。
 即座に当時の記憶が頭を殴りかかってくる。
 錬磨先生のサイン会での記憶。ついでに槙くんとの会話も。
 うぐぉ、と潰れた悲鳴を上げてそれらを放り投げ、のた打ち回る。もうすっかり黒歴史の一部だった。
 憧れが過ぎて夢見てた、なんて恥ずかしいにもほどがある。当時以上に今振り返ってる方が恥ずかしい。
 いや、確かにあの経験を経て私の小説への情熱は一層増したと思う。今の私を構成している一要因なのだから、不要なわけじゃない。
 だけどそれはそれとして、なんであんなことやったり考えたりしてたんだあの馬鹿は、という後悔と羞恥その他諸々の感情はある。それはそれ、これはこれ、だ。
 しばらくジタバタ悶えて、一頻り衝動を発散して倒れ伏した私は、目の前に迫っていた慣れない服を両方指でピンと弾く。もちろんそうしたところで皴が寄るだけ。
 こうしたフリフリでかわいいのは私向きじゃない。落ち着かないし。今でも積極的に着たいとは到底思えない。
 でも、今こうして当時のことを振り返ってみると、恥ずかしさで死にそうでありながらおかしくも感じる。
 一体私は錬磨先生にどう見られたかったのだろう?
 いつものズボンスタイルじゃなくそうした服を選んだということは、そんな私を見て欲しいと思ったからなんだろう。そのままの私じゃなく。
 だったら私は、ごく一般的な女の子に見られたかったんだろうか。
 スカートを履くようなかわいい女の子に?
 その時は自覚していなかったであろう内心を思い、力なく笑う。
 けれど、慣れない格好をするほどの気持ちを否定はできない。
 無自覚であれ、当時はそれこそが本当だった。それだけのこと。
 今の私が、あとから「馬鹿だな」「青いな」と思っても、その時を否定する権利は、今の私にもないのだから。
 ……昔は若かった、というのは、決して過去の切り捨てにはならない。
 少なくとも私はそう思うのだ。
 脱力していた体に力を込めて起き上がる。本棚の隅に挟み込んでいた物を引っ張り出し広げると、懐かしい文字の羅列が飛び込んでくる。
 それは最初にやった劇の脚本。
 侑に誘われ、錬磨先生と会い、完成できた作品。
 はらりとページを捲る。
 今見直すと、どうしても粗が目に付いてしまう。台詞回しだったり、展開のさせ方だとか。もっとよくできたなー、とも。
 だけど、今でも面白い。
 そうやって一通り目を通した私は、脚本を机の脇に置いてパソコンに向かう。
 ……ちょうどいい。このシーンにこれは使える。
 初心を取り戻した私は、まずその青さを書こうとキーボードを打ち始めた。
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