あまあまサン武 試し書き
「ねえ春千夜君、ああいう紹介は止めてって言ってるよね?!」
「あー、はいはい。そうだな」
「もう、絶対分かって無いでしょ?!」
はあ、と大きなため息を吐いた武道は、俺の制服の裾を引き、「こういう事はもう止めてよね」と小さく呟いた。
「”武道は俺の恋人だ”ってやつ? 止めるつもりなんてねーけど」
「は、はあ?! 何で?!」
「当たり前だろ。周知する為にわざわざ言って回ってるんだから、一々周りの反応気にしても意味無くね?」
「……その所為で春千夜君のシンパからいっつも睨まれてるんですけど」
「そんなもん何処でだって同じだろ」
呆れた溜息を吐けば、武道が「だって」と唇を尖らせた。その表情を見れば、大いなる不満を抱えていることは丸わかりだ。だが、それが分かった所でオレは武道の言う紹介方法を変えるつもりは更々無いし、何なら武道が離れて行くというのなら、首に縄を掛けてでも離すつもりは無い。
オレと武道との間に誰かが介入するなんぞ、誰が許せるだろう? 武道の一番側近くに居る権利を与えられたこの世界で、オレは武道と二人で幸せになると決めているのだ。それを邪魔する奴等は誰であれ排除する所存である。
「そりゃ春千夜君は良いかもしれないけど、俺だってもっと皆と仲良くしたいんだよ。友達だって欲しいし」
「あ? そんなんオレだけで十分だろうが。何でわざわざ余所の奴らと仲良くしなきゃなんねぇのか全く分からねぇ」
極力武道を周囲から引き離したいオレ自身の意思とは裏腹に、武道は出来るだけ周囲に溶け込んで学校生活を謳歌したいと考えて居る、普通の男子中学生である。
それを踏まえて見ると、確かにオレの言葉は余りにも余所余所しく感じられるものだろう。まあ、その態度を改めるつもりなどこれっぽっちも無いけれど。
武道はまだ不満そうに「……でも、」と言葉を重ねるものだから、オレは心持ち強い言葉で武道を諭した。
「でもじゃねぇんだよ。武道、テメェはオレのもんだろ? オレから離れて行くなよ、武道。オレはお前が居ないと、どうにかなりそうなんだ。それは武道も知ってるよな?」
「うん、それはまあ知ってるけど。春千夜君、基本的に人嫌いだもんね」
「人嫌いっつーか、武道以外はどうでも良いんだわ。実際。なら、馬鹿な事言ってないで、一緒に居られる理由をオレ達二人で作れば良いんだよ。雑音なんて、オレにとってはそよ風みたいなもんだ。武道を失う位なら、オレはそんな手を使ってでも周囲に纏わりつく蠅共を叩き潰してやる。心配すんなよ武道。オレがお前を守ってやる」
別に手が出ようが何をしようが、それはこちらに手を伸ばして来た奴等の責任である。オレの知った事では無い。第一、これまでもそうしてオレと武道の間に割り込もうとしたクズ共は合法的に排除しているのだ。これまでも、これからも、オレと武道は何者にも介入されない幸せいっぱいの未来で過ごしていくのだから、心配する方が面倒だろう。
「オレにとって大事なものは、武道以外居ないからな」
「…何それ、そもそも春千夜君が原因じゃん」
「あ? だからその責任を取るって話だろうが。だろ?」
「暴論過ぎ。まあでも、それなら少しは安心かな。俺はひ弱だし、喧嘩する力も無いけど、応援する事は出来るから。でもなぁ、春千夜君。口より先に手が出るでしょ。そういう実力行使は止めて欲しいんだよね。主に俺の心の平穏の為にも!」
「善処する」
うん。是非そうしてね、と小さく呟いた武道は、それでも何処か不満そうに眉を寄せていて、オレは武道の肩を抱き寄せて、その頭を優しく撫でてやる。
「そんな拗ねんなって。な? 別に誰かと交流すんなって話じゃねぇ。オレはオレの一番近い場所に武道が居て欲しいだけなんだよ。それが悪いってんなら、もうオレは誰とも話さねぇ。武道、側に居ろよ」
「分かってるよ、春千夜君」
少しの諦めと、それ以上の優しさで微笑んだ武道と手を繋ぎ、住宅街を静かに歩いていく。
どんなに道が分かれようとしても、決して離しはしまい。そう心に決めて、今この世界に辿り着いたのだ。
―――タイムリープしたオレを、武道は知らない。知る筈も無い。この世界の武道は、どの世界でも成し得なかった平和な世界であるのだから。
「愛してる。武道。ずっと隣に居ろよ?」
「あーまあ、春千夜君がそうしたいって言ってくれる限りは側に居るよ」
「……言質、取ったからな」
何処か慌てたようにオレを見上げる武道を再び抱き寄せて、共に歩幅を合わせて歩き出す。歩き難そうにオレを見上げた武道は、何処かムッとした顔を浮かべながらも、ふにゃりと相好を崩して微笑んだ。
この笑顔を守る為ならば、無敵の誰かであれ排除しよう。オレはそう心に決めた。