寿武 ※試し書き
「ねえ、大寿君。明日、一緒に出掛けようよ」
「……はあ? 何を言っているんだ。俺は明日も忙しい」
「そう言うと思って、ココ君にはきちんとお休みが欲しいって話を通してあるから、心配はいらないよ」
ね? 一緒に行ってくれるよね。
そう問いかけて背の高い大寿君を見上げれば、大寿君は眉間に皺を寄せたまま「分かった」と低く唸った。
「ありがとう、大寿君」
翌日。大寿君と落ち合った武道は、いつもの運転手付きの高級車で移動し、大寿君を外へ連れ出した。服装はカジュアルで良いと言っていたからか、黒いシャツに黒いジーンズ、黒い革靴をその身に纏った大寿君はその容姿と相俟って非常に落ち着き払っている。というか、端的に言えば如何にも威圧的な柄の悪さを発揮していた。元々眼光鋭い目を持つ大寿君は、年齢を重ねる毎にどんどん精悍さを増していて、武道が大学に通っている間中、黒龍のフロント企業をきちんと取り仕切ってくれている。それは大寿君の手腕があってこそだろう。
「武道、何処へ行くつもりだ?」
「うーん、教えて欲しい?」
逆にそう問いかけると、大寿君は頭が痛いとばかりに片手で額を押さえ、「予定の擦り合わせ位、先にしておくべきだろう」と正論を述べた。
「確かにその通りだね」
苦笑した武道の手をそっと握り締めた大寿君は、武道の一挙手一投足を見逃すまいとするかのようにじっと武道を見つめる。
「別に変な事をしようって言うんじゃないよ。ただ久しぶりに大寿君とデートしたかっただけ」
「……はあ? デート?」
「うん、そう。だってほら、大寿君は最近忙しくて中々一緒に居られなかったし、そもそもご飯を食べに行ったり出歩くのだって久しぶりでしょう? だからね、大寿君と今日は一日一緒に居たいと思って。勿論、ココ君とイヌピー君には了解を取ってあるよ。じゃないと二人共、デートの邪魔をしようとするからね」
「……それが分かっているのなら、デートなんていう単語を出すな」
「えーダメ? だって大寿君は俺達にとって必要な仲間だし、俺にとっても大事な人だから。別にデートで間違っていないと思うけど」
「……先が思いやられるな」
まるで注意する事を諦めたように小さく「他の構成員にはその言葉を使うなよ」と添えた大寿君に、武道は深く頷いた。
「大寿君とココ君、イヌピー君としかデートなんてしないんだから、三人にしかこの言葉は使わないよ」
「テメェは本当に…、いや、そういう所が武道らしいがな」
まあ良いと言葉を区切った大寿君は、座席に深く背を凭れかけて、互いに繋ぎ合った片手を軽く揺らした。
「デートってんなら、先に買い物でも行くか? 何処か行きたいところがあるんだろう?」
「まあね。でも、それは着いてのお楽しみかな? 大寿君も、もし何処か行きたい場所があったら教えてね。車を回せるように手配するからさ」
当たり前のようにそう言うと、大寿君は武道の肩にぽすりとその頭を乗せ、「好きにしろ」とだけ答えて目を閉じた。
「じゃあ、着いたら起こしてあげる。おやすみ、大寿君」