タク武の設定を練ってみる ※試し書き
・東卍幹部軸(タクヤ×リープ前みっち)
俺の上司であり、東京卍會の大幹部である花垣武道は、大幹部に名を連ねている他の幹部共と頗る仲が悪かった。それは勿論、今現在最も強い影響力を持つ、東京卍會総長代理 稀咲鉄太を筆頭に、大幹部それぞれと物理的にも心理的にも距離を置いていた。それは武道がここに至っても失う事の無かった善性の所為なのか、それとも武道自身が『信用ならない人物』との接触を絶っていた為なのか、それは定かでは無い。
少なくとも、俺達同中の、溝中五人衆を始めとした部下達や、自身の右腕である千冬だけは全幅の信頼を寄せていたように思う。
「武道、また半間さんとやり合ったんだって? 少し落ち着けよ」
そう苦言を呈したのは、いつも仲裁役として間に入っているアッくんだった。そう、この時のアッくんはまだ稀咲の策略によって罠に嵌められて居なかったから、俺達の直ぐ傍に居た。武道に対してそういう強い叱責を飛ばせるのは、その昔、番を張っていたアッくんにしか出来ない事でもあったのだろう。
「うっせぇよ。アイツが突っかかって来るのが悪ぃだろ」
「そうは言っても、今や半間さんは稀咲の右腕だ。これ以上立場を悪くするんなら、オレが相手になるぜ? な?」
「……そこまでしなくて良い。なんであんな奴に媚び諂わなきゃならねぇんだよ。アイツは東卍のヤツじゃねーだろっ!」
「……それ、余所では絶対に言うなよ? 半間さんと稀咲が居なけりゃ、今の東京卍會は無い」
そんな事、武道ならとっくに気付いてるだろ?
何処か苦しそうに唸るアッくんに、武道は苛立ちと共に手元のグラスを床に投げ捨てた。ガシャン!という破壊音と共にグラスの破片がそこら中に広がるが、苛立ちが納まらないとでも言うように、武道が自身の髪をぐしゃぐしゃに掻きまわす。
ああ、折角セットした髪が台無しだと手を伸ばせば、武道にぐっと手を掴まれて、思わず蹈鞴を踏んだ。武道の顔を見降ろすと、何処か落ち着かない様子で目元を覆う武道の姿を見て、ぐっと胸が詰まる。そんな苦しそうで悲しそうな顔、しないで欲しい。
「なあ、タクヤ。何でそんな落ち着いてられる訳? お前だって、アイツらが気に入らないよな?」
「俺は武道と、皆が居ればそれで良いよ」
そっと掴まれた腕ごと武道を抱き寄せれば、力なく凭れ掛かって来た武道が、「そんな事言うのは、もうタクヤ達くらいだよ」と悄然と項垂れた。アッくんの心配そうな目が俺と武道を貫き、武道の消沈振りにアッくんは何処か悔しそうに唇を噛む。それは多分、アッくんなりの贖罪でもあったのだろう。そうでなければアッくんがわざわざここで注意を飛ばす筈もない。
―――この部屋は全て、盗聴されている。実際にそうであるのかは分からない。実際にはそこまで手を出されてはいないのかもしれない。けれどそういう風に警戒しなければならない程、最高幹部の一人とはいえ、武道の立場は今尚危ういものだった。それはさながら命懸けの綱渡りをゆっくりと進むが如く、その地位を保持する為に俺達は細心の注意を払って生活している。
全ては、武道と俺達が共に居るために。ただそれだけの為に、俺は今ここに居る。
「……ごめん、アッくん。俺が間違ってた。ごめん。でも、今はちょっと一人にしてくれないか?」
「ああ、勿論」
何か物言いたげに俺を流し見たアッくんがそっと二人を避けるように部屋の外に向かう。パタンと閉じた部屋の中、静寂が満ちる。
「どうして皆、こうなっちまんだんだろうな?」
「後悔してんのか、武道」
ずるい質問だっただろうかと、内心溜息を押し殺せば、武道が俺の腕の中で乾いた笑い声を上げた。
「……ははは、どうだろ? もう自分でも分かんねーよ」
「俺達が居るだろ。お前には、武道には、俺達溝中五人衆が付いてる。千冬も居る。だろ?」
「そうだな。俺にとって大事なモンは全部、ここにあるものだけだ。タクヤと山岸、マコトとアッくん、千冬。金も名誉も権力もあるってのに、何で俺達はいつまでもいつまでも、こんな事してんだろうな」
「……なあ、武道。ちょっと疲れてるんじゃないか? 少し休んだ方が良い。横になれよ。な?」
そっとその手を引いて武道をソファーへ誘導すると、俺と武道の足元で、投げ捨てられたガラスの破片がシャリッと高く軋んだ音を立てて床に押し付けられた。
ぼんやりと視線を宙に向けた武道が、ふと床に散らばった細かな破片に目を向ける。最早意味を成さなくなったそのガラスは、きっといつか俺達が辿り着く未来の姿だ。打ち捨てられ、踏みにじられ、意味の無い物として処分される。それは遠い未来の話では無いだろう。俺も武道もアッくんも、良い未来を手にする事など最早永遠に有り得ない。
「なあ、武道。俺は、俺達だけは最後までお前と共に居る。それを忘れないでくれ」
「…ありがとな、タクヤ」
弱々しく微笑んだ武道は、そっと横になったベッドの上で両目を瞑った。
「いつかさ、皆と一緒にゆっくりと遊べたら良いのにな」
「……いつでも出来るよ。いつでもさ」
その約束が叶う筈も無いと知りながら、ぎゅっと武道の手を握る。
「何処かの未来では、五人一緒に幸せになろう」
それだけが俺の願いだから。