「殿下は見つかったのか?」
アリシオ先輩に元に戻ると、すぐにそう聞かれた。
「見つかりませんでした。すみません」
俺とグラシアが答えると、アリシオ先輩はそうかと言っただけだった。
「この人たち、何か話しましたか?」
「何も。王宮から騎士が来ることになってる。こいつらを王宮へ連れていく」
怪しい。
王宮から騎士が来るのが早すぎる。
場所なんてわからないのに。
アリシオ先輩が連絡したとしても、すぐに連絡がつくわけがない。
「とりあえず村に戻る。俺がこいつらを連れていくから、二人はマルローさんを頼む」
アリシオ先輩が疑わしくて、顔が見れない。
「わかりました」
俺は視線を外しつつ、返事する。グラシアも同じように、アリシオ先輩を見ようとしなかった。
「……静かね」
村に戻るには森を突っ切ることになる。
生きている二人の男をアリシオ先輩が縄を付けて歩かせ、マルローさんの方はグラシアが縄を持って歩かせている。
誰も何も話さなかった。
そんな中、口を開いたのはマルローさんだった。
「あなたたち、あの魔獣を探しているのよね。あれはまだ森の中にいるはずよ」
「魔獣は魔獣でも呪いを吐かないほうだろう?」
マルローさんには同情していた。
だけど、今はそんな気持ちは全くなくなっていた。
「いいえ、呪いをかけるほうよ。私は全部嘘はついていないもの」
「どういう意味だ?」
あの魔獣はいるってことか?
「ベルタンは、本当に私の夫よ。魔獣に女性に替えられた哀れな人」
あの魔獣はいる。
急に心が騒ぎ始める。
やっぱり俺は元に戻りたい。
男に。
「なら、なんでこんな計画に手を貸したのですか?」
「あいつが元に戻すって言ったからよ」
「あいつ?」
「マルローさん」
アリシオ先輩が立ち止まり、彼女に声をかける。
するとマルローさんは口をつぐんでしまった。
やっぱりアリシオ先輩は裏切り者だ。
なんで。
「アリシオ先輩。どうして殿下を裏切ったのですか?」
「グラシア!」
ちょっと直接聞きすぎだよ!
「……やぱり殿下に会ったんだな」
アリシオ先輩が溜息をついた後に、グラシアに尋ねる。
空気がぴりぴりと張りつめた気がする。
「言いたくありません」
「それが答えだ。どこに行ったか教えろ」
「教えるわけないですよ!なんでアリシオ先輩が裏切り者なんですか?なんで!」
殿下と物凄い仲良さそうだった。
まるで身分が関係ないようなくらい。
「お前には関係ない。殿下の行方を教えろ」
「カミロに怒鳴らないでください。行方は教えません。だけど、協力はできます。大方、アリシオ先輩も人質を取られたのでしょう?このマルローさんと同じように」
「人質?!マルローさんも?」
「カミロ、気が付かなかった?人質はベルタンさん。殿下たちの元から離れた時から人質の役目を負ってるんじゃないかな」
「そうよ。だから私たちはどうしようもない。殿下を見つけて殺さないと、ベルタンの身があぶない。女性になったあの人、胸だけが大きくて、弱いんだから!」
「胸、デカい。確かにそうだな」
ふいにアリシオ先輩がその言葉に反応して笑う。
「アリシオ先輩。わかりました。殿下の居場所を言います。ついてきてください。その人たちも、マルローさんも連れていきましょう」
グラシア、何を考えてるんだ?
いったい……
☆
「殿下の母君が王妃様でないのは知ってる?」
「知らなかった」
ええ?
だって、
「まあ、ごく一部しか知られていない事実だ。俺がお前が知っていたことに驚いている」
グラシアはアリシオ先輩の言葉に微笑む。
なんていうか悠然とした微笑みだ。
俺は知らなかったよ。そんな事実。
「殿下の母君は王妃様に殺されたという噂がある。今回のことで、私はそれが事実であったのではないかと思っているんだ」
グラシアの言葉に、アリシオ先輩は黙ったままだ。
ということは……。
「第一王子より、ブルーノ殿下のほうが王に相応しいという話も出ている。王妃様は殿下に「呪い」を掛けたかったんじゃないかな」
「恐らくな」
覚悟を決めたのか、アリシオ先輩はここで頷く。
「アリシオ先輩、変な動きがあれば私の兄がどうにかしてくれるはずです」
「現副団長のエレダー様か?」
そぅいえばグラシアの兄は、そうだよね。
だから色々知っていて当然か。
やっぱりグラシアはすごいなあ。
自分が情けない。
「この度に出る前に、殿下が狙われるかもしれない。裏切り者がいるかもしれないと忠告されたんです」
「さすがだな。エレダー様は」
アリシオ先輩は感心している。
「だから、ここは殿下に協力して、一気に王妃様を追い詰めましょう。人を殺しておいて逃げ続け、今度は殿下を狙う。そんな方が王妃という立場であること、許せないです」
聞けば聞くほど、王妃様って外道な人なんだな。
あんなに綺麗で、胸がおっきいのに。
あ、関係ないか。
「それでは証拠集めと行くか。あと証拠が集まるまで殿下には逃げ切ってもらう必要がある」
「アリシオ先輩が今味方であること、とりあえず隠れて逃げ切ってくれることを伝えましょう」
「そうだな」
アリシオ先輩とグラシアはトントントンと方針を決めていく。
「カミロ、カミロも一緒に頑張ろうね」
暗い顔をしていたのか、グラシアにそう声を掛けられて、泣きそうになった。
うう、情けない。俺。本当。
☆
とりあえず俺たちは王宮に戻ることにした。
王妃の目があるとしても、王宮で調べたほうが確実な証拠を入手できそうだからだ。
殿下を襲った二人と、マルローさんはこの件が解決するまで、アリシオ先輩の知り合いに預かってもらうことにした。
分隊長のダルミオ様には、襲われて殿下とエレナさんが行方不明であること、襲った者達はすべて殺したということにした。
ダルミオ様が王妃側でないことを信じたいが、今のところ保証がないので、嘘の報告をするしかない。