「ここ、」
殿下たちを見失った場所から足跡を辿っていると、グラシアが急に立ち止まった。
「追手の足跡は見えるけど、殿下とエレナさんの足跡がない気がする」
そう指摘されて、目を凝らしてみると、確かに足跡が減っているし、エレナさんの足跡らしきものが見えなかった。
「エレナさんって魔術師だよね。空も飛べたりするのかな?」
「うーん。わからない。でも魔術師の塔で部屋を持っているくらいだから、優秀なはず。空くらい飛べそうだよな」
平民は魔法を使えないものが多い。
しかも俺の隊は隊長以外は魔法を使えない。
だから、魔法のことはよくわからない。
体系として、水、火、光、闇、風、土があることがわかる。
空を飛ぶのはきっと風の魔法だ。
「エレナさんが使える魔法のこと、聞いておけばよかった」
「そうだね。本当。でも足跡が消えているってことは、ここで空に飛んだか、木の上に登ったかだよ。追っ手もどちらかだと思って探しているはず。カミロはどっちだと思う」
「空じゃないかな。木に登っているなら、追っ手に見つかっていてもおかしくないし」
「残念。不正解」
茂みから殿下と、もう一人エレナさんが現れた。
「で、ギエム先輩」
グラシアが咄嗟に偽名を呼ぶ。
殿下はまだあの謎の白い仮面を被ったまま。
エレナさんにはまだ身元がバレていないみたいだ。
「そんなところに隠れていたんですね!」
どうやったら見つからず隠れられたんだ。
「エレナさんの闇の魔法を使って、隠れていたんだ」
空は飛べなかったんだ。
「私は空も飛べます。このギエム様が空を飛ぶより、繁みに隠れたほうがいいと言われたので、闇の魔法を使い繁みの影へ溶け込んでおりました」
俺たちの会話は聞かれていたらしく、エレナさんが少し胸を張って説明してくれた。
空はやっぱり飛べたんだな。今後見たいなあ。その魔法。
「はっつ、それよりも無事ならアリシオ先輩と合流しましょう」
「それはない。アリシオが裏切り者ではないという保証がない。そもそも別れて行動することを言いだしたのはアリシオだ。彼は疑わしい」
アリシオ先輩と殿下友達じゃなかったの?
でも確かにアリシオ先輩が二手に分かれることを言いだしな。
しかも、今回も自分が残るって言ってたし。
怪しいといえば、怪しいかも。
「それではどうするつもりなのですか?」
「エレナとも話し合った結果、呪いの魔獣を探しながら、私を狙っている者の黒幕も暴こうと思っている。証拠も入手する予定だ。それがあれば、城に戻っても逃げ隠れできないはずだ」
殿下は今後の方針をはっきりと説明してくれた。
……この言い方、絶対にエレナさんにはバレていると思うけど。
「魔獣探しと証拠探し、難しいと思いますよ。あと危険も伴います」
グラシアが不安そうに殿下に苦言をもらす。
うん。殿下は既に命を狙われている。
今後も絶対に狙われる。
この人数じゃ逃げ切れるのは大変に決まっている。
「そうだな。だが、このまま城に戻っても同じだ。何度も命を狙われるのはもう疲れた」
仮面のせいで殿下の表情を見えない。
だけど、声からしても疲労感が窺える。
いつもの飄々とした物言いいでもないしな。
「とりあえず君たちにはアリシオの元へ戻ってほしい。そして私の行方がわからないとでも言ってくれ。アリシオの出方を見たい」
「で、ギエム先輩たちはどうされるつもりですか?」
「私たちは旅に出るつもりだ。魔獣探しの」
「え?エレナさんはそれでいいのですか?」
「はい。このまま城に戻っても何も得られるものはないでしょうから」
いいのかなあ。
本当に。
だけどエレナさんがいいって言ってるし。
「畏まりました。私とカミロはアリシオ先輩の動向を探りましょう。そして時折連絡とりたいのですが、どうすればいいですか?」
「サザミヤ亭のフレディ宛に連絡をくれ。そうすれば私の元まで連絡がくるようになっている」
用意周到だな。
もしかして、今回、殿下は狙われやすいようにわざと俺たちの旅に加わったのかな。
どこまでが計画は全然わからない。
とりあえず、殿下の指示通り、アリシオ先輩の元へ戻るか。
騎士たるもの、王族命令は絶対だ。
「それでは、私たちは旅に出るよ」
「エレナさん、本当に大丈夫ですか?」
グラシアが殿下の隣の彼女に声を掛ける。
殿下のこと少し苦手そうだったよなあ。
確か。
「大丈夫です。ギエムさんが守ってくれるそうですから」
「ええ。ご安心ください」
え?殿下の正体ばれていない?
嘘だろう?
俺は思わずグラシアを見てしまう。
グラシアは苦笑していた。
俺たちは殿下が森の奥へ消えていくのを見送り、来た道を戻り始める。
「アリシオ先輩、殿下を裏切ったのかな?そうなると身代わりになったギエム先輩も?」
不安になって、俺は隣のグラシアに聞いてみる。
「多分、裏切ってないと思うよ。だけど、今は何も知らない振りをして、アリシオ先輩の動向を見よう」
「そうだな。うん」
事実はわからない。
アリシオ先輩は本当に何も知らなくて、巻き込まれただけかもしれない。
それを俺たちは確かめる必要がある。