「マロリーさん!」
「ついて来ないで」
 マロリーさんは動揺しているのか、走っている方向が村ではなかった。
「ちょっと止まってください。どこに行くんですか!」
 女になっても、訓練は裏切らない。
 グラシアだって、女性の身であそこまで強かったんだから、俺が弱くてどうする!
 自らを必死に鼓舞して、マロリーさんに追いつく。
 そしてその腕をつかんだ。
「落ち着いてください!」
 両手を掴んで、そう言うとやっとマロリーさんの動きが止まった。
「ごめんなさい」
「少し話しましょう……。で、ここどこかわかります?」
 この村に来たのは初めてだ。
 無我夢中で彼女を追いかけていたので、俺は完全に方向を見失っていた。
「……私にもちょっと」
「そうですか」
 どうやら、俺とマロニーさん、迷子になってしまったようだ。
 なんで?え?
「ここって、森の中ですよね」
「はい」
 黙って救助を待つか、やみくもに歩くか。
 
「カミロ!」
「おい、おい。グラシア!」
 森の奥から、見知った影が二つ見えた。
「グラシア、アリシオ先輩!」
 二人の顔を見て、俺は正直泣きそうになった。
「やっぱり、カミロだった。声がしたって思ったんだ」
「……すごい野生の勘だな」
 なにかよくわかんないけど、二人と合流できたのでよしとするか。
「マロリーさん、よかったですね。これで村に戻れますよ」
「はい」
 そう答える彼女の声は元気がない。
「グラシア、アリシオ先輩。皆と合流する前にマロリーさんの話を聞きませんか?」
 ☆
「なるほど。そういうことですね!それでは、マロリーさん、男性になりませんか?」
「グラシア?!」
「実は私は女性だったんですけど、魔獣の呪いで男性になったのです。ちなみに、彼女は元男性で、同じように魔獣の呪いで性別がわかってしまった方です」
 グラシアは俺が黙っていた方がいいと思っていた情報をぺらぺらと話した。
 アリシオ先輩はまったく口を挟まないんだけど、どう思っているのか……。
「私が、男性に……。いいですね!私も、ベルタンのようなセリフ言ってみたいです。本当、馬鹿にされまくりましたから」
「それでは方針は決まりですね」
「グラシア?アリシオ先輩がそれでいいんですか?」
「まあ、いいじゃね?俺たちは魔獣を捕獲できればいいんだから。マロリーさんが納得したらそれでいいだろうし。ベルタンさんも奥さんが男になれば、現状を受け入れるさ」
 いや、それはないと思う。
 アリシオ先輩適当だな。
 俺、女になった現状、全然受け入れていないし、元に戻りたいって思ってるのに。
 グラシアは……多分、元に戻りたくないんだろうなあ。
「それではひとまず、ベルタンさんへ合流しましょう」
「そうだな」
「うん」
 グラシアの提案に、アリシオ先輩と俺は頷く。
 だけど、マロリーさんは府に落ちない顔をしていた。
「戻ったら、ベルタンに反対されるでしょう。このままその魔獣を探して、呪いをかけてもらってもいいでしょうか?」
「いや、それはだめだろう。ベルタンさんに一度話はすべきだと思う」
「反対されるなら、もう呪いを受けてしまった方がいいのではないでしょうか?」
 アリシオ先輩はマロリーさんの言葉に反対を示し、グラシアは賛成の意を示す。
「カミロは?」
 
 グラシアとアリシオ先輩に同時に聞かれてしまい、俺は迷う。
 心情的にはアリシオ先輩、だけどグラシアが悲しがるからなあ。
「俺は、」
「戻るぞ!」
 アリシオ先輩が急にそう言って走り出した。
 
「待ってください!」
 グラシアがその後を追おうとして、俺を見る。
「カミロはアリシオ先輩を追って、私はマルローさんを背負ってから追いかけるから」
「え?背負う?グラシアが?」
「うん。ほら、追って、見失うよ」
「え、あ、うん!」
 色々思うことがあったけど、見失うのは避けたい。
 今の俺にマルローさんは背負えないし。
「ごめん。グラシア!グラシアは追っかけてこれる?マルローさんも連れて?」
「当然。私はカミロならどこにいても見つけられるから」
 不敵に微笑まれ、俺の中の乙女が胸キュンした気がする。
 しなくていーのに!
 俺は首をブンブン振った後に、アリシオ先輩を追った。
 ほぼ見なくなりそうな背中を見つけて、俺は必死に食らいつく。
「アリシオ先輩!」
 先輩はまるで猪のように猛突進している。
 ……きっと、殿下のところ、ベルタンさんのところだよな。
 どれくらい走ったかわからない。
 胸が痛くなったところで、見覚えのある地点にたどり着いた。
「……くそっつ」
 アリシオ先輩が悔しそうに唸る。
 
 そこには争った後、倒れている数人の男の姿が見える。 
 黒装束で、どう見ても怪しい。
「おい、こら!」
 そのうちに一人の胸倉をつかみ、アリシオ先輩が叩き起こそうとした。
「んん?ああ!」
「あん?」
 男は目を開けると、アリシオ先輩の顔を凝視して叫び声をあげた。
「お前は!」
 アリシオ先輩は男の顔に見覚えがあるみたいだった。
 一瞬の動揺をついて、男が何かを噛んだ音がした。
 すると痙攣して、動かなくなる。
「くそ、死にやがった!」
「カミロ!他の奴らの口に何か詰めこめ!」
「はい!」
 俺は迷った挙句、布を取り出して、結んだあと、それを噛ませるようにして結びつける。
 こうすれば声があげられないし、自害もできない。
 残ったもう一人に対してアリシオ先輩が布で口を塞ぐ。
「どこに行ったんだ。全く」
「殿下は無事でしょう」
 アリシオ先輩がガシガシを頭を嗅いでいると、グラシアがマルローさんを連れて現れた。
 マルローさんの口は塞がれ、両手は結ばれている。
 罪人のように縛った両手首から縄を繋ぎ、それを引いて歩いてきたようだった。
「どういうことなんだよ。グラシア」
 意味がわからない。
「そういうことかよ。このくそ」
 アリシオ先輩は状況を理解したように、忌々しそうに吐き捨てた。
 何?
「カミロ。私たちは罠にはまったんだ。この「ベルタン」と「マルロー」が仕掛けた」
「仕掛ける?罠?」
「大方、狙いは殿下か。殿下をおびき寄せるために、呪いの魔獣なんて嘘の情報を流したんだな」
「そう言う事でしょう?マルロー」
 グラシアの問いに、マルローさんは頷く。
 
「じゃあ、呪いの魔獣なんていなくて、二人は演技をしていたってことですか?」
「そういうこと。馬鹿みたいに騙された俺を殴りたい」
「私もです」
 アリシオ先輩もグラシアもしかめっ面だ。
「じゃあ、殿下は今どこに?エレナさんも一緒なんですか?」
「恐らくな。殿下は逃げているんだろう。はじめから全部計算だったか。もしかして、殿下もそれを知っていた可能性が高いな。そうであれば嬉しいがな。いや、頭にくるか」
「じゃあ、すぐに殿下の後を追いましょうよ!」
「そうだな。あ、二手に分かれるか?俺はここに残って、こいつらから黒幕の正体を聞き出す。お前らは殿下を追ってくれ!」
「はい!」
 尋問など、俺もグラシアも経験したことがない。
 だからアリシオ先輩に任せるのが得策だろう。
 俺とグラシアはまず残された足跡を追って、殿下を追いかけることに決めた。
 
 
 
 
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