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雨季の日の体調は最悪だ。
雨が降ると言わずもだが、振らずとも空気が重い日には頭がズキズキと痛んで、何も考えがまとめられない。そのくせ大人しく寝ようとしてもまともに休むこともできやしない。
なにか予定でもあれば堪えて、任務でも授業でもでてやるが、今日の予定は特にはない。動かない頭を無理やり叩き起こす必要も無いが、気を紛らわせることもできずに延々と脳を叩き割るような痛みに耐えるのも苦しいものだ。
普段よりもずっと狭量になってしまうし、マスターに迷惑をかけたり嫌われるのは本意じゃない。なので、こういった日には急用でなければあまり自室には来てほしくないとお願いしている。
他の貴銃士たちもわざわざ機嫌も体調も最悪の相手に会いに来るほど馬鹿ではないので、閉め切った僕の部屋に訪れる相手は早々いない。
ただ、二人を除いては。
ガチャリ、とドアが開く音がした。
ノックもなしか。本当に礼のなっていないヤツだ。まぁ、僕の部屋だからかもしれないけれど。何を考えてるかさっぱりなのに、こういう所はあからさまでわかりやすい。
「よう、お兄様。まぁた一日を寝て無駄に過ごしてるのか?」
自室に閉じこもる僕の部屋に訪れる、たった2人。その片割れ、ノックすらしない方の無礼者は来るなり上機嫌で僕のベッドに歩み寄った。
同じ顔をした僕の弟、グラースは、同じような機構を持っているくせに、湿気にも雨にも関係無く取り扱える。対応する薬莢の違いと言ってしまえばそこまでだが、それでも明確に優れていると言えるだろう。これで本人の素行がよろしければ僕も兄として手放しで褒めることができるのに、体調不良の僕をわざわざ訪ねては楽しそうに嫌味を言いに来るのだからどうしたものか。
優越感でも感じているのかと思ったけれど、同じ様に体調が悪い時、授業や任務ですれ違ったりすると明らかに不機嫌で悪しざまに罵ってくる。そのくせ僕が臥せっているときはやたらと上機嫌なので訳がわからない。
枕に埋めた顔を少しだけずらして、視線だけをグラースのいる方向に向ける。口端を持ち上げて、大変に楽しそうで何よりだ。
朗々と語られる言葉はどうせ、嫌味のフルコースと自分の優秀さのアピールなんだろうからちゃんと聞く気もないけれど、弾む声色はその上機嫌さを雄弁に伝えていた。
時折こちらになにか問いかけるような抑揚が紛れている気もするが、いちいち聞くのも面倒だし、時間が経つほど悪化していくような気すらしてくる頭痛の中、返答に思考を割くのもキツい。
それに、こちらが悪し様に言われているとしても、機嫌良さそうなグラースの声は聞いている分にはそう悪いものでもない。頭痛を言い訳に聞き流して、言い返さずにいるのは、その声に険が交じるのを避けたいからだ。
体を捻ってグラースの方に向け、言い返すのも億劫だというように目を閉じる。僕のその様子を見て、心配していると言うには明るすぎる声が次々と降ってくる。喋らない相手によくもまぁそんなに言葉が溢れてくるものだと尊敬に値する。これが初めてってわけでもないどころか、毎回のように来るくせに、なんでそんなに語ることが尽きないのだろうか。
ガチャリ、とまたドアの開く音がした。
あれだけ元気よく喋っていたグラースが一気に静かになり、気を紛らわせていた声が途切れる。
目を開けると、訪れていたのは案の定、部屋に来るもう1人の方だ。
「タバティエール……」
心配しているのがありありと伝わる声で、なんだかんだ言っているが、特に聞かなくてもいい。そうせいつものだ。気分が良くなるわけもない、同じ問いを何度聞けば気が済むのかといってやりたい。
僕がろくに聞いていないことがわかっているのだろう。わざわざ顔を寄せて問いかけられたのは、なにか欲しいものはあるか?とのことで、ハーブティーと返す。頭痛を紛らわせる香りは、確か悪くなかった。どうせお前の言葉で頭痛が軽くなるわけでもないんだから、精々飲み物くらいでも持ってきてほしい。
了承の返事の後に、タバティエールがグラースにもなにか言っている。このまま僕の部屋で茶会でもする気なのだろうか。目の前で機嫌よく菓子を頬張ってくれれば、それもまた気晴らしになるだろうか。
ぼんやりとかんがえていたものの、返すグラースの声は先程までよりも数段落ちていた。機嫌のいい声は今日はもう聞き納めらしい。
タバティエールがキッチンに向かって、そのまま数分もしないうちにグラースも僕の部屋を出ていった。紛らわすもののなくなった頭痛と倦怠感をこらえつつ、ため息をつく。
最悪の気分だ。
「なんだ、グラースはいないんだな」
「お前のせいでな」
しばらくしてタバティエールがポットと小さな焼き菓子を盆に乗せてきた。
重い身体を起こし、ティーカップに注がれたものを口に含む。落ち着いたハーブの香りが、気分を楽にしてくれるような気がした。
「せっかく気を紛らわせていたのに、台無しじゃないか」
「それは悪かったな」
人の体は面倒なもので、本体である銃の欠点を如実に再現してくれている。欠点は銃のときと同じな割に、メンテナンスは人と同じようにしなければ十全に動かないのが厄介なところだ。怠さに流されて放置していた身体は、水分と栄養を欲していたらしく、お茶の共に菓子を口にするとだいぶマシになった気がする。
「お前さんは本当にグラースが好きだよな」
「僕の弟だぞ。輝かしい実績がないなんて言ってるが、血に塗れた経歴もない。優秀な、僕の弟だ」
つかれた
〆