きらきらと空から雪……ではなく、光のかけらが舞い落ちる。
空に輝く大粒のキラキラは、ぼくの手に集まって、小さな塊になった。
冬の空はいつもよりもどんよりしている代わりに、キラキラを落としてくれるからラッキーだ。気分が乗らない日には、体を重くする雨の森やエビ野郎の飛び回る真っ暗な大地を行き来しなくてもいいんだから。
草原の洞窟で転寝してもいいけど、そこまで行くのすら億劫な時もある。どこにも行かずに光の粒を座って待っているだけの方が何倍も楽に決まっている。他の場所に行くのに使われる門は、相変わらず向こう岸を映しているが、今日はその先に行く気は更々ないのだ。友達が誘いに来たって、ここから動いてやるものか。
お気に入りのパラソルを凍った地面に突き刺し、今年やってきた精霊に交換してもらった暖かいクッションを下敷きにして寝転ぶ。近くを見渡せば、知らない星の子たちも似たような様子で思い思いの姿勢で空から舞い落ちる光の粒を集めているようだった。さっき星座盤を眺めたところによると、友達はだれも起きていないようなので、今ここでぐだぐだしてるのは僕だけになるらしい。
クッションの上で寝転ぶのにちょうどいい角度を探していると、いつの間にか手の中に十分な量の光が集まってきていた。きゅ、と力を込めて、空に手を伸ばすと真っ白なキャンドルが生成される。これでいくつだっけ。30超えてないくらいで、目標はたしか、50個?遠いなあ。何日かかるんだろ。まぁここでぐだぐだしてるだけだからいいんだけど。また横になってころころとクッションの上で体勢を変えていく。気持ちいなあこれ。今度からお気に入りで使ってやってもいいかもしれない。
飛び回れば時間をかけずに集めることができるのはわかっているけど、楽に勝るものはないのだ。
やっとうつぶせで気持ちの良い姿勢に落ち着いたところで、大きな鳴き声が響き渡った。なんだよ、ぼくはこれから優雅な転寝をするところだってのに。
友達か誰かと合流して大きく鳴いただけかと思ったら、その子は1人でぷぅぷぅと鳴いて、スケートリンクをはしゃいで滑りまわってる。すごい楽しそうじゃん。いつの間にか周りでぐだぐだしていた知らない子たちはいなくて、どうやらこのホームにはぼくとうるさいスケーターの2人だけが取り残されたらしい。派手に鳴きながら寝ている僕の目の前を猛スピードで滑って旋回、そのまま縁を超えてくるんと回って派手に海に飛び込んだ。ここまで水しぶき見えたぞおい。さっきまであんなに鳴いていたのに鳴くのをやめたようだ。落ちて凍えたのかな?水の試練じゃあるまいし、ホームで水に落ちて羽が散るなんてことないだろうけど。どうせごろごろしてるだけで暇なので、飛び込んだ方向をみていると、後ろからぷぅ、と聞こえた。姿見えないけど、たぶん、さっきの爆鳴きスケーターだろう。ぼくの差したパラソルの下をうろうろと歩き、またぷぅぷぅ鳴き始めた。おいやめろ。ぼくのスペースに入るんじゃない。マナー違反だぞ。きょろきょろうろうろと見まわして、ついにはぼくのクッションに頭をのせて隣に寝転んできたので、クッションを回収してから離れてぷぇ、と鳴いてやった。起きてるんだぞ。ぼくのそばに寄るんじゃない、このやろうめ。
拒絶したってのに、何を思ったのかさっきよりも激しく鳴き始める。おい、うるさいってば。ばか。距離をとっても近寄って鳴いてきて、なんなんだよ。もう。顔見せろ、人のそばでわめきちらす迷惑なやつだって、言いつけてやる。
キャンドルを手にこっちから近づいてやれば、すぐに火は灯し返された。片方を結んだ髪に、茶色のケープ。今気づいたけど、背に背負う翼は3枚ぽっち。………。………すずめ、だ。
爆鳴き、改め、知らないすずめの子は変わらずぷぅぷぅ鳴きながら目の前をくるくると回りだした。さっきまでの気持ちも、相手がすずめとわかったら霧散していくから不思議なものだ。くらげは、世界に降り立ったばかりの星の子には優しいのだ。どこにも行かずにあんまり鳴くから、仕方ない。
昨年買ったお気に入りのクリスマステーブルを引っ張り出して、どん、とおいてやった。暇つぶしに話すくらいならいいだろう。ぼくは今日はどこかに行く気もないけれど、この子もここで滑ってるなら暇なんだろうし。先輩星の子として、このくらげ様が助言してやらなくもない。
クリスマステーブルのろうそくに火を灯し、端っこの席に座る。すずめは反対側に座っって、それから何故か席を変えて僕のすぐ斜めに座りなおした。いやなんでだ。
「こんにちは」
『こんにちは!』
当たり障りのない声をのせたら、元気よく返事が来た。ちょっと食い気味じゃない?
『すごい!話すことができる!』
「できるよ、チャットテーブルだもん」
『話すための道具なんだね!』
『こんなものがあるのか』
『全て喋れないのかと思っていた!』
「そんな訳ないよ。友達同士でキャンドルを払ったり、元々知り合いの子同士とかなら最初から喋れたりするし」
『すごい!』
「別にすごくない」
『私はすごいと思います!』
『これは、仲良くならないと喋れないってこと』
『二人とも話したいと思わないと喋れません』
『すごいことです』
「そうかな」
テーブルに着いてもぷぅぷぅと鳴くすずめに曖昧に頷いておく。ぼくには当たり前すぎてなんとも思わないけど、どうやらすずめには感動的なことだったらしい。
『貴方は、いつからこの世界を旅していますか?』
「楽園の季節から、って言ってわかるかなぁ。ふたつ前の夏からだよ」
『たくさんの季節を迎えたんですね!』
『私は先ほど、孤島に行きました!』
その翼の数だとだろうなぁ。と思ったけど、そうなんだ、と適当に返した。
『この世界は美しい』
『全て美しいので、いろいろな場所に行きたい』
「その割には、ここでずいぶんスケートリンクを滑ってたけど?」
『何故ならこの場所も綺麗です』
『よそ見をしたので海に飛び込みました』
元気いっぱいでなによりだ。今日のぼくはやる気が空に飛び立ってしまったらしいので、すこし暑苦しいくらいに感じる。真冬なのにね。
『あなたは美しいものをたくさん見ましたか?』
「うん。楽園の島々に雨林の晴れ間なんかおすすめだよ。レースの後の花火も悪くない」
一番綺麗なのは天空だけど、それを言うのは野暮だろう。
『私はそれのことを知りませんが、楽しみです』
『明日もこの世界にいます』
『綺麗なものを見ることができます』
「そうだね」
あんまり嬉しそうなのが伝わるから、見えないように笑った。捨てられた地や暴風域でトラウマにならなきゃいいけど。超えた際ににある書庫も天空もすごく綺麗だし。
「ぼくも、生まれたばかりの時はそう思っていたよ」
「いろんなところに行くのが楽しくて、世界が全部美しかった」
「旅をすることが楽しかったよ」
初めて訪れた楽園のとりこになったあの日、毎日のように美しい景色を旅していた気がする。雨林の晴れ間に、峡谷の空のレースに、魔法を取り戻した方舟に、新しく見る景色にずっとワクワクしていたような。このすずめも、きっとあの日のぼくと同じ気持ちを抱いているんだろうか。初めて見る全部に、知らない景色に興奮と感動が押し寄せるような、そんな気持ちを。懐かしい記憶を思い出していたら、なぜかすずめは黙り込んでいた。さっきまであんなにいろいろ言っていたのに、どうしたのか聞こうとしたら、一言やっと返ってきた。
『貴方にとって今の世界は美しくありませんか?』
小さく首をかしげて、そんなことを。たしかに、全部昔のことを思い出す語り方だったけど。過去形ばっかりで、そうじゃないみたいに聞こえたのかな。そうだろうな。だって、いまのぼくはどこにも行く気になれずにホームでぐだぐだとしていたんだもの。全部初めてで今にもどこにでも行きたそうなすずめの子とは、明らかに違う。
けど。だけど。
「この空の世界はずっと綺麗だよ」
『それは良いことです』
返事を聞いたすずめは満足そうにぷぅぷぅ沢山鳴いた。退屈で美しくない世界に、居たくなるわけがないじゃないか。孤島だけに行って草原の入り口から石像に乗ってホームに戻ってきたらしいすずめは、砂ばかりでろくに物もなかっただろう孤島のことをあれやこれやと楽しそうにぼくに喋りだした。合いの手を入れつつ話を聞きながら、たったひとつのエリアでこれなら、他の場所に行ったらどんな反応をするのか楽しみになった。孤島でも、預言者の石窟やギミック扉の先は見てないだろう。ぼくが最初にこの世界に落ちた時も、こんな感じだったんだろうか。ただいろんなことに感動したことは覚えていたけど、友達ともたくさん飛んだ世界は記憶の上書きばかりで思い出せなかった。いや、流石に孤島ではこんなに感動してないとおもう。多分。このすずめの感受性が凄いだけな気もしてきた。
『貴方の話も聞かせてください』
「ぼくの話?」
『先ほど言いました。美しい景色の話です』
「僕から聞くよりも、先に見に行ったほうがいいよ」
『理由を教えてください』
孤島でそれだけ感動するなら、言うまでもないと思うんだけどなぁ。
ゴーン、ゴーンと大きく鐘の音がホームに響く。
『この音は何ですか』
「時刻を教えてくれる鐘だよ。毎時間を教えてくれる」
『良い仕組みです』
なり続ける鐘の音に会話が途切れた瞬間に、ふと、手元に集まった光の粒に目が行く。キャンドルいくつ分かはわからないけど、ある程度の時間は経ったはずだ。
「もうそろそろ、ぼくは眠るよ」
『そうですか。沢山話をしたことを私は感謝します』
『おやすみ』
『私も今日眠ります』
空から舞っていた大きな光の粒は、いつの間にか小さく殆ど見えなくなってしまっていた。空に手を向けて、たくさんのキャンドルを精錬すると、すずめも同じように空に手を伸ばしてキャンドルをもらっていた。
『…………』
『……………』
テーブルを離れた後は声が聞こえないって、言ってなかったっけ。言ってないかも。知らなそう。
「仕方ないなぁ」
声に出していったから、たぶんすずめも自分の声がぼくに聞こえていないことに気が付いただろうか。
おろおろするすずめに片膝をついて。
「しょうがないから、また話してあげる」
たぶん、友達になる方法も知らないすずめに、白いキャンドルを突き出した。
ぼくのお気に入りの道具は、チャットテーブルじゃなくて、水色の傘なんだ。だから、今度は、テーブル越しじゃなくて話をしてあげよう。
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お題【世界五分前仮説】
初公開日: 2021年12月30日
最終更新日: 2021年12月30日
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昨日試しつつ、ワンライ前後でできればいいなな文章コントロールの特訓。
多分達成はできない。
お題【世界五分前仮説】
スマホゲーム「sky」の世界観を使った二次のような創作のような何か。
自アバター「くらげ」の話(になる予定)です。