そろそろ就活の準備しないとなぁ、と腰を上げるには遅いのかもしれないけど、ぼんやり思い始めたのが今年も残りわずかといったところ。
 早いところは三年生になってから始めるそうだけど、勤勉じゃない私は遊びとバイト三昧のその日暮らしばかりだ。しかしそうは言っても、現実としてモラトリアムの余命が近付いてきてるのには違いない。
 新春セールは混みそうだし、その前に買ってしまおう、ということで年末セールを狙ってお母さんにお金をせびっていつものモールへとスーツを買いに来た。ついでにショッピングを楽しんでいくつもりで。
 モールの中に入ると、あちこちの店頭に「新作」の文字が並んでいて目を引く。いやまぁそれ以外にも「年末セール」の文字が乱舞してるけども。
 見て思わず、「話題の新作」という表記のそれはいつまで話題の新作でいられるのだろう、なんてことを考えた。ウチもそうだしお店なのだから当然だけども、入れ替わりが早くて目眩を覚えることもある。
 着いていけないというわけじゃない。むしろ追いかけたくなる方だし。
 きっとちょっとしたセンチメンタルなんだろう。好きだった物も遠くなっていくことへの。
 ま、そんなことはさておいて、今はスーツだ。お店に入り、ぐるりと一回り。スーツ、シャツ、革靴、必要な物はたくさんあるけれどオシャレするんでもなし、パパっと決めた。
 第一目標をあっさり達成したので、さて次は新作コーデでも見て回ろうかしらん、とレディースコーナーへと踏み入ったところで、見たことのある顔がじっと服を睨んでいる光景に出くわした。
「おろ、侑?」
「げっ」
 声をかけるなり、侑は妹にあるまじき反応をしてきた。なんだその顔は。げっ、とはなんだげっとは。
「お姉ちゃんに向かってその反応はなんだー」
「なんでいるんだよーもー」
「そろそろスーツがいる時期になったからねぇ。あとついでに買い物」
「っていうか怜ちゃん寝てたじゃん、なんで……うわ、いつの間に」
 いつの話をしてるのやらなんて思ってると、スマホに目を落とした侑が悲鳴を上げる。
 どうやらいつものように例の如く、悩んでて時間が飛んでいたらしい。いやどんだけ悩んでんのよ。
「なに悩んでんの?」
「怜ちゃんには関係ないでしょー」
 不服そうに下唇を突き出していた侑はそう言って、見ていた服をいそいそと元の場所に戻し始める。
「帰り乗せてかないぞー?」
「別にいいけどー」
 おや。いつものからかいとはいえ、このクソ寒い中そう言うとは。いやこの小生意気な妹はそういうところあるけども。
 ……ふむん。
「あっそ。そんじゃー知らないから」
「言われなくてもそのつもり」
 妹に冷たくあしらわれた私は、そっぽを向いてその場から離れていった。
 ……よし。
 当然挙動不審な妹が気になる私は、離れた位置から動向を見守ることにした。秘密にされたら気になるのが人の性というもの。決してからかおうなんて思ってないのにあんなこと言われちゃ、こうするしかないないじゃん?
 さて本日の観察対象たる侑は、私がいないことを確認してから新しい服を手に取り始める。何度も体の前に翳して鏡を覗いては、次の服へと手を伸ばしてる。時折気に入ったのがあったのか、値札をぴらりと捲っては溜め息を吐いて戻す様子も。
 それでも元々ある程度は絞れていたようで、私が来た時に戻していたセーターとショートパンツを手に取り、小さく頷いた。
 そのままレジに向かって一件落着……と思っていたのだけど、侑はレジを通り過ぎて、そのまま服のジャングルの中へと入って行く。パジャマのコーナーだった。
 あれ? いつものは別にまだ着れるはずだけど……。
 そこでふと思い出す。
 そういえば今度、七海ちゃん家に泊まるって言ってたっけ。ご両親が不在で七海ちゃんから誘われたとかなんとか。なるほどそれでか。確かにあれはかわいげなんてないもんね。
 その記憶に釣られるようにして、二ヶ月ほど前の記憶が蘇る。
 ……進展があったのだろうか。
 きっと告白はしたのだろう。あんなこと言ってたし、侑のことだから。
 そしたら――あの浮かれようも納得がいく。
 なるほどなるほどそういうことか。お姉ちゃん、分かりました。そういうことならしょーがあるまい。
 ふ。お姉ちゃんはクールに去るとしよう。私がしゃしゃり出るのも野暮だもんね。
 というわけで、私も自分の買い物に戻ることにした。最近はゆっくりショッピングする時間を取れなかったものだから、コスメやらなんやらの新作もとうに入れ替わっている。それをチェックしつつ購入していくこと一時間。
 一通り満足して、そろそろ帰るかと思ったところで、侑の存在を思い出した。
 ……まさかね?
 念のためレディースコーナーに戻ると、やはり侑はまだそこに留まっていた。
 いや、正しく言えばパジャマコーナーにはいなかった。
 侑がいる場所は、下着のコーナーだった。
 ……うん?
 引っかかりを覚えた私は、侑が睨んでる物を見られる位置へとそろそろと近付く。
 そこにあるのは、普段使いしてる柄入りのそれとは全く違う、シンプルながらも色気を感じさせる物。
 先の連想が再び脳裏をよぎり、そして眼前の光景と結び付く。
 ……そっか。そっかー。
 ――なんだか生暖かい感情が湧き起こってしまった。妹の進展が確信に至ったことへの喜ばしさにも似た安堵と、身内のそういう事情を知ってしまった気恥ずかしさと。
 うん、そりゃあ嫌がるはずだ。分かる分かる。
 仕方がない。見なかったことにしてあげよう。なおも悩んでいる侑に今度は声をかけることなく踵を返す。
 さて、この新しい話題はいつできるようになるだろうな。いやこっちから突っついた方がいいか? うーん、悩ましい。
 まぁ、とりあえずはお泊りが終わるまでは黙っとこう。そこが一つの関門だしね。
 がんばれ若人よ。
 思わぬ景色の目映さに苦笑を浮かべながら、私は寒天の下へと出るのだった。
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やが君ワンライ53
初公開日: 2022年05月28日
最終更新日: 2022年05月28日
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