「ウザ……日焼け止め切れた」
「まりなちゃん、海行こ。暑いし」
「日焼け止め切れたっつったの聞こえなかったのかよ……」
「それならあるから、ほら」
「スプレーをいきなり振りかけんのやめろ」
私たちは海へ向かう。高校卒業と同時に家を出た私たちはなんとなくルームシェアを始めて、部屋以外にも色々なものを分け合って暮らしている。日焼け止めにボディーソープ、それから車もそうだ。私たちの稼ぎを出し合って買った小さな軽自動車は、パワーは無いけれど買い物やちょっとしたお出かけには丁度いい。
「あとどんくらいで着く?」
「まりなちゃん、ナビくらいしてよ」
「は? 何度も行ってるのにまだ道覚えらんないの? ごみくそじゃん」
そう言いながらもまりなちゃんはスマホを取り出してナビを始めた。
「あと20分くらいで着くから……あと、少し先のコンビニ寄ってくれる?」
「ん」
「運転代わるから」
「帰り道でいいよ」
「……昨日も遅かったじゃん」
高校を卒業してからすぐに稼げる仕事なんて、そんなにあるはずもない。確かに私の帰りはとても遅い。遅いというか、ほぼ明け方に帰ってくることになる。まりなちゃんはお昼の仕事をしているから、私たちがまともに話せるのは二人とも休みの、今日みたいな日くらいだ。
「……平気だよ」
「眠そうだとこっちが怖いんだって。あんたと心中とかねーわ」
言葉通り、まりなちゃんはコンビニで運転を代わってくれた。少しだけ買い物をして車に戻ると、まりなちゃんがブランケットを渡してくれる。眠っても良いということらしい。けれど、寝るような気分ではなかった私はまりなちゃんに質問をぶつける。
「で、まりなちゃんはあの彼と続いてるの?」
「……なっ!?」
赤信号に気づき、まりなちゃんが急ブレーキを踏んだ。私の運転が荒いと言った割には自分の運転も荒いよね、と私は思う。
「……もう別れた」
「まりなちゃん、続かないよね」
「……誰のせいだと思ってんだよ。そっちは?」
「ストーカーみたいになってるお客さんいるけど無理」
「あんたそういうとこあるよね」
まりなちゃんがハンドルを握る手に力を込めているのが分かった。考え事をしているときの癖だけど、運転中には危ないからやめて欲しい。
「頭ハッピー星人なんじゃね」
「なにそれ」
「ごみくそで……ずっとついてきて……」
「まりなちゃんに? 私が?」
「そう」
車は軽快に走る。換気のために細く開けた窓の隙間から潮の匂いが入り込んでくるのが分かる。
「じゃあまりなちゃんも頭ハッピー星人じゃん」
「は?」
「私にずっとついてくるじゃん」
「うるせえよ、そもそもハッピー星人ってなんだよ」
「まりなちゃんが言ったんじゃん……」
まりなちゃんが喉を鳴らして唇を舐めた。喉が渇いているときの仕草だと知っている私は、さっきのコンビニで買いこんだ飲み物を探り始めた。
「水がいい」
「ん」
蓋を開けて渡すと、まりなちゃんは喉を鳴らして水を飲む。
「プロは違うね……」
「なにそれ嫌味?」
「よくわかってんじゃん」
「こんなことするのまりなちゃんだけだよ」
「はいはい」
私たちは海沿いの道を走っている。まりなちゃんの髪は、夜の室内では濃い茶色に見えるけれど、陽の光に透かすと淡く明るい色に見えて何故だか眩しかった。
「ねえ、まりなちゃん」
「ん?」
「海にはさ……タコいるかな」
「いるっしょ」
まりなちゃんが横顔だけで笑う。高校時代よりもずっと明るく、解放されたような表情で。
「なんならさ……」
「「タコピーもいるかも」」
「タコピーってなんだよ」
「まりなちゃんが言ったんじゃん」
「おまえじゃん」
私たちは海へ向かう。何度も何度も海へ向かう。海には……タコがいるかもしれないから。