お題「クレープを食べ歩きする都雄とジェイデン」
「都雄ちゃん……! はは、都雄ちゃんは可愛いなあ」
「う、うるせえジェイデン! 可愛いとか言うな!」
とある休日。日頃の厳しい訓練から解放された二人は、ネオ秋葉原を練り歩いていた。
「……どうしてよりによって! お前と一緒に来ないといけないんだよ!」
「相棒だろ? 休日を一緒に過ごして、お互いの考え方について理解を深めてもいいだろ?」
キョトンとした顔でジェイデンが言った。ガントレットナイトとして共に戦う以上、お互いの性格や癖を知っておくのは実戦時にも有益ではある。つまり一種の正論ではあるのでタチが悪いと御岳は思った。
「……まあ、それはそうだけどよ。……俺じゃなくて、こういうところに来るならミャオのほうが良かったんじゃないか?」
不貞腐れたような表情で御岳が言う。
「ミャ、ミャオちゃんは関係ないだろ!?」
「いや、関係ある! お前、やっぱり俺をミャオの代用品みたいに思ってないか!?」
ジェイデンはどこか悲しそうな顔で俯いた。言い過ぎたかと思った御岳は慌てて取り繕おうとしたが、
「そ、そんなことはないぞ! 相棒と……ミャオちゃん、きっちり区別は付けてる。前にも怒られたしな」
とジェイデンが胸を張って宣言したのでうやむやになった。二人ともどこか誤魔化すように、路面にずらりと並ぶ店に目を遣る。
「……あ、あれは怒ったというよりはだな」
「あ、都雄ちゃん! あそこにクレープの出店があるぜ!?」
話を遮るように言ったジェイデンは、店に向かって駆け出した。困った顔で追い縋る御岳をよそに、ジェイデンがはしゃいだ様子で少し声高に告げる。
「……俺。クレープを食べ歩きするのが夢だったんだ。外で食べるクレープって、きっと旨いよな」
「……そうだな。作ってもらうのも楽しいし……どうしてこう、特別な感じがするんだろうな」
二人は各々メニューを眺め、好みのものを選ぶ。
「……えーと、えーと俺は……トッピング全部乗せで!」
「俺はこのチョコクレープ」
ほどなくして焼きあがったクレープには、これでもかと言うほどの生クリームが載せられている。トッピングを全部乗せしたジェイデンのクレープはなぜか七色に光っていて、御岳は腹を抱えて笑った。
「……ッジェイデンお前……ちゃんと見て注文したのか!?」
「いや……ははは、特に何も考えずに注文しちまった!」
ジェイデンも決まり悪げに笑う。クレープは七色に光っているだけではなく、チョコスプレーやらナッツやらが掛かっていてカオスと言う他ない代物だった。
「……そうだ。ミャオも……クレープ好きなんだ。俺とミャオ、二人で食べてもいいか?」
「おお、勿論だぜ! そっか……ミャオちゃん甘いもの好きなんだな……それは食べさせてあげないとな!」
力を込めたジェイデンの手がクレープを締め付け、七色に光るクリームがこぼれかける。
「バッ……お前なにしてるんだよ! クレープこぼれかけてるじゃねえか!?」
「危ないよジェイデン君!?」
「ミャオちゃん!?」
皆の声が響く中、ジェイデンは何とか態勢を立て直し、クレープはこぼれずに済んだ。
「わ、悪ぃ都雄! ミャオちゃんも……汚れてないか!?」
「ありがとうジェイデン君。私は大丈夫……っく」
と、ミャオはお腹を押さえて体をくの字に折り曲げた。
「……ミャオちゃん? 大丈夫か……?」
「っ………あはは……あははははっ!」
ジェイデンが顔を覗き込むと、ミャオは涙を流しながら笑っていた。
「……七色のクレープって……ジェイデン君……おかしい……!」
ミャオの笑いは止まらない。ミャオがこんな風に笑うのは初めて見たなと、ジェイデンは素朴な感情を抱いた。
「……はは、よく見ないで注文しちまったからな」
「……味は……ふふっ……どうなの?」
「おいしいよ! ミャオちゃんも食べてみる?」
「……ジェイデン君……っくく……口の周りまで七色だよ……!?」
ミャオはいよいよ笑いが止まらなくなってしまい、チョコクレープを持ったまま体を震わせている。
ジェイデンは恥ずかしいというよりも、ミャオちゃんの笑顔が見られてよかったな……という素朴な感想を抱き、粛々と七色に光るクレープを食べ進めるのだった。
お題「ルチーアで沙都子に事故的に壁ドンされてしまいドキドキする梨花ちゃま」
古出梨花はいつものようにサロンで茶会を開くため、友人と廊下を歩いていた。足元には柔らかく、高級感のある絨毯が敷き詰められている。梨花の故郷である雛見沢には一つとしてこんな絨毯の敷かれた建物は無かった。それだけでもこの聖ルチーア学園に入学した価値があると梨花は常々思っている。……あの村には、昔ながらの日本家屋や合掌造りの家ばかりが立ち並んでいる。普通に暮らす分には日本の原風景を感じられる良い景色なのだろう。……けれど、梨花はそこに百年も閉じ込められていたのだ。少しは飽きが来るというものだろう。
赤い絨毯の感触を楽しみながら歩いていたからだろうか。梨花は前方から来る人物に気づくのが少し遅れた。……でも、梨花の友人たちが身を固くし、わずかに眉を顰めたことで容易にそれが誰かは知れた。
「……沙都子」
「あら、梨花ではございませんの」
そう言いつつ、沙都子は梨花と距離を詰める。
「……梨花と二人きりで話がしたくて参りましたの」
「……っ、そんな、梨花さまと二人きりでなんて……許せませんわ!」
梨花には良くわからなかったが、取り巻きは揃って憤慨している。それを見て沙都子は鼻で笑った。
「わたくしたちは幼馴染ですの。……あなたたちには分からない、積もる話もたっくさんありましてよ」
「沙都子。そんな言い方をするから誤解を招くのです。……私は沙都子と少し話があるので、皆先に行っておいてもらえますか?」
「そ、そんな訳にはいきませんわ! あのような方と梨花さまを二人きりにさせるだなんて……!」
「あら、わたくしに何かご不満でも?」
沙都子はゆっくりと歩を進め、梨花とその取り巻き達を壁のほうへ追いやっていく。沙都子の迫力に押された梨花達は少しずつ後ずさり……気が付くと壁際に立っていた。
「な、なんのつもりですか!」
少しだけ泣き出しそうな顔をした取り巻きの一人が、声を上げた。
「わたくし、言いましたでしょう? 梨花と、二人だけで、話がしたいって」
「北条さん……あなたっ……!」
梨花には指一本触れさせまいと梨花の前に立ちはだかった女子生徒は、勢い余って躓きよろめいた。
「……危ない!」
その瞬間、沙都子は女子生徒を支え、体勢を戻すと……自分の姿勢を崩してしまう。
「沙都子っ!」
「梨花……ッ!」
……その瞬間。何がどうなったのか。沙都子は梨花を壁際に追い詰め……いや、正確には、その腕と壁の中に梨花を閉じ込めていた。
(沙都子の顔が……近い。こんなに沙都子の顔を近くで見るのはいつぶりだろう。昔は同じ布団で眠ったり……ずっと傍にいたのに)
梨花は思う。そして沙都子の顔を見つめた。
(沙都子……いつの間にこんなに……大人になったのかしら。まつげが長い……昔から整った顔だったけど間近で見るとずっと……)
端正で、どこか男性的な部分もある凛々しい顔だ、と梨花は素直な感想を抱いた。鼻先が触れ合いそうなほど近くに沙都子が……居る。
(沙都子……)
そう思えば思うほど、なぜか頬が赤らんでくる。沙都子は、何を考えているのかどこか読めないような真剣な顔で梨花を見つめている。
「梨花。……お顔が赤いですわよ。お風邪かしら? ……昔みたいに、一つの布団で、看病してあげた方が良いのではありませんこと? ほら。梨花が熱を出したときに。……私の躰が冷たいからって、梨花にせがまれて一つの布団で眠ったことがありましたわ」
「……そ、そんなこともあったわね」
梨花の友人達が衝撃を受けた顔がちらりと見えた。しかし、今の梨花には彼女たちに構っている余裕がない。
「……梨花。……わたくしは、あなたのことが大好きでしてよ」
「……沙都子……」
真っ赤になった顔をどうしていいか分からず、梨花は俯く。その様子を見た沙都子は、
「……今日はこのくらいにして差し上げますわ。ご友人たちが居ては、ろくに話も出来ませんもの」
といって、体を引いた。
「沙都子、ボ……私はいつでも、相談に乗るわ……」
朱の差した頬を押さえながら、それでも梨花はそう言った。沙都子は寂しげに笑いながら、
「……いいえ梨花。それは、嘘ですわ。噓つきの梨花」
そう呟きだけを残して去っていった。
(梨花様と……一つの布団で……?)
(許せない許せない許せない……)
(北条……沙都子……!)
梨花の取り巻き達から沙都子への当たりがきつくなったのは、また別のお話。