満開の桜の木を背景に「桜が咲きました」と大きく書かれているポスターを目にした。今度花見会場でイベントをやることになったのだが、その会場となっている公園のポスターだ。まあ、花見はイベントの下見で行ったし、アイツと行きたいなあ言うてイベント当日はアイツもおるし、一緒に花見出来ん事もないねんけど。ホラ、ありますやん。デート的な雰囲気というか。ふたりで見に行きたいなあ、という気持ちが芽生えた。
「茜?」
「んー、今行く」
以下、シミュレーション。
『一緒に花見行かん?』
『オレアニキと行く約束してっから…』
言いそう。
『つかオマエこの前下見で行ったじゃん。つかイベントでも行くし。そんな花好きだっけか?』
以上、シミュレーション。うわ言いそう。どっちもあるなあ…普通に断られそう。いや絶対断るやん……花みたいな髪と顔立ちしとるくせして植物に興味なさそう。…あ、けど前に行ったいちご狩りははしゃいどったし、食える植物以外の興味がそんな無い気がする。あるのだろうか、花を慈しむ心。朝練の時にでもさりげなく、スマートに聞いてみよう。
「なあ十希」
「あー?」
「花とか好き?」
「………頭でも打ったか?」
「アホか!」
「オレのセリフだろ!そうでないなら…テスト勉強でやられたか…気の毒だ…」
しばいたろか…オレが言いたい事は何故か桜晴の方が鋭く察したようでかわいそうなものを見る目で見られた。
「桜が咲きましたーてポスターあるやん。玄関とこ」
「あったな」
「そんで、なんとなく」
さりげなくスマートに聞く作戦、失敗である。
「………あっ」
遅れて察したのか、気まずそうに桜晴をバッと見たが、「オレその日はお腹痛くなる予定なんで!」と断られていた。デートだと気付いた上で桜晴誘おうとすんな!
「い、いーけど?別に…行ってやっても」
「そ、そお?ほんなら持ってくるもん分担しよか…」
スマン桜晴。もっとスマートにさりげなく事を運べたらこんなあからさまなデートのお誘いを目の前でする事もなかったのに…お地蔵さんみたいに穏やかなカオさせてしもた。
「ウチにこれっくらいの弁当箱あるから弁当持ってくるな…」
「じゃあオレは飲み物とレジャーシートと…団子とか食う?」
「あったら食う」
「いーけど、オレの目の前でどこまで相談するんですか…いーけどさあ…」
相変わらずお地蔵さんみたいな顔した桜晴につっこまれつつお互い持ち寄るものを決めて花見デートすることになった。どうやったらスマートに出来るようになるんかな…五年くらいかかりそうや。
花見当日、せっかくやし早起きして弁当を作ってみた。作ったはいいが。
「……めっっっっっっちゃ気合い入ったガチ弁当やん……」
「思いますう…?」
気合い入れ過ぎてしもた。自分で味付けしたおいなりさんにー卵焼きにー唐揚げまで揚げて、妹の弁当用の桜の花びらの形にハム切れる抜き型で飾り付けして…もうこれガチガチやん。まごうことなき本命宛のガチ弁当や。作ってる最中に薄々勘付いていたが遅く起きてきた妹にそうはっきり言われると余計そう感じる。めっちゃかわええ。お花見を百楽しむ人間のこさえた弁当や…
「卵焼き一個ちょうだい」
「アカン」
「ドケチ」
どうあれ十希との花見のために拵えてん。けど…あまりに恥ずいから、オカンに持たされた事にしよ。バレへんバレへん。頭の上にピョンと旗が立った気がした。
「桜が咲きました」と書かれたポスターはオレも見ていた。つか花見イベントやる会場のだしオレだってとっくにチェックしてる。つってもアイツ桜…つーか花?そんな好きねえじゃん、と思ってスルーしてた。ところがイベントの衣装合わせで以外にもピンクが似合う…というか、こう…良い。悪くねーじゃん…と。つってもアイツの事だから花見は神野藤とかと行きそうだし、下見とかでも一回見に行ってるから誘ってもそんな乗らねえだろうなと思っていたら周りくどく誘われた。花見デート…何着るかとか、何持ってくかとか色々考えてたらあんまり眠れなくて当日を迎えた。寝坊はしてねーけど結局何着てくか決めきれなかったから慌ただしくなって朝メシ食い損ねた。公園は丁度オレらの家の間にあるから公園の入口で待ち合わせしている。
「ハヨ」
「おはようさん。ん?顔色悪ない?」
「なんでもねーよ」
ソワソワし過ぎて寝れなかったなんて言えるかバカ。満開に咲いてる土曜というのもあって公園は家族連れやどっかの会社の集まりで結構混んでる。絶対、何が何でも一番の木の下がいい!といった特別な拘りもねえし、花が見えてりゃいいかな、と空いてるところにシートを広げてふたり並んで座る。
「炭酸あるけど」
「オレンジー」
持ってきてた保冷バッグを広げて見せると一本取ってった。普通にジュースだけどそのへんの会社員の花見の乾杯の音頭を見てちょっと真似してみた。
「カンパーイ」
「うえーい」
ジュースだけどそれだけでぽいな。花見とか、前は人多いし花そんなに興味ないしで関心なかったけどコイツと行ってもいいかも、と思うくらいには恋人がいる生活に浮かれてるらしい。隣を盗み見ているとぐう、と腹が鳴った。朝メシ食ってねえからだ…
「弁当あんで」
「食う。……ウワッなんだこれスゲー!」
「お、オカンが張り切ってしもて」
「かーさんに今度礼言わねーとじゃん」
「別にそれはえんちゃうかな、ウン」
挙動不審だな。怪しいが二人で弁当を頂く事にした。うわ、おいなりさん米に胡麻入っててウマ…思わずカオが緩んだ。
「美味い?」
「うめー…おいなりさんに胡麻入れっとすげーうめぇんだな」
「そやでーおいなりさんに胡麻はマストや!」
かーさんが作ったと言っていたのに何故か米谷本人が得意げだ。かーさん褒められて嬉しいのか?カワイーやつ。卵焼きを頬張ったところでちょっと首を傾げた。
「……」
「十希?…あ、カラ入っとった?」
「いや……米谷さ、これ作る時手伝った?」
「エッ!?な、なんで?」
「なんか…卵焼き、オマエが作った時の味だから」
かーさんの卵焼きの味じゃない。米谷の卵焼きの味だ。別になんか責めてるとかじゃねーけど、それきり黙っちまった米谷を見るとなんでか顔が真っ赤っかになってた。
「な、なんだ!?」
「やっ…気付くかフツー…」
「卵焼きの味?」
「オカンのと違うって、普通気付かんて」
「気付くに決まってんだろ舐めんな」
オレが米谷の作ったモンの味間違える訳ねーし。
「……オレが作りました」
「卵焼き?」
「や…全部?」
「へー!すげーじゃん」
「あーーーー…はっず」
「なんでだよ」
「めっちゃ楽しみにしとった気持ちが弁当に現れたのが?」
なんだソレ。別に、そこまでは言われなきゃわかんなかったってのに。一人猛烈に照れてるバカのせいでこっちまで恥ずかしくなってきた。微妙な空気が流れたが、目の前で何かがひらりと踊る。
「おっ、米谷、米谷米谷見ろよおい」
「んー…おわっ、ちょい待ちスマホスマホ」
ひら、と飛んできた花びらがオレの鼻の上にチョンと乗った。撮って撮ってと手をわたつかせてるとすかさずスマホで撮ってくれた。
「うははは!ま、マヌケ面やんこんなん!ぶっさ!」
「見せろよ。……はははは!ひょっとこみてーになってんじゃんヘタクソ!次もっとキメっからちゃんと撮れよ!」
花びらは笑ってる間に飛んでっちまったけど米谷が照れまくったせいで微妙に気恥ずかしい気持ちになってた空気が和んだ。弁当食った後は時々思い出したようにキメキメの写真撮ったりしてたら春の陽気とは言え空気はまだ冷たく、長時間そうしているだけで体が冷えてしまった。
「っぷしょい!」
「くしゃみ助かりますう。寒なった?」
「や、ヘーキ」
「風邪ひいたらアカンしぼちぼち帰るか」
「ヘーキだって」
「あきまへーん」
くそ、もう終わりか。あっさり片付けを始めてしまった米谷に内心落胆しつつシートをたたみ、空になった保冷バッグも小さくしてトートバッグにしまい荷物を減らす。オレは、結構楽しかったけど。また来てもいーかもってくらいには。けどあっさりじゃあ帰ろうかと言うってのはオレほどではなかったという……
「コラ!フラフラすんな」
「お?」
「お?やないて。疲れたん?」
「いや」
考え事しながら公園の出口に向かい、米谷が帰るのと逆方向に足を向けると持ってたトートの持ち手を引っ張られた。
「疲れてへんかったらコッチ」
「逆方向じゃん」
「?そらそうやろ、オレんちこっちやし」
あ?もう今日はここで終わりじゃねーの?帰るっつったし………
「…帰るって、オマエんち?」
「………そらそうやろ」
そうなのか。ちょい気まずそうに口を結んだ顔見てまた貰い照れした。
「べ、べべ、別に?下心ないし?ホラ、今日はアソブ大全で十希ボコったろ思てるだけやし?」
「あ、あ、あったりまえだ!つーかボコられんのはそっちだろが!」
今んとこ五分五分だし、今日こそ突き放して圧勝してやるっつの。妙な気恥ずかしさがどうにも拭えない。ぐい、とそのままトートを引っ張られて進む。
「てか離せよ」
「…嫌でーす」
「なんで」
「こんだけ明るいと手もつなげへんし。代わり」
手、繋ぐ、かわり。じわ…と顔が熱くなった。せっかく意識しないでいようと思ったのになんでコイツはこう、オレの努力をさ…
「し…」
「し?」
「下心、ちょっとくらいなら出してもいんじゃね……」
「エッ……」
仕返しに意識させてやろうと思ったら想像していた倍以上の効果があって逆に何も起こらなかった。
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63:12
高柳つむじ
時間オーバーしてる!あああああ;;;;
77:02
高柳つむじ
おわり
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桜が咲きました
初公開日: 2022年04月09日
最終更新日: 2022年04月09日
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コメント
お題「桜が咲きました」を茜十で
おっと、誰か来たようだ
愛実×了太郎 おべんとう気合い入るよね…彼氏のだもんね…終始眠たい気持ちで書いてたので打ち間違いだら…
高柳つむじ
ハリボテ・ドルチェ
付き合っていて同棲している牛尾先生×先生(つしま)津島先生という存在の説明が不要な方のみでお願いしま…
高柳つむじ