世界の終わりは思いのほか静かに訪れた。
 何かがおかしいことに気づいたのは、目覚めてしばらく経ってからのことだった。
 いつものようにすっかり窓の外が暗くなってから目覚めたトウジは、しばらく布団の中でだらだらと過ごした後、手を伸ばして脱ぎ捨てていた上着のポケットを探って煙草を取り出した。ベランダに出ると、冷房で冷えていた身体がじんわりとあたたかくなる。ほんの少しだけ秋の気配を含んだ風が髪を揺らした。
 トウジはくしゃくしゃになったラッキーストライクのソフトパッケージから湿気かけた最後の一本を取り出し、ライターで火をつけた。明るい時間に寝ているせいで眠りが浅いのか、まだ睡魔が瞼のあたりに重くのしかかっているようだった。きしむ欄干に背を預けながら煙をくゆらせている間に少しずつ頭が冴えてきて、ふと、周りがやけに静かだということに気が付いた。昨日までは繁みで鳴いていた虫たちの声が一切聞こえない。ざわざわと、本能に何かが嫌な予感を呼び掛けている。
 いつもならこの時間、仕事や学校から家に帰る人たちが道を行き交い、暇を持て余した不良たちがけたたましい音を鳴らしながら道路を走っている時間だ。なのに、誰の足音も、話し声も、車やバイクの音さえ聞こえない。真夜中のような濃密な静けさがトウジを包んでいた。
 時計の針は夜の九時を指している。西の方の空ではまだかろうじて沈み切っていない太陽が、夜の色と混じり合って空の端を紫色に染めていた。
 アパートの目の前にある歩道を見おろしてみたが、通る人は誰もいない。ただ奇妙な形の街路樹が枝を伸ばしているだけだ。あんなところに街路樹なんてあっただろうか?それとも、寝ている間に誰かが植えたのか。普通、街路樹というものは歩く人を邪魔しないように道のわきに生えているものだと思うが、その木は歩道の真ん中に生えている。
 二度目の違和感はゲームの中だった。普段遊んでいるリアルタイムマッチングのゲームを始めようとしたが、誰ともマッチングしなかった。そのうちサーバーへの接続がタイムアウトになり、トウジはコントローラーを床に置いた。
 もしかしたらゲームサーバーで何か不具合が起きているのかもしれない。そう思って調べてみたが、何の情報も上がっていない。そこでトウジはまた気が付いた。SNSの更新が止まっている。すべての投稿が、ぴたりと止まっている。更新してもなんのポストも流れてこない。SNSだけではない。いつも見ているまとめサイトも、掲示板も、ポルノの投稿サイトもすべて止まっている。
 トウジはスマホを再起動してみた。何も変わらない。ルーターの方も再起動してみたが、やはり変わらない。かなり大規模な障害らしい。仕方ない。大きく背伸びをしたら、固まった背中がぽきぽきと音を立てた。
 かかとの潰れたスニーカーを履いて外に出ると、ぬるいゼリーのような生温かい空気に包まれる。コンクリートは、昼間の間にたっぷりと太陽の熱を吸い込んだみたいだった
 外はやはり静かだった。キリギリスやコオロギの声さえ一切聞こえない。ざわざわと、何かが自分の本能に嫌な予感を呼び掛けている。
 古びた自転車を漕いでいると、さっきベランダから見ていた街路樹のようなものがまたあった。誰かがそこへ運んできて置き忘れてしまったみたいに、木々は堂々と道の真ん中に置いてあった。
 木々はトウジの背丈ほどの大きさがあった。小学生の頃、通学路に植えてあったポプラの木とよく似ている。しかし、近づいてみるとそれはただの木ではなかった。
 ――ひゅ、と喉の奥から奇妙な音が出た。
 細く茶色い枝と青々とした葉っぱの間に、人間がひとり包まれていた。スーツを着た中年の男だ。その顔は白く色あせている。まるで美術館に展示されている石像みたいに。
 どくんと心臓が跳ね、早鐘を打ち始める。動けなかった。トウジはただその“木”を見つめたまましばらく呆然と立ちすくんでいた。
 いや、作り物かもしれない。最近は本物の人間と見まごう程精巧な人形も多い。トウジはまず葉っぱに触れてみた。本物の植物だ。枝をかき分けると、中にいる男の頬に触れた。冷たいが、やわらかくしっとりと水分を含んでいる。決してシリコンみたいな無機質の物質ではない。……死体だ。
 トウジは叫んだ。そこからどうやって部屋まで戻って来たのかよく覚えていない。気が付いたときには鍵をかけ、カーテンを閉め、部屋で呆然と立ちすくんでいた。
「なんなんだよ……」
 ひとりでつぶやいた言葉は少しかすれていた。ここのところまともに人と話していなかったせいで声の出し方を忘れているみたいだった。
 何か、異常なことが起きている。
 親指の爪を噛みながら、行く当てもなく部屋の中をうろうろと歩きさまよった。夢なのかもしれない。そう、ふと思った瞬間に足の小指をしたたかに椅子の脚にぶつけた。布団にうずくまりながら、これが紛れもない現実であることをトウジは理解した。
 おかしくなっているのはこの周辺一帯だけなのか?それともネットが繋がらないということはもっと広い範囲に起こっているのか?
 電話やメッセージアプリはどうか。未読のメッセージはない。一番新しいメッセージ履歴を開くと、それは母からの「仕送りを送った」という報告だった。
 静けさが耳に染みて痛かった。疎ましかったはずの喧騒が恋しく思える。
 誰かに声をかけてみようか。しばらく考えたが、メッセージを送るべき相手が思いつかなかった。大学には久しく顔を出していないから、友人と呼べる相手はいない。高校時代に言葉を交わした友人たちとも、卒業後一度も連絡を取っていない。人と話をしないようになってどのくらい経つだろう。
 考えていてもらちが明かないので、実家の固定電話に電話を掛けてみた。静かな部屋に呼び出し音が響き、鳴り続けてから留守番電話に接続された。冷汗が背中を伝っていく。
 何が起きているのか。さっき目にした人間の形をした植物の姿が脳裏に浮かぶ。もしかして――
 考えるより早く、トウジは布団をかぶると無理矢理目を閉じた。眠気はやってこなかったが、それでも目を閉じ続けた。眠って、再び目覚める頃にはきっと何もかも元通りになっているに違いない。長い間そうやって目を閉じているうち、思考は眠りに溶けていった。。
「トウジくんの番だよ」
 顔を上げると、そこには小学生の頃のクラスメイトがいた。手元に目を落とすとカードが見える。以前、大学のゲームサークルで流行っていたそっとおやすみというカードゲームだ。おしゃべりをしながら、ババ抜きのようにカードを1枚ずつ交換する。同じ絵柄が四枚揃った人は周りに気づかれないようにそっとカードを机の上に伏せる。それに気づいた周りもカードを伏せる。最後まで気付かずにカードを伏せられなかった人が負けだ。サークルで流行ったときに何度か遊ぶ機会があったが、トウジはこのゲームが嫌いだった。一度も勝てた試しがない。気が付くといつも自分が最後まで残っている。緊張で背中がひんやりと冷たくなった。
 それにしても、なぜ小学生の頃のクラスメイトとこんなゲームをやっているんだろう。そんな疑問を追求する前に、彼らは話し出す。
「算数の問題でさあ」
「俺、この前すっげえでかい犬見た」
「大人になったら、ケーキ屋さんになろっかな」
 ぐるぐるといろんな話が飛び交い、手元のカードが入れ替わる。話についていこうとするとカードの方に集中できないし、カードの方に集中していると周りの動向を見落としてしまう。
 ハートがあと一枚きたら手元のカードがそろう。そうしたらカードを伏せればいい。周りが揃う前に自分が揃えればいいのだ。
 いいぞ、と口の中で呟いてカードを見つめているとき、ふとおしゃべりが止んでいることに気が付く。顔を上げると、そこにいたのは小学生の頃のクラスメイトではなく、大学の同級生たちだった。ほのかに好意を寄せていた女の子もいた。彼らは皆いつの間にかカードを机の上に伏せて、トウジの方を見て笑っていた。
「あんなに自信満々だったのにな?」
「首席でもできないことってあるんだな~」
「大丈夫だよ、他のゲームにしよ」
 ざわざわと大勢の声がする。彼らの顔にノイズがかかり、そこに現れたのは父と母と妹だった。
「なんでこんな簡単なこともできないんだ」
「だからお母さんは止めたのよ」
「かっこわる」
 怒鳴り声。泣き声。笑い声。三人の声はどんどん大きくなり、やがて歪んで不協和音になった。突然、彼らの目からにょきにょきと緑色の蔓が出てきたかと思うと、あっという間に彼ら自身を飲み込んでしまった。
 はっとして目を開くと、カーテンの隙間から光が射しこんでいるのが見えた。遠くで鳥たちが鳴いている。眠ったはずなのに、ぐったりと疲れ全身にびっしょりと汗をかいていた。
 トウジは窓を開けベランダに出て、道を見下ろしてみた。植物はまだそこにたたずんでいる。人が包まれていることを意識してそれを見ると、ゲームや漫画に出てくるクリーチャーのようにも見える。しばらくの間眺めていたが、動く気配はない。
 それらはただじっと静かにそこに存在していた。
 ぐうう、と腹の底から身体が空腹を訴える音が響いてくる。冷蔵庫に入っているのは大学に入学した頃に買いそろえた調味料と、ひからびたネギだけだった。いつもなら戸棚にカップラーメンを買い置きしているが、それももうなかった。空腹を誤魔化すために煙草を吸おうとして、そういえば煙草を切らしていたことを思い出す。思わず舌打ちが漏れ、それから深くため息をついた。
 トウジはスウェットからTシャツとジーンズに着替えて、帽子をかぶった。武器になるようなものを探してみたが特になく、とりあえず包丁を一本、タオルに包んで鞄に詰め込んだ。
 スニーカーを履いて外へ出た。朝日が目にちくちくと痛い。こんな時間に外に出るのは久しぶりだ。肌が太陽の光に晒されて熱くなり、夏休みに虫を取るために早起きした日のことが思い起こされた。
 世界は静かに眠っていた。以前と違うのは人型の植物があちらこちらに鎮座しているところだ。ファストフード店の椅子、駅前のロータリーに停まったタクシーの中、横断歩道。いたるところに、その人型の植物たちはいた。横を通る時にすこし緊張したが、植物たちは素知らぬ顔で立っている。家々の間から見える青空には入道雲がどっしりと構えている。数日前はあれほどまでにやかましく鳴いていた蝉は、相変わらず沈黙していた。
 トウジはそのまま駅前まで行き、駐輪場に自転車を停めた。駐輪場には他にも何台か自転車やバイクが停められているままだ。この持ち主たちも、街のどこかで植物に包まれているのだろうか。
 そして駐輪場の出入り口にある警備室には、やはり人間植物(トウジはとりあえず彼らをそう呼ぶことにした)がいた。黄色い電灯に照らされ、椅子に座っている。
 蔓の間を覗き込むと、中年男性の顔が見えた。生きているのか死んでいるのか分からないが、その顔は青白く生気を失って、目覚める気配がない。
 トウジはしばらく駅前を歩き回ってみたが、大体どこも同じような景色だった。パン屋、クリーニング屋、郵便局。交番や、ファミレス。中には人間植物がぽつりぽつりといた。トウジのような植物に包まれていない人間はどこにも見当たらない。
 ひととおり駅前をぐるりと歩き回った後、商業ビルに入り、エレベーターで最上階まで上がった。
 ガラス窓越しに街を見下ろしてみるが、動いている人間は見つからない。
 停止した街は、まるで大きなジオラマが広がっているようだった。
 なぜ、自分だけが無事なのだろう。それとも、もうすぐ自分も近いうちに同じ姿になるのだろうか。しかし不思議とあまり恐怖は感じなかった。
 まあ、それでも構わない。元々ただ死んでいないというだけで、生きていると言えるのかよく分からない人生だったのだから。
 トウジはビルに入っていたコンビニの棚からおにぎりを選んだ。それから、人間植物が立っているカウンターに入ってラッキーストライクの箱をひとつ取った。一応、トレイには千円札を置いておいた。
 窓際のイートイン席でおにぎりを食べ、静かな街を眺めながら煙草を吸った。吸殻はゴミ箱から適当に拾った空き缶を使った。
 もしも、自分に残された時間が短いのだとしたら、最後に思い切りしたかったことをしてやろうか。ニコチンでクリアになった頭に、そんな考えが浮かんだ。しかし、自分のやりたかったことって一体なんなんだ?
 煙草を吸いながら、トウジは鞄からケーブルの絡まったイヤホンを出してほどこうとした。そこでふと、もう周りへ気遣う必要がないことに気が付き、そのまま再生ボタンを押した。
 最初に、明るく弾むドラムの音が静けさを破った。聞き慣れた、少女の声を模したボーカロイドの歌声。トウジは音量ボタンを押して、ボリュームを最大にした。スマホから微かに振動が伝わる。
 アップテンポの曲調と無機質な女の子の歌声に合わせて、胸が高鳴っていた。それは人間植物を見たときとは違う種類の鼓動の高まりだった。初めてその曲を聴いたときに感じた、慰められるような、勇気づけられるような気持ちを、トウジは久しぶりにしっかりと味わっていた。
 いつの間にか、トウジは流れる曲に合わせて小さく歌っていた。少し音程が外れていても、声がかすれても、歌詞を間違えても平気だ。ここには自分以外には誰もいない。誰かに見られることもない。責められたり笑われたり、逆に自分が誰かを傷つけたりすることもない。
 こんなに晴れやかな気持ちになったのは本当に久しぶりだった。
 スマホをズボンのポケットに突っ込んで、トウジはまた街を歩いた。
 以前、カツアゲをされてから一度も入っていなかったゲームセンターに行って遊んだ。それから本屋に行って、足が棒のようになるまで雑誌や漫画や本を立ち読みした。
 夕方になると、スーパーで一番大きで新鮮そうな刺身の盛り合わせを買い、バーに入ってそれをつまみに瓶ビールを飲んだ。
 あちこち歩き回ったのと滅多に飲まない酒を飲んだのとで、家に帰る頃にはくたくただった。トウジはシャワーも浴びずに布団に飛び込んだ。一日が過ぎるのはこんなに早かっただろうか。
 布団の中で自分の汗のにおいに包まれながら、いつもより自分の呼吸が深くなっていることに気が付いた。まるで生まれ変わったみたいだ。そう思うと鼻の奥がつんとしてきて、少しだけ泣いた。そして、背中を丸めて縮こまり、深く深く眠った。トウジは久方ぶりに夢のない、穏やかな暗闇の中に包まれた。
 次の日は朝からスコールのような雨が降った。雨の中、トウジは自転車で家の周りを見て回ってみた。雨は、街へたどり着いたころに丁度止んだ。
 道端で、野良猫が蔓に包まれているのを見つけた。道路にはぽつぽつと人間植物の乗った車やバイクが停まっていた。ガードレールのすぐ横に、人間植物が倒れているのを見つけた。そばにはホンダの赤いバイクが倒れている。”何か”が起こったときに倒れたのだろうか。それとも、運悪く事故が起こったその直後に世界が変わってしまったのか。
 トウジはバイクを起き上がらせて、汚れをはらうと座席にまたがった。
「ごめんな。もらってく」
 傍らに転がっている、人だったものに声をかけると走り出した。
 スマホから大音量で音楽を流しながら、あてどもなく街を走った。爆音を鳴らして走っていく暴走族を今までずっと馬鹿にしていたのに、いざ同じことをしてみると気分が良かった。
 三日目、朝起きると電気がつかなくなっていた。供給が止まったのだろう。
 真っ暗な中でシャワーを浴びた。そのうちガスも止まるだろう。
 引っ越しのときに使ったガムテープを、押し入れの奥から取り出して、窓に目張りをした。玄関のドアにもしっかりと。決して外の空気が部屋の中に入ってこないように、厳重に。
 すべての準備が終わると、クレジットカードの請求ハガキを部屋から探し出して、ボールペンを持った。
 こういうとき、何をどう書けばいいんだろう。そもそも、誰に向けてのものなんだ?
 分からないまま、ぐるぐると特に意味のない模様を書いているうちにハガキは真っ黒に塗りつぶされてしまった。
★★★
 ガスの元栓をひねった。ガスの匂い。天井にぶら下がっている電球を見つめているうちに、意識は段々と遠のいていった。
★★★
 そしてショルダーバッグに枕、煙草とライター、携帯型のゲーム機と、一番お気に入りの本とCD、アニメのDVDを突っ込んだ。
 街へ行き、キャンプ用品の店で大きな登山用リュックを選び、サバイバルナイフとパラコードを入れた。本屋で地図を選び、何冊かの本と漫画もついでにリュックに入れた。スーパーでは缶詰を中心に保存食を選んでリュックに入れた。それから電池と、電池から充電できるケーブルと、持てる限りの荷物をバイクに積み上げ固く縛った。
 その日の夜は家具売り場に置いてあるベッドに横たわり、この辺周辺の地図を眺めた。ベッドの傍らには値札が付いていて、ゼロがたくさん並んでいた。せんべい布団の寝心地とはたしかに違うような気がしたが、あまりうまくは眠れなかった。
 次の日、トウジはバイクで大学へ向かった。自転車では長くかかる道のりも、バイクだとあっという間だった。
 鉄扉を抜け、キャンバスの中を歩いた。
拠点造り
 二号棟に行く途中にある廊下に行く
 展示されている南極の氷
靑緑髪の少女と出会う
初音ミクに似ている女の子
少女は何も話さないがトウジについてくる
トウジは彼女を拠点に招く
「人は滅びたのかな」
「なんで俺らだけ残ってるんだろう」
少女の瞳は、大学にあった南極の氷に似ている
翌朝、少女はぽつりぽつりと話し始めるようになる
「トウジ」
名前を聞くが、少女は首を振る
「せっかくだからさ、どこか行きたいところとかやりたいことある?」
 少女が雑誌の中の観覧車を指さす。
「トウジが好きな場所」
「まあ、嫌いじゃないけど」
 昔、家族で行った遊園地。
 少女はじっと見つめている。
「……行ってみる?」
 少女の目が輝く。
 ふたりで遊園地に行く。
 メリーゴーランド。なんとか機械を操作して乗る。ジェットコースターに乗る勇気は出なかった。
観覧車。沈黙。
 少女は外の景色を見ている。手を伸ばして触れるべきかどうか迷う。
「暑いね。窓開けよう」
「たのしかった?」
 少女は頷くが、そのあと少し何か考えた後うつむいてしまった。
 帰路
 夕陽
 アスファルトからの熱
 空の端っこで、青と茜色が混じり合っている。その境目あたりの少し上に星が見えた。
「あなたは、いつか私を疎ましく思うようになる」
「どういう意味?」
 彼女は答えず、ただまっすぐにトウジの目を見た。
「トウジには、もっとトウジのことを好きになってほしい」
 少しの間、彼はその言葉をうまく飲み込むことが出来なかった。
 トウジには、もっとトウジのことを好きになってほしいの。
 俺が、俺のことを?
 彼女は何を言っているんだろう。
 そして、一拍遅れて怒りがやってきた。
「俺は、一緒にいてくれなんて頼んでない。お前が勝手に俺についてきたんだ」
「……」
「お前は俺の何を知ってるって言うんだ?」
 思わず語気が荒くなる。少女はじっと黙っている。
 重くて、堅硬(★要ルビ)な沈黙がふたりの周りを包んでいた。石の中にいるみたいに、身動きが取れない。
「私は」
 ーー長い長い空白の後、少女は口を開いた。
「ずっと、あなたのことを見てた」
 そのとき、遠くでサイレンが鳴り響いた。
 行って覗いてみると、そこには迷彩服を着てガスマスクをかぶった兵士たちがいた。
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そっとおやすみ(仮題) 9/13文学フリマ大阪
初公開日: 2026年08月03日
最終更新日: 2026年08月03日
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コメント
9/13に文学フリマ大阪へ出展予定の『そっとおやすみ』という小説を書いています。
2026/7/17 一次創作「古本屋」
古本屋に立ち寄る主人公のショートショート
ぴぉ
ブルロ351話について思うことを書き出す
ブルーロック第351話(最新回)について自分の考えを書き出して行くライブです ※ がっつりネタバレで…
シロタビ