立梠の右手は四本指である。生まれながらでないことは、いくらかの痕跡から知っている。
 それでも、何の不自由もない。手本のように箸を扱えるし、今もこうしてすらすらと文をしたためている。立梠にとって欠いた指は、『視力』と同じように、ポケットから零れ落ちるように失くした部品の一つであった。
 強いて言うなら、と、審神者は考える。これを『文』と表すと、宛先の相手から苦言を呈されるかもしれない。書いているのは、歌仙兼定に使わせるための食材調達用自動機械の手引書のようなものだ。
 それに。あの自動機械は、はたして本当にカメラ機能の付いていないものだっただろうか? もしも何かの弾みで、歌仙兼定と一緒に当の自動機械(ほんにん)の『目』に入りでも、したら?
 そうなったところで問題のない製品を選んだはずである。何度も何度も検討を重ねたものを、自分を、まだ疑っている。
 立梠は目下、そのようなことで悩み続けている。
「審神者様」
 そこに、滑り込むようにして管狐がやってきた。
「お食事をお持ちいたしました」
「……ご苦労様です」
 配膳した自動機械が、はんなりと間を取った。片手をあげた立梠は、その間、ぎくりと動きを止める。
 しばらくして、何事もなかったかのように自動機械は去っていった。
「……わたし、何かしましたか?」
「なにも」
 向かいの鬼丸国綱は、もう箸を取っている。無愛想な太刀一人以外に、意見を求められる相手はいなかった。
「……ああいう方に話しかけるのって、変なんでしょうか?」
「業務用の流れ品だろ? クレーム対応のためにあんたの発言を『よく聞いた』だけなんじゃないか」
「それで問題なさそうだから帰った、と?」
 立梠は、まだ手を半ば挙げた姿勢のままだ。
 鬼丸は呆れ顔で言った。
「あんたは機械に愛想を振り撒かれることに慣れすぎだ」
「……それってちょっとでも言われる側の気持ち考えました?」
「あんたにだけは言われたくない」
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