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山羊の星には牡羊の星から道を開けてもらって、すぐに到着することができた。
そこはいままでに見たことがない景色だった。
浸水している。といえばいいだろうか。水がひざ下ぐらいまであって、それが見渡す限り続いている。水から出ているのは岩肌の丘。唯一高い石のような丘のてっぺんからは水が噴出してるし、正直人が歩ける場所は広くはない。
家もないし、ここって人が住めるのか? 今のところ人どころか生き物も見当たらないけど……。
「……なんつーか、すごいところだな」
レグルスの言葉にみんなが頷く。
「山羊の星って、昔話にもあまり出てこなかったから、なんだか意外……」
「たしかに山羊の星は、あまり詳しい話は聞かないな」
ヘレのつぶやきにスピカが同意した。
俺は記憶を辿る。山羊の星……たしか水源豊かな、水の都……色とりどりの魚が跳ね回る優雅な星。だったかな。あぁ、うん。あんまり詳しくは教えてもらってないかも。しかも見た感じどうにも現状と合ってない。
「うん、教えてもらってたのとも違う……」
「うふふ~。神秘に包まれてますのよね~。でも安心してよいですわ~。今回は~、ちゃんと説明してくれそうな方々が~おりますわよ~」
アルディさんが、どこかに手を振っている。そちらに視線を向ければ二人、こちらに向かってきている。
「ああ。サダルと、タルフか」
スピカが納得したように、たぶん彼らの名前を口にする。
近づいてきた二人は、俺たちの前に立つと首をかしげて俺とヘレ、レグルスの顔を見てきた。
「みなさん、どうも!」
一人は、さらっとした淡い水色の髪を跳ねさせて、同じく水色のくりくりとした瞳で俺たちに笑顔を向ける。よかった、悪い人じゃなさそうだ。
後ろでだんまりを決め込んでいる男は、俺よりも赤い髪、紅いっていった方がいいかな。鮮やかで滑らかな髪を後ろで縛ってる。前髪も長いせいか、茶色を帯びている目は片方しか見えない。しかも、ちょっと目つきは悪い。口もへの字にしていて、隣にいる相手とは対照的だ。
二人ともたぶん同い年かちょっと下くらいかな。
「こんなに大所帯だったから、スピカさんもアルディさんも、来るのが遅かったんですか~?」
「そうですわ~」
「サダル、すまない。いろいろと予定外のことが起きてな」
「え~、詳しく聞かせてくださーい!」
「ああ、話すと長くなるが……まずは自己紹介をしておこう。こっちの二人が牡羊の加護を持つヘレ、アスクだ。アルディの隣にいるのは獅子の加護を持つレグルス」
スピカが紹介すると、サダルは頭を下げ、タルフは一瞥だけしてきた。
「よろしくお願いしますね! 僕は水瓶の加護を持つサダルスウド。みんなにはサダルって呼ばれてますよ。こっちの子は蟹の加護を持つタルフです! 人見知りですが、仲良くしてくださいね」
「大きなお世話やざ」
にこにこと笑うサダルと、むっとしながら冷たく短く言葉を発するタルフ。
初めて声を出したタルフの言葉は独特だ。蟹の星特有の話し方があるって聞いたから、それだろう。
乙女の星や牡牛の星と同盟関係を結ぶ水瓶の星と蟹の星の人たちということは、目的はスピカやアルディさんと一緒なんだろうか。
自己紹介が終わると、スピカが二人に現状を報告し始めた。
「なあ、あいつらってお前と同じ目的なわけ?」
「そうですわ~。もうアスクさんとヘレさんには~、私たち同盟星の現状についてお話しておいた方が~よいかもしれませんね~」
「え、待って。俺は? 聞いたのは俺なんですけどっ!」
「黙って聞いていればよろしいのではなくて~?」
相変わらずの二人のやり取りには苦笑しかない。
「同盟星の現状っていうのは?」
「乙女の星同様に~、同盟星の神も行方がわからなくなってるんですの~」
「えっ!? 他の星も!?」
「といっても~、乙女の神のように神殺しにあったかどうかはわかっておりませんわ~。牡牛の神は~、元々姿を見せる神ではなくて~、わたくしが加護を受け取った時に逢っただけですから~」
「アリエス様と一緒ですね。私もこの前、加護をもらうときに初めて逢いました」
ヘレが親近感がわいた様子で、アルディさんに相槌を打った。
「蟹の神、水瓶の神は乙女の神同様にずっと星に干渉していたらしく~、最近唐突に姿を現さなくなったそうですわ~。時期がだいたい同じでしたので~、乙女の星の招集にてわたくしたちは原因の究明を誓い合いましたの~」
「それで蠍の神に逢えって無茶ぶりしてきたのかよ」
「ええ~、すべての星の神がどうなってるのか~、確認することにしたので~。サダルとタルフは山羊の星担当ですの~」
「じゃあ、オフィウクスの星に行くのが目的じゃないんだね」
「原因がオフィウクスの星でない限りは~。ですわね~」
アルディさんはのほほんとしながら答えてかと思うと、急に表情を引き締めてレグルスを見た。
「獅子の星はー、どうなってますのー?」
一段低い声に圧を感じる。いつもごまかすレグルスに対しての牽制なんだろう。
「さあな? 獅子の星から出てずいぶん経つからどうなってるかなんてわからねぇよ」
「レグルスー?」
「……まあ、たぶん獅子の神も行方不明なんじゃねぇの」
アルディさんの圧に負けてレグルスは頭をガシガシと掻いて、ぶっきらぼうに答えた。
「獅子の神も行方不明なの?」
「たぶんなー。獅子の神は加護を奪い返すことができるんだ。それで次の王の候補が出てくればその前のヤツの加護を剥奪する。その期間が俺は過ぎてるんだけど、加護が剥奪されねぇから、ちょっとおかしいなとは思ってたんだよ」
そうか、獅子の神は加護をたくさんの人に与えるなと思ってたけど、戻ってこない人からは加護を剥奪してたのか。じゃあ、実際今はレグルスしか獅子の加護を持ってないってことかな。
「獅子の神も行方不明なら説明はつくだろ? 剥奪する神がいないんじゃなー」
「……今~、神の存在が確認されてるのは~、牡羊の神、双子の神、蠍の神、天秤の神ですわね~」
「行方不明なのは乙女の神、牡牛の神、蟹の神、水瓶の神、獅子の神ってことか」
「あと確認できてないのは、山羊の神、射手の神、魚の神の三つの星ってことね」
うん。だいぶ整理できたかも。
「話は終わりましたか?」
スピカたちも話が終わってたらしく、サダルが声をかけてきた。
「はい~。そちらも終わりましたか~?」
「はい! なかなかハードな出来事を体験したみたいで、無事で何よりです」
「はよ本題にいくやざ」
にこにこと笑うサダルに向かって、タルフが冷たく言い放つ。サダルが笑ったままタルフを見ると、なぜかタルフはすぐに顔をそむけた。
「それではタルフも待ちきれないみたいなので、山羊の星についてお伝えしますね」
「あ、うん。お願いします」
「まずこの星ですが、人間は住んでいないそうです。生き物は魚や鳥とか。あと水に強い動物のみだそうで」
「ほやで、食べ物には困らんやざ」
「えっと、誰かから聞いたって感じかな?」
「はい。山羊の神が教えてくれました。山羊の神カプリコルヌス様はあの噴水があがってる丘にいますよ」
山羊の神は、常に姿を現している方の神らしい。丘を見れば、噴水があがっている周りに綺麗な泡? のような丸いものが浮かんでいる。
「よく七色の水の玉の上に乗って昼寝をしてるんですよ。近づくとあの水の玉は結構な大きさなので、びっくりしました!」
「詳しく聞くんなら、はよカプリコルヌス様に直接聞くやざ」
「タルフはせっかちだなぁ」
「おめぇがまどろっこしいだけやざ」
サダルにはなんだかんだで返すな、タルフ。二人とも仲がよさそうだ。
「では、カプリコルヌス様に会いに行こう。案内を頼めるか? サダル、タルフ」
「任せてください!」
「だんね行こっさ」
スピカの決定に従って、俺たちは二人に案内されながら山羊の神カプリコルヌス様の元へ向かう。
白いシャツに、黒い背広。きっちりとした上着は、今まで見た誰よりも気品がある。でも、人間ではなかった。アリエス様は全部が羊だけど、カプリコルヌス様は顔は山羊で、水の玉の中にある下半身は魚だった。
いままで見たこともない姿に、驚きを隠せない。
『吾輩は山羊の神カプリコルヌスなのである』
「カプリコルヌス様、こちらは我が星の同盟星の加護持ちと、牡羊と獅子の加護持ちのみなさんです」
『この星での話声くらい聞こえるのである。だから、事情はわかっているのである』
「さすが、カプリコルヌス様~!」
サダルが相槌を打って話を進めてくれる。声は出さずに、カプリコルヌス様に軽く頭を下げて挨拶した。
カプリコルヌス様はからからと笑うと、ふわふわ浮かんだままこちらに近づいてくる。一人一人の前を通りすぎながら、顔を確認しているようだ。
「カプリコルヌス様、蠍の星で神殺しが目撃されたみたいやざ」
『乙女の神を手にかけたとのたまった輩であるな。そのうち吾輩の星にもくるのであろうなぁ』
「原因はやはり彼なのですか?」
『推察すれば神殺しをして回ってるようである。しかし、吾輩は知らないのである。ここには人間を住まわせていないのであるからして、人間の心理など毛頭わかるわけもないのである』
うっ、癖が強いなぁ。山羊の星は情報も少ないから、交友も他の星とはあまりないってことなんだろうけど。もしかして人間嫌いとかかな。
「ひっで人間嫌いの神様やざ」
タルフの率直な言葉に思わずその場で複数息をのんだ音が聞こえた。俺も息をのんだ。
『タルフははっきりと言うのである。だが、正確には違うのである』
しかし、カプリコルヌス様は笑いながら否定する。
『吾輩はちょっとおっちょこちょいなところがあるからして、人間が住むと巻き込んでしまうのである』
おっちょこちょいって何。どんな神様なんだっ!?
いぶかしげに見ていれば、カプリコルヌス様と目が合ってドキっとする。
『くしゃみをして山にぶつかったら火山が噴火するとかそういうのである』
「んぐっ……すごいですね……」
具体的に説明してきた。なんて返せばいいんだよっ。
「カプリコルヌス様っておもしろいですよね~」
「ふ、不思議な方なんですね」
にこにこするサダルに、ヘレはなんとも言えない表情のまま包みこんだ感想を言った。
おもしろいですまないだろ。噴火ってやばいじゃんっ。
『吾輩のおっちょこちょいがもっとも出るのが吾輩の加護である。加護は強力であるが、不幸属性がもれなくついてくるのである』
聞き捨てならない単語が出てくる。そろそろ誰か突っ込むか、まとめてほしい。
『であるからして、人間に加護を与えるのはやぶさかではないが、元々不幸属性を持ち得ている者でないと、マイナス作用が半端ないのである』
「要するに~、元から不憫だったり不幸だったり~、何かしらマイナスな属性があれば~、問題ないわけですわね~」
『左様である。この中であれば、タルフとお主とお主なのである』
カプリコルヌス様はタルフ、レグルス、俺を順に指さして言った。
「うらは違うやざ」
「なんで俺なんだよ」
「俺……?」
俺たちの反応とは逆に、呼ばれなかった面々が「あー」っとなぜか納得するような反応をしている。
ちょっと待ってほしい。不名誉にもほどがあるんですけど。
『人に振り回される不憫属性、金銭トラブル属性、巻き込まれ属性というような感じである』
「「「はっきり言うな!」」」
思わず出た声は三つとも重なっていた。
巻き込まれ属性って、そうだけど。人から言われるとなんだか切ない。
「でもいいじゃないですか。強力な山羊の加護がもらえるなんて」
「そうだな。この星に人間がいない以上、山羊の加護を受け取っておくことにこしたことはない」
サダルとスピカはプラス方面で受け止めているようだ。
たしかに山羊の加護は、オフィウクスの星に行くためには必要だけど。
「あの、マイナス作用って不幸属性を強くしてしまわないんですか?」
ヘレが、心配そうにカプリコルヌス様に聞いてくれる。
『元から持っていれば、それで相殺するので大丈夫なのである』
「そうですか、それなら、まあ……ね、アスク?」
「うん、まあ」
ヘレに促されて俺も頷く。山羊の加護は必要だし、みんなが言うには巻き込まれ属性らしいから、ここで断ってもどうせ……だしな。
気持ちを切り替えよう。そうしよう。
「ちょっと頑張ってみようかな……?」
『覚悟が決まったのであるな。しかし、力を上手く使いこなせない人間には渡せないのである』
「それって、やっぱりマイナス作用が暴走するからなの?」
『左様である』
「はー、それじゃあ結局修行じゃん」
「牡羊の星からそういう話でしたわ~。弱いのですからー、当たり前ではなくて~?」
「タルフがんばれー」
「うるっさい」
みんなが口々に話したあと、アルディさんがすっとカプリコルヌス様の前に出た。
「カプリコルヌス様~。彼らだけではなく~、わたくしたちも持っている加護を使いこなせるようになりたいですわ~。修行をつけてくださいませ~」
『いいのである。皆で修行とはなかなかに面白いのである。吾輩の力を使うのである』
カプリコルヌス様はそういうと、両蹄をカチンと鳴らしそこから大きな七色の透明な玉を作りだした。それは空に昇って、星全体を包むように広がっていく。
『これで外の星とこの星の時間を遮断したのである。外の時間はほとんど進まないはずであるからして、存分に修行するとよいのであるぞ』
からからと笑う山羊の神に、俺は少し寒気がした。確かに自分自身で豪語するほど、山羊の神の力は強力だったから。
カプリコルヌス様は、加護の結びつきや人間の素質を見ることが得意らしい。一人ずつその加護と素質にあった特訓メニューを提案してくれた。
アルディさん、レグルス、スピカまではぱっとすぐに特訓する項目をメモして手渡していたのに、俺に対しては目の前でうんうん唸っている。
『うぅん。どの加護とも結びつきが同じくらいなのである。不思議なことに、これだけ加護を受け入れても耐える力と共存させる力があるのは、見た事がないのである。たしかにコントロールが出来ればものすごい戦力になりそうではあるが……一つに絞ればコントロールも楽ではあるが、しかし、どの加護も引かなそうであるな……すでにそれぞれの加護に自我があるのが、厄介であるな』
「えぇと……?」
『簡単に言うとお主の場合、加護同士の融合が難しいのである』
「えぇ? でもヘレとスピカだって二つの加護を持ってますよ?」
『二人はすでに牡羊の加護と、乙女の加護に蠍の加護が吸収されているのである。普通は一番強い力、繋がりに併合されて加護の力が上がっていくのである。それがお主にはない』
「え、でも、一度力が暴走した時にオフィウクスの加護が、他の加護を吸収しようとしたって……」
『したはしたのであろうが、相当な抵抗をしていたのである。牡羊の加護がなければ、お主の中で争いが続き、お主の身体の方が危うかったと推測できるのである』
「えぇ……じゃあどうすれば?」
『手っ取り早いのは、どれか一つの加護にお主が決めることである。複数をコントロールするより、一つをコントロールする方がはるかに簡単である』
決めるって、難しすぎるでしょ……。
どの加護も思い入れがあるし、いいところもある。それに
「どれか一つって言うのは……その……。同時に使ったりもしたので、できればどれも使ってみたいです」
『なんであるか? 同時に使ったのであるか?』
カプリコルヌス様が、驚いたように目を見開いた。茶色い瞳が俺を凝視してからすっと細められる。
「あ、はい」
俺はピラミッドでオフィウクスの加護の”確信”と双子の加護の”人体強化”を使ったこと、蠍の神から力を受け取って三体の加護が別々に具現化して戦ったことを話した。
『うぅん。わかったのである。であれば、それぞれをコントロールできるようにするのである』
カプリコルヌス様はさっとメモをして俺に三枚、双子の加護、蠍の加護、牡羊の加護のコントロール用の修行メニューをくれた。
「あれ? オフィウクスの加護は……?」
『頭を打ち付けた衝撃もあって、だいぶ昔の記憶は忘れているのである。であるからして、蛇遣いの加護については思い出せないのである』
「はぁ、なるほど……」
これをおっちょこちょいと言うレベルで片していいんだろうか? ちょっと呆れを通り越して何も言えない。
『そっちの専門家はいるので安心するのである』
「えっ?」
カプリコルヌス様は話し終わったとばかりにヘレの前と移動してしまった。
専門家ってなに……?
『お主は、コントロールも力の統一もしっかりしているのである。力の循環も良いから、時が立てば加護の統一化までいけるはずであるからして、特に特訓する必要がないのである』
「で、でも。私も、早く強くなりたいんですっ」
『否。その考えはよくないのである。お主の力の使い方を今一度見つめなおすのである』
「でも……」
ヘレはまだ納得しきれずに、食い下がっている。
『ふむ。では、お主には指導をしてもらうのである』
「そ、そんな私、教えるほどの力なんて……!」
『教えることで自分の力を見つめなおすのである。できていることを定着させ、さらなる高見に行くには、人に教えることは効率が良いのである。お主の課題はそちらなのである』
「…………」
カプリコルヌス様にもう一度諭されて、ヘレは言葉を失った。でも表情は不満そうで、これは後でどうにか話をつけようと言う顔だ。俺にはわかる。
最後のサダルが、不安げなヘレに近寄っていく。
「ヘレさん、不安なのはわかりますよ。僕も指導側なので、わからないことあったらサポートしますよ!」
「え、そうなんですか?」
「はい! 僕、こう見えてもう加護と同一化してますから」
「えぇっ!?」
にこにこと人好きするような笑顔を向けているサダルが、加護との同一化――つまりは神と同等の力を持ってるだって……?
「僕はこの中で、加護を持っている年月が一番長いんですから、当たり前ですよ。なんていっても、幼少期の頃から持ってますからね」
「水瓶の星では商売が盛んでな。星一の商売上手に加護が与えられるそうだ。毎年大会でその腕前を競うのだが、サダルは、幼少期にトップをとってから不敗だそうだ」
「へぇ、すごい」
サダルとスピカの説明に素直に言葉が出た。
「ありがとうございます。褒めてくれる人好きですよ」
照れたようにはにかんで嬉しそうに笑うサダルは、俺の手をとって軽く振った。ずいぶんと無邪気だな。
『教えるのは、サダル、ヘレ、吾輩――そして後方にいる二人である』
カプリコルヌス様が俺たちの後ろに指し示す。
振り返った先にいた人物に俺は息をのんだ。スピカが剣を構える音がかちゃりと耳に届く。
「やあ、久しぶりだねぇ」
フードに身を包んだ男が二人。そのうちのひとり――褐色の肌と薄い銀糸のような髪を持つ男が赤い瞳を細めてこちらに笑いかけてくる。
「貴様――っ!」
「おや? まさか斬りかかってこないだろ? だって、乙女の神について教えてあげたのは私なんだしさ」
「――っ!」
牽制されたスピカは今回は斬りかかっていかなかった。
そうだ、オフィウクスの加護が悪いものだと決めつけなければ、フードの男もマルフィクも、別に敵ってわけでもないんじゃないか?
だって、乙女の神殺しをしたのは彼らじゃないし。
ふと、いきついた思考にそれまでこわばらせていた体が解けた。
「何しにきたんだ?」
「うん? 勧誘だよ。君には話したと思うけど、私たちはオフィウクスの星に行きたいからね。そのために加護持ちの人を勧誘してるんだよ」
そうだよな。今聞くと、この人も目的は一緒で、オフィウクスの神への恐怖がなければ協力できそうな気がする。
何か忘れてるような気もするけど……でも、マルフィクだって悪いヤツじゃないしなぁ。
「だから、加護持ちがいっぱいいるところに来るのは必然的ってことさ」
『知り合いだったのであるな』
「ああ、うん。いろいろとありまして……」
『それならば話は早いのである。この二人は蛇遣いの加護を持っているのであるからして、お主の教育にはもってこいである。どちらかをお主につけるとして――』
スピカからの嫌悪感や、ヘレの戸惑い、フードの男たちを知らない人たちの困惑はまるで気にしていないように、カプリコルヌス様は話を進めだす。
空気読まないな、この神様……。
『人数も丁度良いのである。一人ずつ担当を決めるのである。それと、やる気があがるように競争性にするのである』
「賞金でも出すのでしょうか?」
『優秀者、育てた者には、それぞれ一度だけ吾輩の力を使う権利を与えるのである』
「時間系の能力だね。未来見るのもできるのかな?」
『干渉はできないが、過去、未来ともに見ることは可能である』
それはちょっと見てみたいかも。
『異論がなければ、パートナーを決めるのである』
カプリコルヌス様の言葉に、誰も否定はしなかった。
ここに来た目的の話をこれ以上脱線させる気は誰にもない。
『加護の使い方の相性で言えば――』
カプリコルヌス様は組み合わせをあげていく、「サダル」と「タルフ」、「ヘレ」と「アルディさん」、「マルフィク」と「俺」、「フードの男」と「スピカ」……
「待ってください! 私がなぜこの男とっ!」
『加護の傾向が似ているからである。不満なら近しいアスクと取り換えるのである』
「ぐっ、それであれば……私が監視できると考えれば……」
思わず止めに入ったスピカだったけど、カプリコルヌス様の提案に言葉を詰まらせる。俺とフードの男を交互に見てる感じ、俺とあの人を組ませるのが不安なんだろうなぁ。
「……そのままでお願いします」
スピカは悩んだ末、声を絞り出した。
『じゃあ、決まりであるな。レグルスだったか、君は吾輩が面倒みるのである。おっちょこちょいなことしても耐えられそうなのである』
「そんな理由!?」
カプリコルヌス様はレグルスの突っ込みは流し、全員に紙を配り始めた。違う色の星が書かれている。
『では、修行の仕方であるが、修行を赤い星が消えるまで行う。その後に、休息を青い星が消えるまで行う。同時に黄色い星が消えるまでに吾輩が全員の安否確認を行うのである。故に、それまで場所を動くことを禁ずるのである。それを繰り返し、この丘の上に虹色の星が浮かぶまでを期限とするのである』
空を指しながら説明される。空には大きな星が赤、黄色、青と三つあって、それが目安の星だとすぐにわかった。
『では、各自好きなところで行うのである』
そう言って、カプリコルヌス様はレグルスの手をひっつかむと、空を飛んでいってしまった。
※ここまでー。スキありがとう!!
※下記ネタバレプロット
ところどころに水瓶と蟹の子の描写を入れる。