※ 大幅に変更する可能性があります。
 俺たちはただ茫然と目の前の状況を眺めていた。
 眼前で金色に輝く砂に倒れていく蠍の神――シャウラ。
 彼女の体を貫いた剣を持つのは、乙女の騎士スピカが扶翼の騎士ザヴィヤヴァと呼んだ男。レグルスとアルディは、連れてきた彼の蛮行に息をのむ。
「なぜ貴方が――?」
 震える声でスピカが問えば、扶養の騎士は表情をいっさい変えないまま、目的を告げた。
「神殺しをしに来ただけですが?」
「――っ! 貴方が蠍の神殺しに来たということは……」
「ええ、乙女の神はすでにこの手で」
 スピカの乾いた声に、驚きもせず淡々と答える扶養の騎士はシャウラから剣を引き抜く。シャウラの体がドサっと鈍い音を立てて地面へと落ちた。
 扶養の騎士の返答に、スピカが動いた。剣を引き抜き、一気に扶養の騎士へと距離をつめる。けれど、弾けるような音とともにスピカは吹き飛ばされた。
「スピカ!?」
「――っ! メ―メ―、シャウラを守って!」
 俺がスピカに気を取られているさなか、すぐ横にいたヘレが大きな声を出す。その声にシャウラを見れば、扶養の騎士が再度剣を掲げて切りかかろうとしていた。
 ヘレの言葉に牡羊の加護が反応し、シャウラを包み込んで守ろうとする。けど、剣は容赦なく間に入った牡羊の加護を一刀両断した。加護が胡散する。シャウラにも届いていたようで体に傷が生生しく刻まれていた。
「うっ……」
「ヘレ!」
 隣で崩れる気配がして、慌てて抱き留めた。ヘレは苦しそうに額に汗をにじませている。
「ちっ、乙女の加護持ちっつって信用した俺がバカだったぜ。乙女の神殺しをしたってことはあいつは敵だな」
「ほんとにも~。人が連れてきてあげましたのに~、ちょっとおいたが~、すぎましてよ~」
 いつの間にか俺とヘレの前に立っていたレグルスとアルディさんが、二人で扶養の騎士の両方からそれぞれかかる。
 扶養の騎士が口を開く前に、レグルスの銃が火をふいた。しかし、扶養の騎士はあっさりと避ける。そこに、アルディさんが回し蹴りを仕掛た。素早い連携でも、扶養の騎士は剣でアルディさんの攻撃を受け流した。
 そして、またバチンという何かが弾ける音が2回した。
「――っ!?」
「あつっ!?」
 二人が吹き飛んで、砂に埋もれる。
 扶養の騎士は、残っていた俺を見た。どうしよう。すぐに動けなくて、気づけばみんなやられてしまった。それなのに、俺は動けないでいる。
「邪魔をしないのであれば、何もしませんよ」
 扶養の騎士は俺に釘を差し、シャウラに向き直った。手に煌々と赤く光る何かを作る。何度もそれは小さくバチンとか、ボコとか弾ける音がしてた。
 あれは、スピカたちを吹き飛ばした何かだ。三人とも起き上がってこないのを考えると――正直、怖い。足がすくむ。
「アスク……――」
 意識を取り戻した蠍の神が、俺を見て小さくつぶやいた。「逃げろ」って。
 ヘレが俺のこわばった手を離す。
 怖いけど、でも、俺は……。
 シャウラとヘレの「逃げろ」という意思に反して、扶養の騎士とシャウラの間に立ちはだかった。
「俺だって、加護が使えるっ!」
 使っていいって言ってくれたシャウラの言葉を、俺は信じる。きっと、何か打開策があるはずだ。それを知りたい。
 俺の足にシャウラの指が触れたから、俺は守るように相手をにらみつけた。
「仕方ないですね、蠍の神の前に四散してください」
 その俺に、扶養の騎士は手の中で赤くうごめいているそれで攻撃しようとする。でも、それがなぜかゆっくりに見えた。
『汝、我を求めよ』
 同時に、ガラガラとした低く声が耳に響いた。この声は知っている。牡羊の星を出る時に聞いた声だ、オフィウクスの声。
「求める! みんなを助ける術を! 助ける力を!」
 加護に求める!
 強くそう思えば、目の前の光景はがらりと変わっていた。眼前に迫っていた扶養の騎士は、突如具現化した双子の加護カストルが放った弓に遠ざけられて、俺の肩にはオフィウクスの加護の赤い蛇が、足元には蠍の加護の蠍が具現化されていた。
『アスク、あいつは僕たちが止めておくから、ちゃんとオフィウクスの加護を使って解決方法を考えて』
 カストルが蠍を手に取ると、蠍が弓の矢に変化した。彼は弓を構え、扶養の騎士にその矢を向ける。
『汝、探し求めよ』
 赤い蛇は俺の目の前まで来ると、姿を変えた。大きな本が宙に浮く。パラパラと勝手にページがめくれる。”探し求める”たぶん、前に使っていた使い方と一緒だ。目的、そして質問。検索。
「みんなを助ける方法。相手の能力。戦う能力。加護の能力……」
 俺が口走ればそのたびにページが開かれる。そのたびに知識が目から頭に駆け巡る。
 扶養の騎士の能力は爆発という新しい力。それは加護が神と同等の力になった証。
 戦っても今の俺たちの能力じゃ勝てない。神と同等の力を持つ相手には蠍の神シャウラじゃないとダメだ。でも、シャウラは疲弊してる。勝ち目なんかない。
 加護の能力は、神と同等の力になるまでは元の神の力と同じ能力――
「牡羊の力の一つならもしかしたら……」
 俺はしゃがみこんで、俺に力を送ってくれているシャウラに話しかける。
「シャウラ、俺じゃなくてヘレに力を送れる?」
「っ……考えがあるの、じゃな……?」
「うんっ」
「承諾した……」
 シャウラは力を振り絞って、ヘレに近づく。座り込んでいるヘレに触れると、ヘレの加護が再び具現化した。
『どの力を使いマスカ? 守りマスカ?』
 メ―メ―がしゃべったことにヘレは驚いたような表情をしている。でも、時間がない。扶養の騎士を止めているカストルたちも限界が近い。何より、シャウラからの力の供給がなくなった俺では、力を維持できない。
「ヘレ、牡羊の移動の力を使って!」
 俺が叫べば、牡羊の加護メ―メ―がヘレに問いかける。
『牡羊の星に戻りマスカ?』
「! お願い! みんなで戻りたい!」
 ヘレは俺の意思をわかってくれた。
 メ―メ―が光って、辺りを包み込む。まぶしすぎて、目をつむった。
 目を開ければ、懐かしい光景。そこは日に照らされた暖かい草原だった。
「ここは……」
「牡羊の星……だね」
 ヘレが俺の呟きに応える。そうだ、ここは俺とヘレの故郷牡羊の星だ。
 はっとして、周りを見回した。
 シャウラはヘレの足元に倒れていて、スピカも、レグルスもアルディさんも草原に倒れていた。扶養の騎士の姿はない。
 よかった、成功した。
『いきなり来たと思えば、僕の星の子じゃないか。蠍の神スコルピウスまで……』
 上から声が降ってきたと思えば、金色の羊――牡羊の神アリエスが目の前に降りてきた。俺とヘレを見てから、シャウラに視線を移す。
『……何をしてきたんだい? スコルピウスの力が弱ってるじゃないか』
「! シャウラ――蠍の神は危ないんですか!?」
『そうだね、このままじゃ危ないけど。でも、僕が力を分けるから、回復に集中すれば大丈夫だよ。安心して、僕の星の子』
「そっか、よかった……」
 アリエス様は笑うと俺の肩を軽く叩いてから、シャウラの元へと移動する。アリエス様が触れると、シャウラの傷が治っていった。
『……怪我だけじゃないな、力もだいぶ消耗してる。目を覚ますには時間がかかるかもしれない』
「……そうですか」
 それだけシャウラは頑張ってくれたんだ。なんだか胸の奥がずっしりと重い。
『スコルピウスはいいとして、他の三人の子たちはどうしたんだい? 命に別状はないとはいえ、君たちとは違ってずいぶん怪我してるようだけど』
「――!」
 俺は慌てて振り返る。スピカは気が付いていたようで、アルディさんとレグルスのところに移動していた。
「アスク、ヘレ、大丈夫だ。私の加護を使った」
 スピカは、ふらふらしながらも立ち上がって俺たちのところまで来た。服は焦げているけど、体に傷は見当たらない。
『乙女の神の癒しの力か』
「はい。あまり使用してはいなかったので、使えるかわからなかったのですが……少しでも使えてよかったです」
『そのようだね。傷の治療のみって感じだ』
 アリエス様はスピカに近づいてまじまじと観察した後に、頷く。そして、レグルスとアルディさんへ近寄っていく。
『うん、こっちもそうだね。どれ、気つけでもしとこうか』
 アリエス様がレグルスたちに触れれば、小さくうめき声を漏らしてレグルスたちが目を覚ます。
 全員が生きてることに、改めてほっとする。
 アリエス様はレグルスたちを連れて戻ってくる。目があった。
『僕の星の子、説明してくれるよね?』
「はい……!」
 俺は、さっきまでの出来事をアリエス様へ説明した――。
 蠍の神スコルピウス――シャウラと和解したこと、その時に扶養の騎士がシャウラを襲ったこと、全員が返り討ちにあって、俺がシャウラの力でオフィウクスの加護を使って切り抜ける術を見つけたこと、ヘレの牡羊の加護の力を増幅させて牡羊の星に飛んできたこと――
 一通りあった出来事を話した。
『なるほど、それでここに来たんだね。……オフィウクスの力は”知識”だ。アスク、君は加護の力、ひいては神の力を知ったんだね?』
「はい……。シャウラに力を増幅させてもらった時、オフィウクスの加護は俺が知りたいことを教えてくれました」
 神ごとに持っている能力は違うこと、牡羊の神には転移という力があったこと、ヘレの加護もそれを持っていたこと。また、神は加護に意識的に力を送ることができること。を。
 そう説明すれば、アリエス様はうぅんと腕を組んで黙ってしまった。
「アスクのおかげで俺たち助かったんだな。ありがとな!」
「そうですわね~。あの男との力の差は誰が見ても歴然でしたわ~。悔しくもありますが~……まずは~、アスクさんにお礼を申し上げますわ~」
 レグルスとアルディさんが、俺の肩を叩く。なんだかお礼を言われるのは、むずがゆい。
「それはシャウラが力を貸してくれたおかげで」
「ううん、加護を使いこなしたのはアスクだよ!」
「そうだな、蛇使いの加護に双子の加護、蠍の加護の3つを同時に使いこなしていたんだ。力を増幅させただけで、それをコントロールするのはなかなか難しいことのはずだ。私は自分の加護のコントロールはうまくできないからな、よくわかるぞ」
 ヘレとスピカがさらに持ち上げて来る。
 恥ずかしいと思う反面、嬉しかった。そっか、みんなを助けられたんだ。俺の力で。
 俺の力を、認めてもらえた……。
 いままでになく胸がいっぱいになる。
「一度使えたなら、もっかい使えるんじゃないか?」
「そうですわね~、加護というのはわりと肉体言語ですわ~」
「身体の方が覚えると言うな」
「そうなの?」
 みんなの言葉に、俺はちょっとだけ試してみた。さっきオフィウクスの加護を使った感覚を思い出し、手元に集中する。
 いびつで薄くはあるが、本が目の前に現れた。
「わっ、できた……!」
 すごい! これがあれば、オフィウクスの力があれば、なんでもわかる!
『僕の星の子。その力は禁忌だと、わかっているね?』
 冷たい声色に背筋がひやっとした。アリエス様からの警告だった。
 気を散らしたせいか本はすっと消えてしまう。
『いや、その力だけではないな。君たち全員、力を持つということの責任を理解するべきだ』
 アリエス様の口調はどこか厳しく、非難されているようだ。
「あの、それはどういうことでしょうか?」
『君たちが次世代の神候補になるからさ』
 アリエス様は、はっきりと言い切った。
 神候補。その言葉に衝撃を覚える。シャウラから神の世代交代の話を聞いてはいたけど、実感はなかった。でも、自分の星の神から告げられるその言葉は重い。
『同時に、新たな力を得た子――扶養の騎士も同じ神候補。いや、すでに自分の力に目覚めているあたり、ほぼ神と言ってもいいかな。その子を止めたいというなら、同じ立場まで駆け上がるしかないんだよ』
 重々しい空気が辺りを包む。
 扶養の騎士にまったくといっていいほど太刀打ちできず、俺たちは牡羊の星に逃げてきた。あれに追いつくって、そんなこと本当にできるのか?
 生きていく中での最高目標がそもそも”【神様へ祈りを捧げる役目】になる”だった俺なんかに。もう、神に気に入られて加護を与えられた時点で、それは叶ってしまったと同義になるのに。牡羊の星に戻ってこれて、アリエス様と話せている時点で分不相応なのに。
 それより先のことを考えるべきだ。と言われて、すぐに考えられるわけもない。
『神と同等の力を得る覚悟と動機がなければ、みんな自分たちの星に帰った方が幸せだと思うよ』
「私は……彼を神にするつもりはありません。乙女の神が不在なのであれば……乙女の加護を受け取った私が、その穴を埋めます」
『いいね、乙女の子の意志は固くて』
 最初に決意をあらわにしたのはスピカだった。すでに気持ちは固まっているのだろう、語尾は力強かった。
 アリエス様は頷くと、まだ答えていない僕たちに視線を向ける。
『他の子たちはどうだい?』
「力を得て~、牡牛の星に尽くしますわ~。元々牡牛の星をよくしていきたいと思っておりますし~。それに、恥をかかされたままはごめんですわ~」
「わたしも! 牡羊の星の力になれるならいくらでもがんばります。それに、あの人を野放しにしたら、牡羊の星も大変になっちゃうと思うから……」
 アリエス様の言葉に即答したのは二人、アルディさんとヘレだった。
 俺は黙り込み、レグルスは「あー」と言いながら頭を掻いている。
『獅子の子は悩んでいるのかい?』
「あー……そうですね。ちょっとわからない感じです」
 アリエス様の言葉にレグルスは苦笑って答える。アルディさんの笑顔がレグルスに突き刺さっているのは、ちょっとこわい。
『まあ、星の特色だろうから仕方ないかもね』
 アルディさんとは逆に、アリエス様は納得しているようだ。
 星の特色といえば、獅子の星では王になる可能性がある人間に加護を渡して、他の星を周らせるんだっけ。ということは、加護を持ってる人間がいっぱいいるってことだし、たしかに俺たちとは状況が違うのかも。
『質問を変えようか。獅子の子が星に帰らないのは、覚悟がないからなのは知ってるよ。それなら、君はここで降りた方がいいんじゃないかい?』
「さすがよくご存じで。まあ、星には帰りたくないですけどー……ここまで来てはいそうですかって降りるわけないですよ。足手まといにならないくらいには、がんばります」
『ふーん。まあ、後悔しないことだね』
 レグルスとの会話に終止符を打つと、アリエス様は俺の方を見る。次は俺の番だと、ドキっとした。
『アスク、君は? 君には3つの加護が与えられているし、僕からも加護を与えるつもりだから、今後は4つの加護を持つことになる。明確な目的と決意を示してほしい』
 アリエス様から加護を受けられると聞いて心臓が跳ねた。さっきから僕を星の子と認めてくれるアリエス様の言葉に嬉しさを覚えていた。この星にいていいんだと。だから、安心してずっと話せてた。
 牡羊の加護を受けとれるなら、俺はヘレと同じで生まれ育ったこの星のために力を尽くしたい。でも、きっとそれ以上の覚悟が本当は必要なんだとわかってる。俺には他の加護が刻まれているから。
 双子の加護。これはポルックスとの友達の証だと思ってる。双子の星の神になり替わろうとも思わないし、ポルックスならもう一人の加護を持つ彼女と星を支えていくだろう。だから、この力でどうにかしたいとは思わない。
 蠍の加護。これはシャウラが信頼してくれた力だ。俺だけじゃなくてヘレとスピカも受け取っているし、何より彼女は蠍の星の伝統にのっとって、自分の子どもに神を譲渡するはずだ。手助けはしたいと思う。でも、蠍の神になるのは俺じゃない。
 蛇遣いの加護。これは望んで得た加護じゃない。でも、今回のことで一番力になってくれて、そして俺はもう、自分の一部なのだと認めてしまっている。俺は、知りたい。その欲求に一番応えてくれるこの力の事を一番認めてしまっている。でも、俺は蛇遣いの神が、星がどういうものなのかをまったく知らない。
 頭の中で思考がぐるぐると回る。
『君がしたいこと、でいいよ?』
 黙り込んだ俺にアリエス様が助け舟を出してくれた。
 俺のしたいこと……。
「……俺も、ヘレと同じでこの星のために力を尽くしたい。同時に知りたい。今、世界がどうなってるのか、蛇遣いの星がどうなってるのか。でも、一番したいのは……」
 俺は、空気を飲み込んで喉を鳴らした。
「俺は、みんなの力になりたい」
『及第点かな。ちょっと頼りないけど、僕は僕の星の子の力を信じてるよ』
 アリエス様の言葉にほうっと息を吐いた。アリエス様が聞きたかった内容とは違ったのかもしれないけど、受け入れてくれたことに心底安堵する。
 みんなの顔を順繰りに見てもったいぶってから、アリエス様は口を開いた。
『それじゃあ、君たちに話そう。僕が知る限りの昔のことを――紛争の時代を』
 まだ星がたくさんあった頃、人々は星の領地を巡って争っていた。ある神は民が望むままに力を与え、ある神は民とともに戦った。
 そして人々は、他の星に負けないように自らを成長させていった。知略、武力、生活の在り方、それぞれの星がそれぞれの星の思想に基づいて強くなっていったんだ。
 そして、その中から神と同等の力を持つ人間が出て来た。それは神の力を鍛えた者のほかに、発展した文化つまりは神とは別の力が神をも凌ぐ力となった。
 拮抗する力が蔓延すれば、神と人との間に隔たりを感じなくなる者、星を統べる神々の地位をほしがる者が現れる。そして行われたのは、星同士ではなく身内の地位の奪い合い。
 争いを率先していた星々は、戦いの末に星が消滅したか、二度と戻らない荒野になっていた。
 そこで、僕たち13の星は協定を結んだ。争いを行った星との行き来の禁止。他の星への侵略行為の禁止。人々の生活の安定。平和の維持。神についての厳重な秘密保持。などなど、争いが起きないようにした。
 
『そういう過去があって、僕たちは信頼のおける人間以外に力を与えないし、過去の話も、加護の力も伝えない』
 アリエス様は、ふぅっと息を吐く。
 話はまだ続いた。これからが本題だった。
『その理を破ったのが蛇遣いの神――オフィウクスだよ』
「それが双子の神殺しの……」
『うん、オフィウクスの行動の結果さ。オフィウクスは、人間へ知識を与えることこそが人間の幸せだと説いた。そして、彼は自分の力”知識”を望まれるままに与え……加護を与えられた人間はすべてを知った』
「神のこと、神と同等の力を得ること、ですね」
『そう。過去と同じさ。神になり替わろうとした者。別の星を奪おうとする者。火種が暴発した出来事が双子の神殺しだった。だから、僕らは蛇遣いの星との行き来を禁じ、この話を教訓として残すことにしたんだ』
「なるほど~、だから~、オフィウクスの話が残っているのですね~」
『そうだよ。これで、オフィウクスの加護がどれだけ危ないのかはわかっただろう?』
 最後は俺に向けられた言葉だった。
「…………」
 なんて答えていいかわからなかった。
『僕は星に住む人間が好きだから、守っていきたい。ここが戦場になれば民にも迷惑がかかる。だから、そういうのは極力避けたい』
 迷っている俺に、アリエス様は真摯に説き伏せて来た。
 アリエス様が言うことはわかる。でも、一度シャウラの言葉で受け入れたオフィウクスの加護を、俺はどうしても悪いものだとは思えなくなっていた。
 それよりも、加護を使えることを責められているこの状況に、少なからずショックを覚えて悲しかった。どうして? という疑問が頭をかすめる。
 感情と理性の折り合いがつかない。ひどく胸がむかむかして気持ちが悪い。
「アスク、大丈夫?」
 ヘレの心配する声もどこか遠い。
『汝、我を求めよ――』
 代わりに、低くて響く声がはっきりと耳についた。
 この気持ち悪さを、どうにかできるなら、教えてほしかった。
 俺は無意識に求めた。
 知識を――オフィウクスの加護を。
 ズルズル――
 何かが這いずる音がする。
 真っ暗で何も見えない。
――ズルズル
 音が大きくなり、近づいてくるのがわかった。
 俺は、この正体を知っている。
ズルズル……。
 目を開けば、そこには緑色の瞳と赤く長い胴体を滑らせた蛇が俺を見下げていた。
『汝の願い聞き届ける』
 蛇がするっと俺の上から退けば、俺は起き上がることができた。真っ暗な中で、蛇は何かを追いかけている。逃げているのは……蠍だ。
 けど、すぐに追いつかれて蛇の大きな口に蠍はすっぽりと――
 ――ダメだっ!
 直感的にそう思った。蠍の先に倒れている小さな人影も目に入って、今何が起こっているのか、俺は理解した。
 加護同士の食い争い。
 止めなきゃっ。俺はオフィウクスの加護だけがほしいわけじゃない!
 それでも、俺の身体はそれ以上動かないで、蛇は蠍をゆっくりと丸のみにしていく。
 声も出ない。
 待って、俺はまだ、オフィウクスの加護を選ぶなんていってないっ!
 蠍が呑み込まれて、蛇が小さな人影に近寄っていく。
「――やめろっ!」
 声がやっと出た。と思えば辺りが眩しい光に包まれた。眩しい中で見えたのは見慣れた羊――。
「はっ!?」
 起き上がった。頭がくらくらするけど、俺は辺りを見回す。そこには意識を手放す前と同じ草原にアリエス様が、ヘレが、スピカたちがいた。
 ほっとする。あれは、夢だったんだ。
「アスク! 良かったっ!」
「大丈夫か? なんともないか?」
 ヘレとレグルスが迫ってくるので、手を前に出して制しながら、俺はうんうんと何度も頷く。
「はぁ、よかった……どうなるかと思ったぞ」
 スピカの声はどこか疲れ気味で、どうしたのかと目を瞬く。
「あら~? もしかして~、今起きたことを~覚えてませんの~?」
「起きたことって……」
『力が暴走したから、意識もひっぱられたんじゃないかな』
「暴走ってなに!?」
「いきなり本を出現させたかと思ったら、すごい勢いでページがめくられて、蠍の神や加護についての話をひたすら羅列してたぞ……」
「え、こわ」
『加護は基本一番合う属性に吸収されやすいんだ。一番長く持ってるから、オフィウクスの加護に他の加護が吸収されそうになってたんじゃないかな。さすがにそれを見過ごすわけにはいかなかったから、生まれ育った星の加護。僕の加護を与えて相殺させたよ』
「あ、ありがとうございます……!」
『あと……相殺だけだといつまた起こるかわからないし、ついでに僕の加護でオフィウクスの加護を封印したんだけど、そのせいでもしかしたら他の加護も使えないかも』
「えっ!?」
 ちょっといろいろ頭がついていかないどころか、真っ白になった。
 加護が使えない? って、え、やっと使えるようになったのに!?
『まさか、こんな形で加護を与えるとは思わなかったけど。力のコントロールが身に付けばこのプロテクターは自分で外せるはずだから』
「そ、そうですか」
 よかったー! まさか一生加護が使えないんじゃ……って、思ったよ。
 でも、いつ使えるようになるかはわからないんだよな……せっかく使えるようになって、みんなを守れるかと思ったのに……。
「あ、あの。どうしたらコントロールってできるようになりますか?」
『人によるかな。まずは君にあった加護の力を模索しないといけないし、それに合わせて力の増幅をするんだけど……』
 アリエス様は困ったように額に手を当てて考え込んでいる。
『そもそも、君だけじゃなくてこれはこの場にいる全員に言えることなんだよね。普通に暮らして待つなら何十年とかかる場合もあるし』
「何十年……さすがにそこまでかかるのは、彼を止められなくなりますっ」
『乙女の子、わかってるよ。だからね、僕も腹をくくるよ。そういう成長について一番確実で、まじめに取り組んでくれるのがいる』
 アリエス様は、草原のある一点を指した。
『山羊の神カプリコルヌス。彼なら、君たちの力を存分に鍛えてくれるはずだ』
 そう示されて、俺たちは次の目的地を”山羊の星”に決めたのだった。
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オフィウクスの謎―加護を受けたと思ったら存在しない神だった―3章01
初公開日: 2022年03月15日
最終更新日: 2024年01月20日
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コメント
蠍の神と和解したが、そこに乙女の加護を得た扶養の騎士が現れ蠍の神を……
FIX稿までは小説家になろうにUPしてあります。
https://ncode.syosetu.com/n1652he/