人間と妖怪が入り混じる喫茶店「阿蘭」。そこの店主は人間の格好をしているが本性は妖怪である。店名あるいは店主の本性おかげか人間のほかにも多種多様な種族が集まってくるようになったそうだ。店主自身は売り上げやら集客やらは気にせず経営しているため数々のお客様の対応に四苦八苦してるそうだが...
そんなお店に今日も一人の来客が来た。ドアベルの音と共に出てきたのは一匹の鳥だ。まごう事無き鳥だった。人間の世で当てはめるならヘビクイワシという表現が正しいと思うが、その細められた鳥の目には知性の光があった。なぜなら嘴に掛けているチャーミングな眼鏡や首もとのストールやその留め具からファッションというものをよく理解していることがわかる。つまりものすごくかわいい。
「あばー」
嘴が開き発せられるのはどこか気の抜ける声だった。鳥の専門家からそこらの一般人でさえこの声はこの鳥、ヘビクイワシが発するものではないとわかる。人間風に言うなら奇声、多様性とオリジナリティに満ちている声だ。
「いらっしゃいませ高須さん、なるほど紫穏さんがいないのにはそういう理由が」
「あばー」
「はい、ご注文は季節限定カフェセットですね。今日のラテアートはどうしますか?」
「あばー」
「ふむふむ、モフモフで頭の上にりんごを載せたたぬきですね。承りました」
「あばー」
いつの間にかカウンター用の椅子に座っているヘビクイワシ改め高須。器用に座りながらも余った足をプラプラさせている。周りの客は新たに入ってきた客の姿にはいぶかしむ様子は無k......否、一部の客はいぶかしんではいないが会話について妙に納得の行っていない顔をしていた
「おまたせいたしました、こちらが季節限定カフェセットです。」
「あばー」
「もちろんラテアートはいつも通り高須さんの前で仕上げをさせていただきます」
阿白は片手にペン、もう片手にこんもりとした白いマグカップを持ち高須の前に置く。そしてマグカップの表層に浮いている細やかな泡の山に向かってペンを持った腕を一、二回振りただの白い山を少しずつ彩っていく。最初は無意味な線が形を為し、泡の山が細やかな凹凸に変わり立体を作り出す。工程の複雑さと裏腹にものの数十秒で完成されたラテアートはもふもふのたぬきであった。
「あばー!あばー!」
「はい、すこし泡の盛り方に工夫と小細工をしてもふもふ感を作ってみました。あと頭の上のりんごはチョビットのジャムを載せています。味はもちろん美味しくいただけるように作っているのでご安心ください。」
「あばー!」
「あはは、ラテアートは少しの時間限定なの遠慮なく飲んでください。あと紫穏さんへのお土産も作ってあるのでお帰りの際に渡しますね」
「あばー」
高須はばっさばっさの羽を動かしてるのにも関わらず椅子から器用にも落ちない。また少し眠たげに細められていた眼も今はしっかりと開いていた。阿白も阿白でそんな様子を笑顔で見ており、どこからどうみても二者間の空気はほんわかしていてる。そんな空気を一喝声が一つ突如として響く。
「待て待て待てー!!!!な ん だ よ そ の 会 話 !!!!」
響かせた声の主は悪っぽい少年だった。この少年はカペロ、低級悪魔の一体で今では人間社会に溶け込み生活している。まあ、背中からのぞくひょろりとした悪魔っぽい尻尾や額の角が無ければ人間に見えていたであろう。カペロは肩を上下に揺らしながら憤慨しているようだ。
「大事な事だから二回言うからな!!!なんだよその会話!!!さっきから聞いてたらあばーしか言ってねえじゃねえか何で通じるんだよ」
「カペロさん何言ってるんですか。しっかり僕と高須さんの間で会話が成立してるじゃないですか」
「あばー」
「今のはわかったぞ!そこの性悪狐に同意しただろ!!!」
カペロは変わらず憤慨する。両手を机にたたきつけている様子からも明白だ。だが性悪狐の阿白にばっかり注意しているだけで高須が首を横に振っている姿を視界には捉えられていない。カペロは余裕のある阿白に自分が何を言っても通じないと感じ、近くにいた客を巻き込みにかかる。
「おいムメイ!!!お前もおかしいって思うよな!な!」
「カペロさんもう少し静かにしないと阿白さんと他のお客様に迷惑だよ」
防音に関しては既に阿白が対策済みなので問題は無い。
カペロの無茶振りに困ったように返すのはムメイと呼ばれた青年であった。じつはこの青年、悪魔狩りを生業としているのである意味ファンタジーな現象にも理解がある。ムメイは苦笑しながらカペロを困ったように見、そして阿白へと視線を移す。
「確かにカペロさんが言っている事は自分の職業柄すごく気になります。高須さん、どう会話してたんですか?」
ムメイはにっこりと微笑んでる阿白には問いもせず、のんびりと食事を頂いていた高須へ質問を投げかける
「あばー」
「「うーん、全くわからない」」
「まあ、これが分かる方は中々居ないと思いますよ。本当にマイナーかつコアな代物なので」
阿白が首を捻って唸っている二人に苦笑して説明をする。この術は特定種族間でしか使えない上に内に秘める力、人間で言う血筋みたいなものが似ていないと使用出来ない事。そして解析不能の謎の術式が術の根幹に位置しているため下手に弄れない事。極めつけはこの喫茶店いわゆる術者が構築した領域内でしか使用出来ない。つまり利便性が全く無い産廃術だということ
「うわ、バカの俺ですらよく分かるクソさ加減」
「うわあ、それなら無線機とか携帯の電話のほうがまだ使い道ありますね」
「あばー」
「いやあ、お恥ずかしい話なのですが当時の自分はこの術かっけえと目をキラキラさせて覚えていまして。さらに術を覚えた時用に戦術書というにはあまりにもお粗末な物を作り夢想していたのです。しかもこれを使えたのは親類のごく少数と高須さんと紫穏さんだけなんですよ」
しかも高須さんと紫穏さんとのほうが成功率が高くこの術本来の力が発揮しやすいと付け足した阿白の雰囲気は煤けている。そしてそれを聞いていた高須とムメイの2人は余りにも報われない話に少しだけ同情していた。一方カペロは悪い笑みを浮かべている。
「おい阿白、一回俺に掛けてみてくれ。これ使えたらあの漫画とか小説でよく見かける常連客ムーブが何の失敗も無くできる」
「いや使うのは構わないんですが失敗したときやばいですよ。三日三晩わけわからん感じの思念を受信しますよいいんですか」
カペロは注意されても諦めずさっさと掛けろと目で阿白に言う。ムメイもムメイでリスクを聞いた瞬間カペロを生贄にすることを決めたようで微妙に心配そうな目を向けながらも好奇心ゆえか目がキラッキラしている。阿白は懐から何かしらが書かれたお札を出すとそれをカペロへと放った。
放たれたお札はカペロの中へと入るとスッと消える。
「え、お札が俺の中に入ってtetetttetetetttaa,hjjvjkah;kldklclajkl jkflhasdlkfhlskdmv」
「え、カペロ!?大丈夫!?」
「あー、どうなるんでしょうこれ。お札が入ったまではいいんですけど奇声上げてる時点でちょっと怪しいですねえ」
カペロは椅子に座ったまま奇声を上げている。特に立ち上がったりのたうちまわったりせずに声を放つ。その微動だにしないようすは奇声と相まって不気味だ。ムメイもそれを感じ取ったのかカペロを揺すり声を掛けていた。
「...」
「おーいカペロ?カペロー?」
数分経ったころには黙ったままのカペロが椅子に鎮座している。正直とても不気味だ。阿白はその様子に何かを感じ取ったのかもう一つお札を取り出し何かをしゃべり掛けた所、カペロがピクリと動く。もう一回阿白が話しかけると次はピクピク動き始める。
「あー、成功しちゃいましたか。カペロさんその意識のまま脳内に伝えたいことをイメージで浮かべて下さい。文字ではなくイメージです。」
「...」
「はい、かしこまりました。ムメイさんもう少し離れてほしいそうです」
「え?あ、はい」
ムメイがカペロから離れることを確認すると阿白はもう一回カペロのほうへ向きうなずくとカペロへチョップを放った。
そのチョップは微動だにしないカペロの脳天へ綺麗に吸い込まれ鈍い音を奏でる。
「いってええええええええええええええ!!!阿白お前!!!もう少し穏便な方法取れよお!!!!」
「そういわれても仕方ないじゃないですか、そっち側からこっちへ引っ張ってくるのに一番効率的なのは暴力なんですよ」
阿白は自身の胸元へ飛び掛ったカペロへ相も変わらずひょうひょうとした態度で嘯く。胸元にいるカペロは顔に青筋をうかべ叫ぶ
「しかもなんだよこの術!!!なんか俺でも知らなかった器官が動いてるよこれ!?人間で言う超能力とかそういう類のやつに必要な器官だよこれ!!!」
「え!?そんなものが!!!というかさっき言ってた特定種族って思考能力を持つ種族だけってことですか?」
「二人の質問にいっぺんに答えるとよくわからないです」
「「よくわからない」」
「正確に言うとさらにわからなくなったです」
阿白は疲れたように言う。カペロもムメイも頭にはてなを浮かべる。
「僕の推論では直接的な血縁関係あとは高次元的な親縁関係とかそういうものだったんです」
「高次元?」
「親縁?」
また二人にさらなるはてなが浮かぶ。なんの誤差もなく首を傾げる二人に阿白は笑みを浮かべる
「まあ、血縁関係に関しては省くとして高次元的な親縁関係を説明しましょうか」
いわく親縁とはジャンル分け。本といえば図鑑、小説、教科書、辞書と厳密に定義すると違うかもしれないがこう並べられると微妙な納得が出来る。それが親類であるらしい。高次元的なくくりだといわゆる神様視点というもので、神様からしたらこの世界に生きてる動物という区分だけになるかもしれないがそうでもない。ミーム、偏見、イメージまあどれもある意味同じ言葉だがそれが神様の世界の認識で縦横無尽にタグ付けがされ纏められているらしいのだ。人間で言う気味の悪いもので場所や動物、模様、現象などのただのイメージでどんなものであろうと一つのタグがつけられ纏められる。それが高次元というものらしい
「つまり神様みたいな視点でタグ付けをして纏められながらもそのなかにある同じジャンルのものが高次元的な親縁関係ってことですか?」
「きもい物体ランキングの中の虫みたいな感じか?」
阿白は満足そうにうなずくと二人のテーブルにいつの間に用意したのかクッキーを置く。二人はおかれたクッキーに同時にぱくつくと顔をほころばせた。
「なのでペテロさんに術が成功するとは思いませんでした。紫穏さんや高須さんに成功したのも地球の妖怪だったからと推測してたのでそこに悪魔のペテロさんが混ざるとは思いませんでした」
「あー、そういえばペテロは悪魔でしたね。職業柄関係してるのに思いっきり忘れてました」
「酷いなムメイ!!!俺はこんなにも悪魔悪魔してるのに!!!」
腰の尻尾を揺らしているペテロに謝り倒すムメイ。種族違えど気の置けない関係性がにじみ出て中々にほほえましい。
そんな問答をしている二人を阿白は傍目に追加で説明をする。
「なのでもっと別のタグ付けがされている説と訳わからん別の区分が有るのかの二択です」
「なるほど後者は僕たちじゃどうしようもないですね。前者のほうはどう検証します?」
「俺なら片っ端からその術かけるな」
「ペテロそれはただの超迷惑行為だよ」
「なんだとう悪魔的ないい発想じゃん」
わいわいしている二人の会話を聞きつつ阿白はぽんと両手を合わせるとムメイへ視線をあわせにっこりと微笑む。まるで捕食者のように嫌らしい笑みをしている。
「いいことを思いつきました」
「阿白さん、その笑みを僕に向けながらしゃべらないでもらって良いですか?その笑い方に僕はこれまでいい思いしたことないんですよ」
「なにかあれば貴方の職場には連絡しておくので安心してください」
何かを察したのか椅子から立ち上がり阿白から後ずさるムメイ、そんなムメイの背後にはこれまた嫌らしい笑みを浮かべたペテロがいる。
「ぺ、ペテロ?」
「お前には俺と同じ目にあってもらうぜ」
ムメイをしっかりと羽交い絞めにするペテロ、事前に声を掛けるあたりムメイへの配慮がにじみ出ているがそれ以上に同じ境遇を増やしたいようだ。
「二人の鬼!!!悪魔!!!!化生!!!!」
ムメイの顔が恐怖でゆがむ、後門の悪魔に前門の化生(白狐)と間違ってはいない。これからやろうとしている行為的に鬼と言われても仕方ないのでなおさら間違っていない。
「高須さん!!!助けて!!!」
助けを求められた高須は羽をパタパタさせて最後のカフェラテを飲んでいた。ラテアートは時間が経っても変わらずもふもふな姿で鎮座していて、それをなるべく崩さないように器用に嘴で飲んでいる姿には癒しを覚える。そんな反面ムメイにはお札を構えた阿白となお拘束を強めているペテロの二人が迫っている。
「イヤ嗚呼アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
今日も喫茶店「阿蘭」は平穏であった。
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狐雪
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狐雪
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阿白日常譚(#ピザ窯の仲間達)
初公開日: 2022年02月23日
最終更新日: 2024年02月15日
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