隣に並んでいることが当たり前だと思っていた。別に永遠の別れという訳ではなくメジャーヒーローのみのメンター会議にキースが出席しているというだけ。面倒だと口にしては重たい足取りの背中へ激励して見送っては喪失感に襲われては短く息を吐く。いつもあるはずの存在が、気が付けば遠くにいて隣からぽっかりといなくなったような感覚には未だに慣れずに落ち着かない。
 ヒーローは上下関係というものがあるようで境界線は曖昧でハッキリとしていない。メンターとメンティーなんて振り分けられてもいるのだから立場の違いというものの認識はあまりしていなかったが、こういった些細な所で一段、二段にキースとブラッドはいるのだと思い知らされている。同期だとはいえ星の数からいえば、ヒーローという立場に居る時間を考えれば当たり前のことに胸のあたりがドスンと重たく感じた。
「しょうがないこと、なんだけどな」
 独り言ちては空を仰ぐ。今はパトロールの真っ最中で、フェイスとジュニアは二人で別の場所を見てもらっているが、本当の所どうしようもないことを考えている情けない姿を見せたくないというのが大きな理由だった。聡くて優秀な子達は自慢のメンティーであり、最高の後輩だと声を大にして言える。
 そういえば、キース達とはどういう関係になるのだろうか。ジェイは当然先輩であるが、キースとブラッドは同期として入所しながらも今じゃ俺よりも立場は上になっているから先輩、ということになるのだろうか。ふと引っかかっては考えを巡らせてみるけれど生まれた疑問の穴にすっぽりと当てはまる答えは上手く見つからない。 
「おーい、ディノ」
「キース……先輩?」
「はあ?」
 不意に聞こえてきた声に振り返ってみては浮かべていた敬称を後付けてみたがやっぱりしっくりとこなくて首を傾げる。ビリーくんに少し違うとはいえ呼ばれる時はくすぐったさがありつつも嬉しさを感じていたのだが、ぎょっとした顔をしているキースの反応を見るからに不正解だと言われてるようなものだった。
「熱でもあんのか……?」
「ないから安心してよキース。それよりも会議終わったのか?」
「まぁな。そんな長い事話し合うようなことじゃねぇよ」
「そっか、お疲れ様」
 額へと伸ばされかけた手を取って下ろしながらいつもと変わらぬ呼称で呼ぶ。丸くなった目が瞬きをしてから肩がゆっくりと下りていくのが目に見えて思わず笑ってしまう。落ち着かないというのは確かだが、キース自身にも動揺させるほどの変化だっただろうか。ぱっと手を振りほどかれたと思えば当然のように一緒に歩き出したキースには会議が入っているからとパトロールの予定には入っていなかったはずなのに、こうして駆けつけてくれるのが嬉しくて足取りが躍るように軽くなる。
「で。さっきのは何だったんだよ?」
 同じ歩幅で進みながら会議で出た内容を離せる範囲で口にした後、当然の疑問を投げかけられた。変わらぬ態度をとっていたとしても気になっていたのだろう。キースが隣に居るというだけで安心しきってあんなに考えていたのにすっかりと忘れていた内容を伝えると呆れるように溜息をつかれた。
「で、さ。俺とキースはどんな関係って呼ぶのが一番落ち着くんだろうな?」
 本気で考えていたのだからそんな反応しなくてもいいじゃないかという訴えは飲み込んで、一人では見つからなかった問いをキースとも共有してみる。
「どんなって……」
 ピクリと眉が動いたと思えばキョロキョロと辺りを見渡している。昼も夜も賑わっているのがウエストの特徴だ。当たり前のように人はいるけれど、それぞれの楽しい世界へと入り込んでいる者ばかりでこちらへと視線を向けている人は極僅かだ。遠くから俺達を見ている子達へとひらひらと手を振っていると、反対側の手がぎゅっと握られる。
「キース?」
「街の奴等にとってのヒーローで、友だちで、仲間で、恋人。それでいーんじゃねーの?」
「えっ!?」
 そっぽを向きながらも俺へと投げかけてくる言葉に足を止めては顔が熱くなる。恋人。確かにそうなのだけれど、キースからハッキリとその単語を聞いたのは確か数えられる程度だ。
「なんだよ、その反応」
「い、いや……キースからそんな風に言ってもらえるなんて思わなかったから」
「はあ?」
 繋がれたままの手で動きを止めた俺に気付いたであろうキースも振り返ってみるとその表情は少しだけ血色が良いように見えた。ついさっき手を振った方面から黄色い声が聞こえてくるような気がしたが、今はそれよりもキースは心の奥底にある感情や思いを表に出す事は少ない。ましてや二人きりの空間ではなくこういった街中でなんて珍しく、伝えられた単語をキースの声で何度も反復させては頬が緩んでいく。
「へへ……ラブアンドピースだなっ☆」
「雑に纏めてんじゃ……ま、いいけどさ」
 離れていきそうな手を逃がすまいと指を絡めて手を繋ぐ。隣じゃなくてもこうやって手を繋いでいられる距離にいる。それだけで嬉しくて満たされるのだからこれで良いのだと答えに至ってはニッと笑った。
カット
Latest / 72:25
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
2020205キスディノドロライ
初公開日: 2022年02月06日
最終更新日: 2022年02月06日
ブックマーク
スキ!
コメント
第43回【お題:待ち合わせ/先輩後輩】