私はそれを不審に思いながらも、「ネクサス6」へのアクセスを実行した。
 VRゴーグルと専用スーツを着用し、真新しいシートに背を預ける。視界に橘総研のロゴ、そして「NEXUS 6」のロゴが表示され、一瞬の暗転。
 次の瞬間、私の目の前には、ほとんど現実と変わらない精緻さを持ったCGで構築された、渋谷のスクランブル交差点をモデルとした街並みが広がっている。道行く人々のざわめき、街路樹をさざめかせる風さえ聞こえてきそうだ。
 しかし、今渡しの目の前の交差点を行き交う人々は全員がNPCだ。スタンドアローン状態であるこの端末にログインしている人間は、現在私一人しかいない。……そのはずだ。
 無数の人々に紛れて、私はスクランブル交差点を歩きつつ、チェックツールで周囲の状況を確認する。……とは言え、物理的に外部からの接続を絶たれているこの端末に、何者かが侵入することは不可能なはずだ。
 私の視界ではチェックツールが自動的に周囲のキャラクターをチェックして、マーカーが目まぐるしく動き回っている。
 正常<グリーン>、正常<グリーン>、正常<グリーン>……異常は見られない。異常が見られないことが、逆説的に異常に思える。
 繁華街エリアへと足を踏み入れても、異常は見つからない。何らかの不法侵入やバグがあれば、チェックツールが反応するはずだ。だが、いくら周囲をチェックしてもバグ――謎の少女の姿は見つからない。
 
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