ずっと前から気になっていたことがある。どの地区に住んでいてもヒーローはとても人気でその話題に触れない日は無いし、恋愛事情というものを気になるのはアイドルと同じようにチラつく話題だった。「知らないからこそ良い」という言葉には頷くことはできるけれど、恋にも似た憧れを持っている身としてはハッキリとさせたくて仕方がない事で。
「あっ、あの!」
 だからパトロールをしているであろう二人の姿を見かけて今日は確認ができる絶好の日だと思って意を決して声をかける。想像よりも声は出せなかったけれど、ちゃんと耳に届いていたようでディノさんは足を止めて振り返ってくれた。年上の男性とは思えない、私よりも大きいであろう瞳と視線がぶつかって体温が急上昇していくような感覚がする。
「どうかしましたか?」
 人懐っこそうな声が私にだけを対象に向けられている。その事実だけでも幸せで一生分の運を使っているのではないかと思えるほどで、くらりとふらつきそうになる足にしっかりと力を籠めた。
「あの、私ずっとお二人に聞きたいことがあったんです!」
「二人……俺とキース?」
 疑問符を頭に浮かべた二人がアイコンタクトをしながら首を傾げるのを見て大きく首を振った。ずっと疑問だったとはいえ本人に聞くのは如何なものかと今更冷静な私がツッコミを入れてくるが、私の問いかけを待っている姿にもう後に引くことは出来なくて。バクバクと大きく音を立てる心臓を落ち着かせるように深く息を吸い込んだ。
「お、お二人は付き合っているんですかっ!?」
「え?」
「は?」
 即座に重なる声に顔が熱くなっては勢いよく縦に頭を動かす。変なことを聞いている自覚はあるが、ずっと気になっていたことなのだからしょうがない。二人とサウスのブラッドさんが同期で親友だという事は周知の事実だけど、普段から街で見かける姿やエリチャンで伺える様子からはそれ以上の関係ではないのかと勘繰ってしまっていた。もし答えが肯定されたら私はどう思うんだろう。分からないけれどヒーローとして活躍する姿を応援したいという気持ちは絶対に変わらない自信があった。
「あっはは! キースとは親友なんだ」
「そーそー。コイツと付き合うなんて苦労しかねぇだろ」
「あっ、酷いなキース! そんなに苦労かけさせるような事してないだろ?」
「そういう自覚がねぇだけだっつーの」
 妙な間の後に、響くディノさんの笑い声に目を丸くする。続けられたやりとりに瞬きを繰り返しながら、投げた問いかけの答えの意味を頭の中で検索する。つまり二人は付き合っていないという事で良いのだろうか。ホッとしているのになんだか言葉にするのは難しい、複雑な感情が渦巻いているのは何故だろうか。
「そ、そうなんですか……?」
「俺とキース、そんなに付き合ってるように見える?」
「……はい」
「そうなんだ」
 向けられた質問に素直に頷くとなんだか面白そうに笑うディノさんに、困ったように溜息をつくキースさん。そういう所なんだけどなぁ、と心の中で呟いては突然の無礼を謝罪して、これからも応援していますと頭を下げると逃げるように走り出していく。推しと喋ってしまった。嬉しさは確かにあるけれどモヤモヤの正体をこの時はよく分からなかったけれど、私が抱えている憧れは恋ではなかったのだと気が付いたのはもっと先のことだった。
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 今日のパトロール中のことを思い出しては口元が緩んでいく。自然とニヤついてしまう表情をしている俺にキースは呆れたように息を吐き出した。
「気色わりぃーぞ」
「俺とキースって恋人同士みたいに見えてるんだなと思ったら嬉しくなっちゃってさ」
「あー……あの時のか」
 ファンの女の子から突然の問いかけに驚きはしたが上手く返せていただろうか。あの反応だとただの親友だと受け止められていそうだが、実際に俺は付き合っていることを否定してはいない。狡さの自覚はあったけれどあの時はそれ以上の上手い言葉を思いつくのはきっと不可能だっただろう。親友で、仲間で、恋人。それが俺とキースの間にあるもので、確かめるようにキースの手をとって指を絡めたた所でキースの放った言葉が頭に浮かんだ。あの場を凌ぐためのものだと理解しているが、俺と付き合うと苦労するだなんて、納得はできないというよりもあまりしたくなかった。
「というかキース! 苦労かけさせるような事してたか!?」
「あ? 悪癖が暴走しすぎてないのは誰のおかげか自覚ねぇのか?」
「う……っ」
 返された正論はグサリと刺さって痛い。俺は悪いとは思わないけれど、周囲の反応から少しは直さないといけない自覚はあるわけで突かれると痛い部分だ。
「き、キース……」
「ま。別にそれだけじゃねぇけどな」
「ん?」
「なんでもねぇよ」
 ぶっきらぼうな態度をしているキースは手を繋いだまま顔を近づいて、耳元で小さく囁かれた言葉に全身の血が沸き立つように熱くなる。コツンと額をくっつけると至近距離にあるキースの瞳に情けないぐらい幸せそうに笑っている俺がうつっていた。
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20220129キスディノドロライ
初公開日: 2022年01月30日
最終更新日: 2022年01月30日
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第42回【お題:誤解/素直じゃない】