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蠍の神は満足げに自室へと向かっていた。「残してきたオナゴは果たしてどうしたじゃろうか」と、高揚した気持ちで部屋へ足を踏み入れる。
「おや、まだいたのか?」
蠍の神の視線の先には、ヘレが縄を解き、加護の腕輪をしっかりとはめて立っていた。しかし、額に汗が滲み疲労を露わにしている。
「――っ! ……わかってて言ってますよね?」
乱れた息を整え、キッと目を吊り上げてヘレは蠍の神を睨みつけた。
「ふふっ、そんなに疲れて”何度”戻ってきたんじゃ?」
なお煽るような言葉にヘレは深くため息を吐いた。
ヘレは今しがたこの部屋に戻ってきたところだった。正確にいうならば、三度目の帰還である。扉から出ても、なぜか部屋に戻ってきてしまうのだ。
こうも戻ってきてしまえば、ヘレにだって否が応でもわかる。縄が緩くてすぐに外れたのも、加護の腕輪が椅子に置きっぱなしだったのも、逃がすためじゃない。あってもなくても変わらないからだと。
ヘレは諦めて蠍の神との会話に応じることにした。
「まだ三回目ですよ。あなたこそ、何をしてきたんですか?」
「そんなに気になるのかのぅ? わしは上の階におるお気に入りたちの様子を見て来ただけじゃ」
「見に行っただけ……なわけないですよね」
蠍の神は、ヘレの言葉ににっと口端をあげると、つかつかと椅子まで歩きゆっくりと腰を下ろす。それから、ヘレを見て笑ったまま質問に答えた。
「あの獅子の小僧と、牡牛のオナゴが邪魔をするのでな、一度外へと出てもらったぞ」
「…………」
「また来ると言うておったのぅ」
「……あなたに嫌われたレグルスさんとアルディさんはここに入れないんじゃないですか? 蠍のマークはあなたが嫌えば消えるのでしょう?」
「くふっ、おかしなことを言うのぅ。ならばお主のもとうの昔に消えてなければならぬのぅ?」
「えっ?」
驚いた声をあげ、自分の足首を見たヘレはそこにまだ蠍のマークがあることを確認する。彼女の狼狽ぶりに、蠍の神は満足げに椅子の背もたれに寄りかかり足を組む。
「確かにピラミッドに入る前の選定はしておる。じゃが、ピラミッドに入った輩の蠍のマークを消したりはせんわ」
「な、なんで……?」
「なぜ? そんなことは決まっておろう。わしに執着し、再び会いに来る輩が面白いからじゃ。そんな面白い相手を何故わざわざ弾かねばならぬ。わしは全員歓迎しておる」
はっきりと紡がれる言葉に、ヘレは手を握り込む。
「なにそれ……おもちゃみたい」
「しっくりとくる言い回しじゃな! そうじゃ、久しぶりに余興を見せてくれる楽しいおもちゃじゃ。壊れるまで存分に踊って、わしを楽しませるがいいぞ」
ギリっとヘレは奥歯を嚙み締めた。困惑を超え、蠍の神の思考のわからなさにヘレは確かな怒りを感じていた。
ヘレは自分に言い聞かせるように大きく言葉を紡いだ。
「私は、あなたの思い通りになんてならないっ」
「ふふっ、よいぞ。あがく姿は面白いものじゃ。面白くなければ、先ほどのように軌道修正をすればよい」
怒りの言葉をぶつけても、笑みを崩さない蠍の神に嫌悪感を抱きながら、ヘレは方向転換をして扉へと向かった。
「私は……私は、アスクたちと合流してここを出るわ」
「せいぜい頑張る事じゃな」
蠍の神の余裕たっぷりな言葉に見送られながら、ヘレはその部屋を出た。何度部屋に戻ることになるとしても……。
スピカが道にある罠をすべてを薙ぎ払ってくれたおかげで、俺たちは次の階へ無事に到着した。でも、開けた光景に目を奪われてしまう。
「地図に書いてあった時は嘘かとおもったけど……」
「これは、本物と変わりないな」
ピラミッドの中だっていうのに、さんさんと降り注ぐ太陽に眩しく光を返しているのは一面の砂。初めて来たときに見た砂漠そのものだった。
「どうなってるんだろう?」
「さあな。神の住まう場所だ、蠍の神の力だろうが……」
風が頬を撫でて、眩しい太陽に照り付けられて、どう考えてもここは外にしか見えない。入ってきた扉の向こう側に石造りの階段が見える以外は。
「入り口の横は壁っぽいね。触れる」
「見た目に反して確実に建物の中だと言うことか」
俺はスピカの言葉にもう一度空を仰いだ。雲一つない快晴。そして、照り付ける太陽の熱気は明らかに体力を消耗させることだろう。とにかく、
「暑い……」
「ああ、長居はしたくないな。出発しよう」
スピカは大きな布を纏って歩き出す。俺は元々蠍の星の服を着ているので、特にこれ以上の対策はない。だから、スピカの後に続いて歩き出した。
「たしか、北の方にまっすぐ進めば次の階に降りれるんだよね」
「ああ、そこまで行ければ昼間の砂漠が終わる」
「その次は夜の砂漠か……すごい内装? だよね」
この暑さが次の階段まで続くと思うとどっと足が重くなる。しかも次の階は次の階ですごい寒いんだよなぁ。
「そうだな。どちらも危険性が高い。無理はせず、こまめに休憩を挟んでいこう」
「うん」
返事をすれば、スピカは黙ったままもくもくと歩く。
レグルスとアルディさんは大丈夫だっただろうか。ヘレは、何してるだろう……。
黙っていると不安が頭をもたげる。スピカがいるから大丈夫だ。と言い聞かせて、俺は不安を頭の端へと追いやった。今考えても仕方がない。
――あれから、どれくらい時間が経っただろう。
ずっと歩いているのに先が見えない。暑さと、砂の重みで体力は奪われて、一歩進むごとに喉がヒューヒューと音を立てる。
額からはおびただしい数の水滴がいくつも流れ落ちていく。
隣を歩くスピカも俺と同じく言葉数が少なくなっていた。
「……ふぅ」
「……スピカ、大丈夫?」
「ああ……問題ない」
そうはいうけど、明らかに歩く速度は遅くなっているし、覇気もない。俺だって疲れてるけど、スピカほどじゃない。それくらいスピカの様子はおかしかった。
「……少し休もう」
問題ないと言われたけど、どうにも足取りがおぼつかなくて、俺は砂山の影のところで一度荷物を下ろす。
スピカは倒れ込むように座り込んだ。
「すまない……」
「……ねぇ、暑さが苦手? それとも何かあった?」
水を差しだせば、口につけてゆっくりと飲み込み、スピカは俺を見た。顔の表情を見て驚く、顔色が明らかに悪かった。
「……蠍の神との対峙した時……何かに刺さられた」
「え!?」
「たぶん蠍だったのだろう。遅効性の毒のようで、徐々に体が重くなってきている……」
「そんな! なんでもっと早く言わなかったんだよ!」
思いもよらない返答に俺は叫んだ。喉がガラガラでげほげほと咳が出る。
なんでそんな大事なことを言ってくれないんだ。喉の痛みよりも、スピカへの怒りの方が強くて、じっと彼女を見た。スピカはすまなそうに眉尻を下げる。
「すまない。あの時はおかしなことはなかった。何よりアルディとレグルスがあの状況では、あの判断が正しいと思っている」
「……! でも、言うことくらいできただろ!」
「だが……言えばアスクは不安になるだろう? 一人で行かせるわけにもいくまい」
言われてしまえばたしかに不安になる。でも、そんな正論よりも、スピカが俺に話してくれなかったことの方が悔しくて、悲しかった。
「お、俺は一人でも平気だし! 結局、こんなところで倒れてたらダメだろ!」
「……そうだな」
「あっ……」
勢いあまって言った言葉にスピカの目が揺れた。どう見ても傷つけた。視線をそらして、スピカは重々しく立ち上がる。
「こんなところで、立ち止まってる場合では、な……」
「スピカ!!」
立ち上がって歩き出すとして、スピカは前のめりに倒れ込んだ。
「スピカ! ねぇ!!」
駆け寄ってゆするけど、その閉じた瞳は開かなくて……。
「どうしよう……俺のせいだ」
体調が悪い相手に怒りで当たり散らして、傷つけて、無理させた。
どうしよう、最悪だ……。
スピカの言った通りだ。俺一人じゃ何もできない。スピカやレグルス、アルディ、そしてヘレが来てほっとしたんだ。これでどうにかなる。って。安心した。
みんなの役に立ちたいって思ったのに、結局ずっと甘えてた。強いから、みんながいれば大丈夫って。みんなだって、同じ人間なのに。いくら強くても、加護を持っていても、どうしようもないことだってある。
「……どうしよう」
このままじゃいけないのはわかってる。けど、何も浮かばない。
「誰か、助けて……」
「困っておるようじゃな?」
つぶやきに応えるように、声が降ってきた。顔をあげれば、蠍の神が目の前に立っていた。
「あっ……」
思わず下がろうとして、バランスを崩してしりもちをつく。
いったいどこからきて、いつからここにいたんだ?
「そう怯えんでもよい。わしは、提案をしに来たんじゃ」
蠍の神の言葉を順繰りと頭で復唱する。提案ってなんだ……?
「我が元に来い。さすれば、すべての人間の無事を保証しよう。どうじゃ?」
「俺が頷けば、スピカも、ヘレも助かるってこと……?」
「そうじゃ、いい話じゃろう?」
どうしようもないところに、助かるという道しるべ、藁にもすがる思いだった。
でも、その時、いつの間にかうっすらと目を開けていたスピカと目があった。
途端、スピカにアリエス様の伝言を聞いたときの会話が頭に浮かぶ。
「アスクは、牡羊の星に戻る気はあるのか?」
「……戻りたい。このオフィクスの加護が解けたら……!」
――そうだ、俺はヘレと一緒に牡羊の星に帰らなきゃいけない。でも、それにはヘレを助けなきゃ……。
「どうしたのじゃ? お主はそこのオナゴを見殺しにできはしないじゃろう?」
そうだ、俺には選択肢がない。
どうしようとスピカをもう一度見るも、彼女はまた意識を失っているようだった。
選択肢はなかった……。
「……わかった」
俺の返答に蠍の神は嬉しそうに頬を緩めた。だけど、俺は言葉を続ける。
「でも、俺は牡羊の星に帰りたい。貴方の元に行っても、その気持ちは変わらない」
「ほう、じゃが約束は約束じゃ。いくら望もうとも、わしの元から一生帰すことはないぞ?」
「……わかってる。だから、伝えとくよ。こんな形で約束しても……俺は、きっと貴方をずっと許せない」
こんな方法で無理やり蠍の星にいたら、俺はずっと気にし続ける。そして、彼女を憎んでしまうだろう。そんな人間を傍においておきたいのだろうか?
「くふふふ……本懐じゃ」
俺の心配をよそに、蠍の神は笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「ずっと待っておった。どんな感情でもよいのじゃ。わしのことを永久に見てくれる者が傍にい続けてさえくれれば」
「…………」
目に宿る光は、ひどく強い執着。そして、本当に喜びを含んでいた。思っていた返答とは違ったことに愕然とする。
声も出ない俺に対して、蠍の神は小さく聞こえるか聞こえないくらいの声で
「……もう独りではなくなる」
と呟いた。その言葉を吐いた時だけは、はかなげで寂しさを含んでいて、目の前の変わりように俺の心がかき乱される。
どうして、そんな声を出すのか。どうして、あの声――”待っておる”とつぶやいたピラミッドに入った時の声とそっくりなのか。
混乱している俺をよそに、蠍の神はにこっとあどけなく笑った。
「さて、話は終わりかのぅ小童……名前を聞いておらんかったな。名をなんというのじゃ?」
「……アスク」
「アスクか。ふむ。アスク」
嬉しそうな彼女は、先ほどまでの意地悪な雰囲気はない。上機嫌のまま、スピカに近寄ると解毒剤を飲ませた。
彼女の行動に緊張が走ったが、スピカの顔に血色が戻っていき、俺はほっとした。蠍の神は、さらにその解毒剤をスピカの荷物に入れ込むと蠍を使ってスピカを運ばせていった。
「わしは今、加護を通してお前と話しておる。じゃから、お主は本物のわしのところまでその足で来るのじゃ」
蠍の神はまっすぐと太陽とは反対の方向指を差す。目をやると、砂が下に流れ続けて大きく凹んでいた。大きな蟻地獄のようだ。
「その砂の中央から下の階に繋がっておる。下の階も同じ場所を探し、さらに下の階まで降りてくるのじゃ。そこで、わしは”待っておる”」
スピカのことでいったん落ち着いたはずなのに、またあの声と同じように言われて、混乱した。
傲慢な目の前の蠍の神が、あの時の声だなんて思えない。なのに、寂しげにつぶやかれた声と言葉は、あの時の声にそっくりだと思う。
「……わかった」
ごちゃごちゃになった思考をいったん頭の隅に置いて、俺は返答を待っている蠍の神に頷いた。
返答への選択肢はない。俺はスピカの回復を目にしているから、従うしかないんだ。途中でスピカを放り出されてはかなわないし、ヘレの無事も確認しないといけないから。
「うむ、良い返事じゃ。では、待っておるぞ」
蠍の神はそういうと加護の蠍の姿へと戻った。
誰もいない砂漠に立ち……俺は意を決して砂の中に飛び込む。
あっという間だった。砂が目に入ると思って顔を覆い瞼をつぶれば、すぐに浮遊感。その後に背中に衝撃を受けた。
「いたた……」
起き上がれば、暗闇を月が照らし砂がきらきらと光っていた。肌寒さに、腕をさすっていると上から荷物がぼとっと音を立てて落ちてきた。
砂も少しずつ降り注いでいるので、俺は荷物を手に取ってその場を離れた。荷物から布を取り出して被る。
「…………」
頭の中がぐるぐるする。選択肢がなかったとはいえ、本当にあれでよかったんだろうか? それに蠍の神の言葉。人を傍に置いておきたいって、独りじゃなくなるって、やっぱり寂しいのか? あの声にそっくりだったのは?
疑問しか浮かばない。もっと、情報が欲しい。もっと、彼女の思いが分かれば説得もできるんじゃない……かな。
「やっぱり、会いに行ってちゃんと話さなきゃ」
もしかしたら時間がかかるかもしれないけど、でも、俺だって諦める気はさらさらない。アリエス様に会うために……ヘレと戻るために。
俺は荷物を担ぎなおすと、夜の砂漠を歩き始めた。
思ったよりも早く下の階に降りる砂の凹みは見つけることができた。
でも、飛び込むのを戸惑ってしまった。だって、砂の中央になんか白い毛玉が……動いてる。
なんだ、あれ? 見たことあるような気がするんだけど……。あ、羊の毛にめっちゃ似てる。
「えっ!?」
白い毛玉がすぽーんっと勢いよく飛び跳ねた。と同時に、目の前に人影が降ってきた。
「いたーい……え、あ、アスク?」
「ヘレ、なんっで……?」
よく見知った顔が目の前にいる。驚いた表情でお互いに見つめ合って、言葉を失う。
「……え、アスクこそなんでここに?」
「いや、俺は蠍の神に会うために下に……」
「ダメ!」
ヘレの大きな声に驚いて後ずさる。
「あ、ごめん……私、蠍の神のところから逃げてきたの。ずっと同じとこをぐるぐる周るから、砂が降ってくるところを見つけてメ―メ―に乗ってなんとか上ってきたの……」
説明をしている間にヘレの瞳から涙がこぼれた。
「え、あ……ヘレ?」
「うぅ……アスク、無事でよかったぁあ!」
ヘレはほっとしたのか流れる涙も拭かずに抱き着いてきた。勢いのまま尻をつくも、ヘレは離れなくて。俺は落ち着くようにと背中を撫でる。
「うん……ヘレも無事でよかった」
「……うん!」
ヘレが顔をあげると笑顔が戻っていた。俺はほっとする。
つられて笑った俺に、ヘレも落ち着いたように体を離した。ヘレが身震いをするので布を被せる。
「……落ち着いた?」
「うん……ありがとう、アスク」
隣に座り直し、ヘレは頷いた。俺は話を切り出す。
「ヘレ……。別れてからいろいろあって、ヘレの話も聞きたいんだ。情報を共有しよう」
「うん、私もいろいろ聞きたい」
「じゃあ、俺から話すね――」
ヘレと別れてから、レグルスが蠍の神の毒を受けてアルディさんとピラミッドの外に出たこと、スピカが蠍の毒に倒れて蠍の神に助けられたこと、蠍の神との約束を話した。ヘレは、蠍の神との会話を話してくれた。
「……やっぱり、蠍の神ってやってることがおかしくないか?」
「どういうこと?」
「ずっと何かひっかかってたんだ」
ピラミッドに引きずり込まれた時、女の人がいて『待っておる』って寂しそうに言われて、蠍の神だって思った。けど、蠍の神と会った時には寂しそうなイメージは全然なくて……でも、どこかで彼女のような気がしてた。
冷静に考えてみると、蠍の神の言動は矛盾してることが多い。
「蠍の神って、加護を通して俺たちのことを観察してると思うんだ。じゃなきゃ、あんなに良いタイミングで姿を現さないだろうし」
「そうね。私の目の前にいたのに、アスクたちの動きを知ってたから、間違いないと思う」
「けど、レグルスやスピカに毒を仕込んだり、ピラミッドの内部の罠やこの砂漠の環境は、下手したら死ぬだろ?」
「そうね……」
ヘレは目を瞬いて俺を見る。それがどうしたのか? と疑問に思っているようだ。
「でも、危ない段階になると蠍の神はトドメを刺さないんだ。もしかしたら助けてるに近いかも」
「でも、それはアスクやスピカさんを気に入ってるからじゃ……」
「本当にそうかな? レグルスが持ってた地図あるだろ? あれって本当に内部の描写がこのピラミッドと一致してた。誰が、その地図をもってたんだろう」
「それはピラミッドの中に入った人が……」
「だったら、ピラミッドを最奥まで行って戻った人がいるってことだろ? あの罠を抜けて、蠍の神の妨害を抜け、この環境に耐え、最奥まで行き、そして戻った……」
蠍の神に気に入られない限り最奥まで行くのは難しい。ヘレのように人質にされてしまえば、中間の見取り図は作れない。
「ということは、俺もピラミッドから出れる可能性が高い。と思うんだ」
「蠍の神はそんなに甘くないように見えたけど……」
「そこだよ。だから、おかしいんだ。もしかしたら、本心は違うんじゃないかなって……」
「……私にはわからない。あの人が何を考えてるのかなんて」
「そう? 聞いてると、ヘレと話してる蠍の神は楽しそうだけど」
「えぇ!? どこをどう聞いたらそうなるのよ!」
驚くヘレに俺はちょっと考えた。ヘレが話した蠍の神は、わざとヘレを怒らせてるみたいだったんだよなぁ。なんか引き留めてるみたいな。
「んー……蠍の神がさ、本当にずっと一人だったなら、人との付き合い方が下手なのかな。って。構ってくれるならどんな人でも歓迎って、そっちが本心のような気がして。ヘレに興味がないのに、ヘレにそんなに話をするとは思えないんだ」
「はぁ、たんに人で遊んでるだけだよ」
「そうかなぁ。人で遊ぶっていう残忍さは感じないんだよな……なんか言ってることが子どもみたいじゃん」
「子ども……うっ、しっくりくるかも。でも、神様だよ? なんでそんな風に考えられるの?」
「え、考え方は人も神様も一緒じゃない? たしかに文献通りすごい力の持ち主だし尊敬はするけど、話してみれば考え方は双子の神たちもそんな変わらなかったし」
「……そう、だね。偉大な力を持つから及びもつかない考えを持つとは限らないよね」
ヘレは質問の末、頷いて同意を示してくれた。
「ヘレには言ってなかったけど、ピラミッドへ入った時に寂しそうにつぶやいた声を聞いたんだ。”待っておる”って……ずっと蠍の神じゃないと思ってたけど、いろいろ考えると、やっぱりあの声は蠍の神だと思うんだ」
「じゃあ、ずっと待ってるの?」
「うん。だって、俺を最奥に連れていきたいなら、ヘレみたく罠とかで最奥まで連れていけると思うんだよね。でも、自分の足で来いってかたくなに言うでしょ?」
「たしかに……じゃあ、本当は誰かに迎えに来てほしいのかな?」
「そうだと思う……レグルスとアルディさんに怒ったのだって、二人が仲良くしてたからみたいだったし」
「怒るってことは、気にしてるってことだもんね。……仲良くしたかったのかな」
「俺の勝手な予想だけど……だから、今度はちゃんと話をしてこようと思う」
ヘレは空を見上げると、意を決したように立ち上がった。
「うん。私も一緒に行く! たしかに言ってることとやってることがちぐはぐだもん。もしかしたら自分の気持ちに気づいてないのかも……はっきりさせてやるわ!」
ヘレの伸ばされた手を取って、俺は立ち上がった。
「わかった。行こう、ヘレ!」
俺とヘレは、蠍の神のところへ向かう――。