華やかな中でじっとしていると、ちょっとだけ場違いっぽいなー、と思ってしまう。
 周りの女子は当然のように振袖姿。わたしもその内の一人に違いないんだけど、どうも服に着られてる感が否めない。いや、沙弥香先輩が着付けてくれたんだから大丈夫なはず……。そうは思うのだけれど、やっぱり違和感は拭えないまま。
 心が子供のまま大きくなったから、まだ大人の自覚がないのかもしれない。いや、その、オトナなことは考えてるしやってるけどさっ。
 うーん、ちょっとらしくないことを考えてるかもしれない。そもそもわたしはこうやって考えるの得意じゃないのに。
 それは多分、ずっと沙弥香先輩といるからだろう。
「どしたの?」
 隣で大人しく座っていた侑ちゃんが、小さく声をかけてくる。
 ……急に耳元で囁かれるものだから威力がすごいある。わたしに沙弥香先輩という最高の彼女がいなかったらコロッといってしまいそうなくらい。
 侑ちゃんはかわいいのに割と無防備なとこあるから困る。危ない危ない。
「ん。いやー、なんか落ち着かなくて」
「あー、動きにくくて?」
「それもあるけど、このかっこがさ」
 さっきまで抱いていたものを愚痴ると、途端に侑ちゃんは何故か苦虫を噛み潰したような顔をしてきた。
「いーじゃん陽ちゃんはまだ身長あるんだから。わたしとこよみなんか見てよ、ほら」
「侑ー、そこで私に振らないでよー? こっちは別に身長とか気にしてないんだからさー」
 くぁ、と欠伸を漏らしながらこよちゃん。短い黒髪も合わさって、日本人形みたいだ。
 確かに二人とも小さいからか、お人形さんみたいなかわいらしさがある。うん。
「侑は身長どんくらい伸びたんだ、ん?」
 そこに背の高い組のなっちゃんと朱里ちゃんが加わって、後ろの席から侑ちゃんを揉みくちゃにし出した。侑ちゃんは「静かにしなよー」と小声で抵抗するけど、周りもあんまり変わらない様子だからそのくらいじゃ目立たない。
 ……今日は成人式。わたしは遠見組のみんなと一緒に、会場に来ていた。
 地元に戻る、という選択肢はなかった。いや、当然年末年始はちょっとだけ帰省してたけど、三が日を過ぎるとすぐに帰ってきた。
 だって地元に沙弥香先輩いないし。それに今の生活が楽しいから、こっちのみんなと一緒に出たかった。
 遠見組の三人とは侑ちゃんつながりで仲よくなった。なっちゃんと朱里ちゃんはどっちかっていうとわたしに近かったからすぐ仲よくなったし、こよちゃんは本をすごい読むって聞いたから最初は緊張したけど、案外ノリがいいと知ってからは早かった。
 あと、朱里ちゃんの彼氏さんともう一人の男子もいるけど、そっちはそっちで固まって楽しく話してる。
「槙お前向こうじゃないのな」
「うーん。向こうでとも考えたんだけどね。もう少しのんびりしたかったから」
「ほーん」
「あと誰かさんが一緒に成人式出ようぜって呼び付けたからもんだからさ。なんで僕なんだか」
「よく見ろよお前。……他の奴ら呼んだら、絶対誰かに告るぞ」
「だからってさぁ」
「女しかいねーから一人じゃ居心地悪いんだよー。ほら槙奢るからさー」
 ……彼氏さん、いつも思うけど誰に対しても距離が近いなぁ。
 と、視線を前に戻して見れば、前方のスクリーンに著名人が次々と登場して、新成人に向けてのメッセージを告げているところだった。
「こよちゃん新成人代表とかじゃなかったんだね」
 今更のように思ったことが口を衝くと、一度視線がわたしに集中し、続けてこよちゃんへと向けられる。
「そういやそうだ」
「いやいや、私まだ本一冊出しただけだし、そこまでヒットしてないし」
 急に名前を出されたこよちゃんは、なんでかすごく嫌そうな表情をしてぶんぶんと手を振った。
「でもこの辺りでそんな実績残してるの、他にいないんじゃね?」
「いやいるから。知らないけど」
「それで言ったらメッセージって七海先輩からのないの?」
 と、今度は朱里ちゃんが急に侑ちゃんへと話を向けてくる。
 一瞬噎せた侑ちゃんは、こよちゃんと同じようにぶんぶんと手を振った。
「いや、まだメジャーデビューしてないんだからさ。出てきても、誰? ってなるでしょ、普通」
「そーかなー」
「てか侑、結局私その七海先輩とやらと会えてないんだがー?」
「タイミングが悪いんですー」
 なっちゃんがまた後ろから侑ちゃんにちょっかいを出している内に、有名人のメッセージも挨拶も流れていき、いつの間にか成人式は終わっていった。
 いや。むしろ成人式はここからが本番なのかも。
 堅苦しい式典も終わり、あとは自由に成人を祝えるとあって、周りの新成人たちもすぐに立ち上がり、銘々が勝手気ままに動き出している。
 わたしたちもそろそろ移動しようか、と立ち上がったところで、不意に近くで声が上がった。
「小糸!」
 振り返ると、見覚えのない男子が侑ちゃんに話しかけているところだった。侑ちゃんもおぉーといった顔をしてるし、知り合いかな?
「久し振り。元気してた?」
「まぁな。そっちは?」
「元気元気。野球はまだやってるの?」
「あぁ。大学でも相変わらずな」
「おー、すごいじゃん。目指すはプロ?」
「まさか。高校じゃ不完全燃焼だったから大学までやっちまったけどな。これ以上は無理さ」
「そっか」
 そこまで流れるようにするすると連鎖していた会話が徐に途切れる。お互いに二の句が継げないようで、不自然な沈黙が二人の間に漂っていた。
「ちょっと、なにしてんのー?」
 そんな二人の間に、唐突に一人の女子が割って入る。
「あ、すまんすまん」
 男子の方は知ってる顔らしく平然と謝ってるけど、侑ちゃんの方は知らないらしく、目を丸くしていた。
「友達?」
「そうだよ」
 侑ちゃんを見てからそう訊ねる女子に、男子はなんの屈託もなく頷く。
 そんな二人のやり取りに、ちょっとだけ呆然としてるように見えた侑ちゃんは、すぐに驚きの声を上げた。
「あ、もしかして、彼女さん?」
 それに男子はゆっくりと頷く。
「……そうだな。紹介するよ。俺の彼女だ。こっちは中学の時の友達の小糸」
「よろしくー」
「うん、よろしく」
 男子の紹介に、二人は小さく頭を下げる。
「そうだ、今度中学の同窓会あるって聞いてるか?」
「聞いてるよ。一応出るつもり」
「そうか。んじゃまたその時にな」
 男子はそう言うと、女子に腕を引っ張られるようにして立ち去って行った。
 それを見送る侑ちゃんの後ろ姿は、心なしか寂しそうにも、あるいは嬉しそうにも見えた。
 なんだかそんな侑ちゃんが気になって近寄ろうとしたわたしのすぐ傍を、知ってる人が通るのが見えた。
「でさー……」
 何年も聞いてきた声。そして、この二年あまりずっと聞くことのなくなった声が、通り過ぎていく。
 釣られて振り返ってしまったわたしと視線が合うことは、決してない。その子は人混みの中へと消えていく。
 ……そっか。君も地元じゃなくてこっちに残ったのか。
 わずかに見えた、振袖を着た彼女はきれいでかわいくて、魅力的なのは相変わらずだった。
 でも、もうそこに以前のような情動も、哀しみも浮かばない。
 わたしの一番はとうに彼女ではなくなっていた。
 それが、なによりも。
「――陽ちゃん?」
 思わずびくっとしてしまった。気付けば侑ちゃんはすぐ隣に来ていた。
「どうかした?」
 それに、わたしは。
「……ううん。なんでも」
 強がりでもなく、首を振って笑った。
 やっぱりわたしは、感情の回転が早いようだった。
「侑ちゃんこそ、さっき誰と話してたの?」
「えーと」
 侑ちゃんも、一瞬いつものように困ったような苦笑を浮かべたけれど、すぐにそれは本当の笑顔に塗り替えられる。
「中学の友達」
「そっか」
 似たようなにおいがするけれど、それが嘘じゃないと分かったから、わたしは、そしてきっと侑ちゃんも、それ以上追及しなかった。
 ……こういう辺りは、ちょっとは大人になったんだろうか。うーんどうだろ。
 そんなことを考えていたら、不意にスマホが震え出して着信を知らせてくる。
 なんだろ、と手を伸ばすと、侑ちゃんも同じように袂に手を入れてスマホを取り出してた。
 液晶画面に映し出されたメッセージに、二人顔を合わせて――笑う。
「行こっか」
「うん」
 わたしの言葉に侑ちゃんは嬉しそうに頷くと、遠見組のみんなを呼ぶ。
 ……あぁ、どうしようもなく嬉しい。走り回りたい。
 やっぱりわたしに大人はまだ早いようだ。
 それでも駆け出したいのを我慢して、侑ちゃんとみんなと一緒に会場を後にする。
 ――外には、わたしと侑ちゃんの大好きな人が、待っていた。
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