もふもふ、ふかふか。
一目惚れだった。
きっと彼によく似合う。
そして、そんなもふもふでふわふわな上着を身に纏った彼を抱き締めたなら、この上なく幸せなのだろうと。
帰宅が別々になることは珍しいことではない。
正義の方が早く帰っている時は、帰宅すれば玄関や居間に電気が点いている。冷え込むようになったこの季節、扉を開いた瞬間の『あたたかい家』に帰ってきたという感覚は何かに代え難いものがある。だからこそ、自分の方が早く帰った時には同じように彼を迎えたいと思う。寒風に押されて滑り込んだ玄関に、ほっと肩の力が抜けるような優しい明るさを。
そう思って一足先に帰宅した暗いリビングに電気を点ければ、片隅に立っているコートハンガーに残っている物が一つ。
——これは。
ふわふわとした、まるで生き物の毛皮を撫でているかのような非常に触り心地の良い上着。先日自分が正義に贈ったアウターだ。文句なしに暖かいそれだったが、脱いだ時に下に着ていた服に毛がたくさんついてしまうという難点があった。試着の後に自分の袖を見て瞬いていた彼は、外に着て出るのは時と場所を選びそうだと毛玉取りを使いながら笑っていたものだ。
——こんなに気持ちいいのに、もったいないなあ。
そう言って生地を撫でていた笑顔が頭をよぎって、自分のコートを掛ける代わりに、その日のまま相変わらずふんわりとした感触のそれを手に取る。
中身が空のそれを抱き締めても、それを着た彼を抱き締めた時の充足感には及ばない。一度腕に抱いたそれを改めて広げて、それならばと腕を通したと同時に玄関で彼の帰宅を知らせるチャイムが鳴った。続いて聞こえる愛犬たちの声と、待ち人の声。
「正義。おかえりなさい」
「ただいま、リチャード! 今日寒かったなあ。ジロサブ迎えに行ったらひろみのところで、晩の、おかず、を……」
足を拭いてジローとサブローを先に上がらせながらこちらを見上げた琥珀が丸くなる。ころりと落ちてしまう前にぱちりと瞬いた目が何を考えたのかは明らかで、ふふんと笑ってハグの態勢を取ってやれば間を置かずに飛び込んでくる質量。
「~~っ、なんだこれめちゃくちゃ気持ちいいな……!」
「そうでしょう。わかります」
「ふわっふわ……うわああなんだこれ」
「存分に堪能なさるとよろしい」
「わー……!」
すごい、気持ちいい、あったかいとハグより深く抱きしめて。
交わされる笑い声に宿るのは、この季節だけの幸せの温度。