「正義、よろしければこちらをあなたに」
 そう言ってリチャードがショッパーを差し出してくることは、珍しいことではない。本人はおそらく土産などのつもりではないのだろうと思っている。見かけたものに心惹かれて、手に持って帰ってくる。自分にとっての食材のようなものなのかもしれないが、正直こちらと向こうの金額の差はどうなんだろうと思わないでもない。
 けれど、『よろしければ』と言いながら受け取らないことを前提にはされていない袋を差し出す相手は、少しだけ何かを期待するような少しはにかむような笑顔で。
 そんな顔を見てしまえば、彼の楽しみを奪うこともないか、などと思ってしまう自分がいる。
 今日も別々の帰宅のあと、夕食を済ませてから差し出された袋に瞬いて、お礼を言いながら受け取れば満足そうな笑顔が返ってきた。
「近頃は冷え込むようになってきましたが、私よりあなたの方が寒そうに見えますので。とてもあたたかそうでしたよ」
「ありがとう、リチャード。上着……って、うわ! なんだこれめちゃくちゃふわふわだ!」
 袋から取り出した上着は、触ると柔らかくふわふわの毛に指が沈むような感触。まるでウサギか何かの毛を撫でているようなあたたかさで、手に持っているだけでもなんとも言えない気持ちよさがある。
 おお、うわあ、と思わず声を漏らしながら撫でていると、隣にやってきた贈り主はいいから着てみろと言う。試着をしていなくてもこちらの服のサイズは完璧に把握されているわけだけれど、大きさの確認は必要だよなと頷いて袖を通し、チャックも閉めて。
「いかがでしょーか」
 鏡がないので、鏡以上に正確な目に見てもらおうとくるりとその場で回って見せると、一回転すると同時にどんとぶつかってくる衝撃。
「え? うわわ……!?」
 あれ、と思うよりソファーに倒れ込む方が早かった。
 目を白黒させていればくすくすと楽しげな吐息が顎の少し先から聞こえてくる。
 どうやら押し倒されたらしいと思うも、上着越しにぐりぐりと顔が埋められる感触があって、続いてまた少し笑う音。
「おーい、リチャードさーん?」
「ふふ。ふわふわですね、正義」
「ふわふわですね、じゃなくて」
「あなたが身に着けていたら、気持ちよさそうだと思ったのです」
 大正解でした、とまだ楽しそうに笑って人間毛布の感触を楽しんでいる顔は少し目線を下げた先。
 袖を通した腕二本でさらにもふっと抱きしめながら、気持ちよさそうに楽しげに漏れる声にそれならいいかと笑ってしまう。
 こちらのためと、リチャードのため。
 双方に得なお土産ならば、止める謂れもないのだから。
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