ぴょこんとピンク色の尻尾が視界で揺れた。普段から大型犬の尻尾が生えてるような幻を見るディノの髪の毛が一つに結われていて、視線を向けているテレビの映像に合わせて上下に動く。たったそれだけのことで何の変哲もない室内の空気が不思議と変化するような気がした。きっと少し鬱陶しくなったとかそんな理由だろうが、一緒に見ようと持ってきた映画よりも意識を持っていかれてしまってはその小さな尻尾に触れる。
「キース?」
「尻尾みてぇだなって」
ディノが首を傾げてはまた揺れる。こちらに顔を向けてこようとするものだから後頭部を手の平で固定するで「おわっ」なんて驚きの声が上がったのは聞こえないふりをした。
毛質が正反対ともいえるディノの髪は真っすぐなわりにぴょんぴょんと外へ向かって跳ねている。手の腹や甲を撫で、指の間をすり抜けていく柔らかい感触は自分のものとは違い心地よくてつい触れてしまっていた。その度に気持ちよさそうに目を細め口元を緩める表情が見たいがためでもあるのだけど。
「お前が髪結んでるなんて珍しいな」
「うん。ちょっと伸びてきたみたいでさ」
「ふぅん」
会話をしながらも尻尾のような束に触れることはやめない。案外楽しいものだと思うのが半分、うなじが目の映ることを阻止するのが半分。フェイスもジュニアも外へ出かけているとはいえ、普段は長い襟足で隠されているからと調子に乗ってつけた跡がハッキリと見えてしまい心臓が変な鼓動を立ててしまう。
「なんかキース犬みたいだぞ」
「はあ?」
「ほら、母犬の尻尾で遊ぶ子犬っているじゃないか。そんな感じ」
テレビへ向ける視線は外さないまま、楽しそうに笑う声に手を止めた。犬みたいだと感じる奴から犬のようだと、更には母と子の関係のようだと言われては面白くはない。親友兼仲間というカテゴリーに恋人が追加されて暫く経ち、友人や親子の仲ではやることのない行為を何度も経験しているというのに。そのなかで付けたこの後の存在もきっと知らないのだろう。
言葉にしがたい燻ぶった感情が渦巻いていることには気が付かない様子で、ディノは声を弾ませたまま言葉を発する。
「それに髪の毛結ぶことって珍しい事じゃなくないか? チアリーダーやウェイトレスの服を着た時には二つで結んだりしてたんだし」
「あんときはそれ以上のインパクト強いもんがあったからなぁ……」
「むむ。折角ピザがついたヘアゴムだったのにキースは気が付いてなかったのか……」
「……そんなモンつけてたのかよ」
「うん」
数年越しの新事実に肩を落とす。可愛い部類の顔立ちをしているくせに、しっかりと鍛えられている体は女性ものの服を着ると残念なことになる。恋心を自覚していなかったあの頃はどう対処するべきか分からなかったが今、また女装をするなんて言いだしたらどうすべきだろうか。もし、ベッドの上で。そんな想像をしてしまい体温が上昇して大きく脈打った。手の動きが止まったことに気が付いたのかオレの方をようやく向くことのできたディノの瞳は楽しそうなものを見ているようにキラキラとしていた。
「今度またやってやろうか?」
「遠慮しとくわ」
「ええっ、そんなぁ!」
あろうことか想像してしまった言葉が飛び出してきては即座に否定するとこの世の終わりのような表情になる。三十近い男には見えない大袈裟なリアクションに思わず笑うと、今度は不貞腐れたように唇を突き出しては重心を傾けてもたれかかってきた。
「うーん、なんだかんだ言ってもキースのやる気のツボを押せてたと思うんだけどな」
「……女装しなくてもツボは押せてるだろ」
「へ?」
男心、というよりも己に好意を向けている相手の気持ちを考えてくれ。察しが良すぎるはずのディノは恋愛というジャンルに対しては鈍感すぎる。溜息をついてはきょとんとした声を出した唇に、熱を込めて唇を重ねた。