【すいません、バイトがごたついたので少し遅れます】
【私も少し遅くなりそう】
【わたしもうすぐです!】
【分かった。じゃあ先入ってるね】
【二人で先に始めてていいわよ】
 一番最初にお店に着いてしまった。ちょっと、いや中々ないことなのでなんだかそわそわする。
 不可抗力とはいえ、このグループの中でドタキャンや遅刻と言えば私だ。オーディションの合否で予定が変わってきたりするし、不本意ではあるんだけど、事実なんだから仕方ない。
 そんな中で、きっちりしてる二人が遅刻っていうのは珍しい。
 とりあえず「佐伯で予約してると思うんですけど」と店員に伝えて席へと案内してもらう。沙弥香が選んだお店なだけあってお洒落な雰囲気をしていて、通されたのは個室部屋だった。
 メニューを見る。呑み放題って聞いてたけど、普段行くとこよりもちょっと高いかな。でもその分、ほとんどの品を注文できるタイプみたい。
「あ、七海先輩、こんばんは!」
 と、個室の扉が開いて枝元さんが元気よく頭を下げてきた。
「お疲れ様。よかったー、一人じゃ落ち着かなくて」
 割と本心から安堵の声を漏らす。基本遅刻してくる側だからか、みんなが揃ってるのを見てばかりで、一人で他の人を待つのはあんまりないから結構不安だった。やっぱりこういうのは減らさないとなぁ、と改めて思う。
「いつ頃来そうですかね?」
「十分とかくらいだといいけど」
「先やってていいってだから、なんか頼みます?」
「できれば一緒に始めたかったけど、ああ言ってるし。そうしようか」
 それで待ってると、なんでか呆れられるからね。別にそれでも私はいいんだけど、二人の方が気にしてしまうみたいだし、お言葉に甘えさせてもらおう。
「じゃあ生で」
「私はキティで」
 あとはおつまみを適当に頼んで、店員が下がると、枝元さんはぱちくりと私を見ていた。
「先輩、ワインいけたんですか?」
「ほんのちょっとだけね。甘いのだったら」
 ワインと言ってもキティってカクテルだし、度数低めではあるんだけど。実は最近、ちょっぴりワインカクテルを開拓中だったりする。
 でも調子に乗ったら侑のお世話になっちゃうから、今日はいつもより自制心強めにいきたい。
「ほえー、オトナだ」
「ビール呑める方が大人だと思うな」
 あんな苦いの、よく呑めるなぁって思うけど。
「沙弥香先輩みたいなこと言いますね」
「あー、誕生日に呑んだって」
「大人って言うか、なんだろ? 偉そう? なんか違うな」
「お金持ち的な?」
「それかも。とにかく、沙弥香先輩はワイン呑んでそう」
「あーそれは分かるなぁ」
 確かに沙弥香はビールとか日本酒を美味しそうに呑んでるより、ワインを優雅に呑んでるイメージある。バスローブ着て膝に乗せた猫を撫でながら、グラスを振って香りを楽しんでそうな想像が容易にできる。
 と、すぐに飲み物とお通しが運ばれてきた。
「それじゃあ枝元さん、お誕生日おめでとう」
「七海先輩もおめでとうございます!」
 そうして軽くグラスを合わせて、それぞれお酒に口を付ける。
 すっきりとした甘味と仄かな酸味が、口の中で膨らんでいく。
 ――今日は枝元さんの、そして遅くなったけど私の誕生日祝いの集まりだった。
「ふぅ」
「――はーっ」
 枝元さんが勢いよく息を吐く。見れば、ビールはもう半分もなくなっていた。
「えっ早い早い。大丈夫?」
「そうですかね?」
「初めて呑むのにそんなハイペース、危ないんじゃない?」
 それはヤバくなる奴だ。経験したことあるから分かる。
 心配した私がそう言うと、枝元さんは「あー」と目を逸らした。
「いやーその、実はちょろっと、前から呑んでたり」
「え、そうなんだ」
「調理用のお酒とか。あと沙弥香先輩のお残しとか」
「待って、すっごく気になるんだけど、沙弥香の」
 早くもアルコールが回ってきたみたい。ちょっと頭が話題に眩みながら、前のめりに訊き出す。
「大したことじゃないですよ? さっきの、誕生日の時に沙弥香先輩がそれ以上呑めなさそうだったんで、残ったのを呑んだだけで」
「沙弥香の前で? なんていうか、意外」
「そうかな?」
「沙弥香は結構真面目っていうか……未成年が呑もうとしてたら止める方かと思ってたけど」
 少なくとも、私の記憶に残っている沙弥香なら、止めるはずだ。
 でも、枝元さんは、
「沙弥香先輩、割と悪い先輩だよ?」
 ぐいっとまたビールを呑むと、おかしくないとばかりに言い切った。
「……そっか」
 気圧されるようにして視線が下がる。
 ……沙弥香も変わった。それは、恋人がいるって知った時から分かってたことではあるんだけど。
 私の知らない沙弥香がいるのが、少し寂しい。
「ねぇ、枝元さん」
「ふぁい?」
「枝元さんの沙弥香の惚気、聞いてみたいな。だめ?」
 なんてわがままなんだろう。沙弥香のことを選ばなかったくせに、私の知らない沙弥香のことが気になるなんて。
「その前に、一つ聞いていいです?」
 私の質問に逡巡していた枝元さんは、やがてそう切り出した。
「なに?」
「沙弥香先輩が高校生の時に好きだった人って、七海先輩ですよね?」
 ……それを肯定するには、ちょっとの覚悟が必要だった。
「……うん」
「そっか。うん」
 何度か頷いた枝元さんは、ふ、と意地悪めいた笑顔を浮かべる。
「じゃあちょっとだけで」
「ちょっとだけなんだ?」
「沙弥香先輩のかわいいとこは、恋人だけの特権なんで」
 それに私は、全く反論できなかった。
「そっか。そうだね」
 そう零しながら、私はキティに口を付ける。
 ……すごく今更なんだけど。私がそう選んだって分かってたことなんだけど。
 沙弥香は私の隣から離れていっちゃったんだなって、ようやく実感が湧いた。
「枝元さん」
 なら、私から言えることは、一つだけ。
「私がこうして頼むのっておかしいと思うけど……沙弥香のこと、お願いね」
 私の頼みに、枝元さんは譲らないよとばかりに笑った。
「……はい、任されました」
 ……人は変わっていく。侑も沙弥香も、私も。
 でもそれを、笑って見送ることくらいはできるようになっただろうか。
「で。沙弥香って普段どう過ごしてるの? 私生活のこと知らないんだけど」
「わたしも詳しく知らないけど、ウチだと結構寛いでるっていうか。意外とくっ付いてきます。ヤバいです」
「へぇ、沙弥香が? へーっ」
 当の本人が来るまで、枝元さんから見える沙弥香の話を肴にお酒を呑む。
 結局はお酒が回ったのか、沙弥香が来ても止まらなかったので、二人してお叱りを受けてしまったのだけど。
 でも、友達の話を聞けて、私は嬉しかった。
 ……ちなみに侑も加わって三人で沙弥香にワインを頼むよう頭を下げたのだけど、沙弥香は断固として断ったのだった。
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向き
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やが君ワンライ㉗
初公開日: 2021年11月20日
最終更新日: 2021年11月20日
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コメント
お題 マフラーorワイン
【完結】2048
完結。ゲーム「2048」と動画からのインスパイアー。文章の見本にでも。
鳥頭三歩
現パロ伍少の短い小説を書く
初めてテキストライブ使います!現パロ同棲設定なのでお口に合う方だけどうぞ~!
路也(みちや)