移動教室のために教科書を抱えて廊下を歩くシチロウの斜め前を、同じく移動教室のカルエゴが悠々と歩いていく。歩幅の問題でシチロウの方が歩数が多いが、それに気付いたカルエゴが少し歩調を緩めてくれたおかげで、シチロウは彼の少し後ろに追いつくことができた。
 群れるのは嫌いだとばかりに一人でいることの多いカルエゴだが、何故かシチロウとだけは行動を共にする。それが何だか嬉しくて、けれど指摘すればきっとカルエゴは照れて離れてしまうから言葉には出せなくて、シチロウは最近本音を持て余していた。
 目の前で、長く伸びた黒髪が揺れている。目の前をひらひらとひらめくそれを、右、左、と目で追いかけるシチロウは「きれいだなあ」と何の気なしに呟いた。
「何がだ?」
 心の中でだけ呟いたはずの言葉は、うっかり声に出してしまっていたらしい。少しばかり照れながら理由を探すシチロウだが、上手い言葉は出てこなかった。斜め前を歩いていたはずのカルエゴはいつの間にか隣に並んで、不思議そうにシチロウを見下ろしている。
 渡り廊下に差し掛かったところだったから、丁度外から秋の日差しが差し込んできていた。穏やかな日差しに透けるカルエゴの黒髪がきらきらと輝いている。わあ……、と思わず感嘆の声を上げて足を止めると、流石のカルエゴも足を止めた。
「シチロウ、大丈夫かお前」
 不思議というより心配そうな顔で問いかけるカルエゴの声も聞こえない。自然と両手を伸ばしてカルエゴの髪をはっしと掴んだ。そのままするりと指通りの良い黒髪を梳いて、毛先までしっかりと見つめて、一本ずつ確かめるように指に絡めて。それから無遠慮にもまじまじと顔を近付けたところで、ガシリと顔をわし掴まれてしまった。
「……シチロウ」
 地の底を這うような低い声。ハッとして両手を離し顔を上げると、カルエゴが余った片手で自分の顔を覆っていた。指の隙間から見上げたカルエゴの表情は、シチロウからは見て取れない。
「うわ、ごめ、ごめんねカルエゴくん! きれいすぎてつい夢中に……」
「……いい。それ以上喋るな」
「でも、本当にきれいだったから気になっちゃって……。急にごめんね、一言断るべきだったよね」
「いい、と、言っている!」
 それにしてはアイアンクローから解放してくれないのは、きっと怒っているからに違いない。偶々人通りが少なくて助かったが、こんなところを見られたら生徒でも先生でも何事かと思うことだろう。
「……本当に?」
 そろりと発した問いかけと共に、こっそりと虚偽鈴を使う。こくりと頷いたカルエゴに嘘は見当たらないが、それ以上言葉を発しようともしない。
 やっぱり機嫌を損ねてしまったのだろう、と気落ちしたシチロウから手を放し、カルエゴは先ほどと同じように移動教室へと歩いていく。せめて嫌われていないのなら良いのだけれど、と思いながらその背を追ったシチロウは、赤く色づいたカルエゴの耳の先端を見て、ひゅ、と息を呑みこんだ。
 それは確かに、秋の赤みを帯びた日差しの所為だけでは、なかったのだから。
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15分でシチカルSS書く枠
初公開日: 2021年11月15日
最終更新日: 2021年11月16日
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コメント
なんとなくシチカルを書く枠
https://twitter.com/ei_hagino/status/1467045855517…
恵衣
一次の藤橋市シリーズについて考える枠
そろそろ動かしていきたい一次創作の設定をまとめたい
恵衣
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