ワンライ右菊版ワンドロワンライさん
https://twitter.com/mgkk1d1wが始まったので、数日遅れでお題にチャレンジします。
本当は30分で考えて、一時間で書くみたいです。
即興は無理じゃった。
11/6のお題
【カクテル】
【ゴールド】
【15】
のどれか。
※途中で家族が帰ってきたら終了。間に合わなかった。
※やっぱり時間内に掛けませんでした。
※パンツ創作するもんじゃなかった。ぷろっと作ればよかった。
ケミカル風味溢れた水色の液体をグラスにいれる。カクテルリキュールを合成牛乳と混ぜたら柔軟剤を彷彿とする色合いになってしまったが、材料はすべて口に入れても大丈夫なものばかりである。
今日は持ち回りで受け持つカクテルバーの当番の日であった。客はまず来ない。冷やかしにアーサーが椅子替わりのコンテナに腰かけるので、出したのがそれである。
アーサーはちろりと舌を付けて「甘ぇ」と眉を寄せる。
「ご自慢の金色の畑からウィスキーが出来るまでの辛抱ですよ」
「何年になることやら」
と、何回も繰り返した言葉の掛け合いも一年続けるとネタ切れになってくる。
別に会話をする必要もない。夜中まで開いていて、眠れない誰かが逃げ込める場所があればいいと始まった事である。聞いた内容は他言無用で心にしまう事。バーの当番は持ち回り制で誰かに秘密が集中しないようにすること。
秘密がないのか、秘密を守るためなのか、結局は惰性で続いている。
さて、話を数年前に戻そう。
ここより三倍重力のある場所で本田菊は重い決定を伝えられた。よくよく準備に準備を重ねて共に乗り越えようとしていた矢先の軌道修正である。
具体的に述べると「地球から火星まで、ちょっと行ってきて欲しい」である。続けて今生の別れになる場合もあるから、と続く。
無事だったら数年後に物資が届く。連絡が付くようになるのに何年かかるかは分からない。地球との連絡が取れない状態で一年ないし二年は生活して欲しいとお願いされた。断ることはできない。
「もし地球がだめだった場合、火星が種の保存地になる」と、割と切迫した理由であった。
具体的な説明は省くが数万光年先で起きたガンマ線バーストが観測され、その軌道はまっすぐに太陽系に向かっていた。直撃ないしは大気圏をかする可能性が高くなったので、世界中が大慌てで対処に奔走したし、数年前どころか今でも対処中である。
片道二年かけて火星の試験施設に到着してみれば、化身がぞろぞろと同じように送られてきていたという話である。もちろん本国に残った化身もいる。
施設の拡張を主な任務として、測量と掘削と設置と水稲栽培を繰り返す。アーサーの金色の野は栽培ベースにある麦の事である。
物資だけは山ほどあったので、当分飢えることはない。しかし地球からの連絡はない。
不安が、恐怖が、孤独が、遠く離れた火星で正気を保つための方法として、このカクテルバーはあるのだが、やっぱり誰も来ないのである。
地球で何かあったから連絡が来ない。連絡が来ないという事は電子機器が壊滅したということで、現代文明が甚大な被害を被ったという話である。
であるなら、自分たちの故郷は、と。際限なく考えてしまうので、程々に酒類で逃亡せねばならない。だが酒類も大事な保存食なので、カクテルバーという形で提供量を抑えるほかない。
だのに誰も来ない。
「皆さん、大丈夫なんでしょうか。不安に押しつぶされたりしないんでしょうか」
「あー…うん、それ、な」
歯切れの悪いアーサーは原因に思い当たるようであった。
廊下の向こうで野太い「密造酒改め」の声が聞こえてくるので、答えは簡単な話であった。
果実のコンテナを見つけてしまったフランシスが悪いのだ。穀物のコンテナからジャガイモを接収するイヴァンが悪いのだ。こそっと林檎を確保するフェリシアーノもまた悪いのである。
長生きをしたものの特権たる密造酒を彼らは個室で作っていたし、蒸留装置をあっせんする者もいた。あと隠れてお酒の作り方講座を開いては、儲けとするものもいた。
ついでにいえば施設内に賭場を作ってしまうものもいた。
本田菊の個室にも梅酒と日本酒の瓶が眠っていることは明記しておこう。
「俺たちが選ばれたのは、ただではヘコたれない厄介なクソばっかりだからだろうな」
「クソとか言わない」
「じゃあ悪党?悪ガキ?」
「図太いですかね?」
「そりゃそうだ」
クツクツと笑うアーサーもカクテルバーに来る必要はないのである。誰が密造酒の摘発を受けるかのレースを主催しているのだから。
「そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ。私こう見えてお爺ちゃんですから。のんびり座って待っているのが得意なんです」
「そんなんじゃねーよ。たまには甘すぎる酒も飲みたくなるんだよ」
「合成牛乳で割るか炭酸水いれるぐらいしかできませんけどね」
甘すぎるの苦手な癖にと出かかった言葉を口の中で留めた。手癖で指が胸ポケットをまさぐろうとして「ああ、クソ」と悪態をつくアーサーを眺める。
この施設では火気厳禁だからタバコは吸えない。彼がタバコを吸うのは会話を遮る時で。
だから「そろそろお開きにしましょうか。夜なべしてゲームでもしておきますから」と、旧式のゲーム端末を取り出す。
たぶん気を使ってくれているのだ。
夜を一人で過ごすのが可愛そうだから、と。そんな言い訳の仮面をかぶって本質から目を逸らす。
カクテルバーの当番を冷やかしに、というは理由で。本当は当番になった者の不安を聞くために顔を出しているのだろう。
本田菊の性格が面倒くさいから、彼の役目もままならないのだろうけれども。
誰も来ないのではなく、誰も来ないようにしてもらっているが正しい。
そこまでお膳立てしてもらって、何も話せないということが申し訳なかった。話すことがないのではなく、ふらっと限界を迎えた本心を吐露しかねないので話せないが正しい。
ちょっとでも油断すると「ヘイ、おまち」のついでに、積もり積もった煩悩を告白しかねない。
(だから地球から連絡がくるまで、世間話で乗り切るほかないのです)
割り当てられた仕事をこなして、筋力の体かを防ぐ日課の運動と投薬を繰り返して、時に密造酒が摘発されたり、タレコミをしたり。地球からの連絡がくるまではという期限が訪れるないまま、火星での日々が日常のように錯覚してくる。
いつものように当番になって「へい、おまち」とアーサーにケミカルなカクテルを出す。
そうして口を付けて、水色の柔軟剤のようなグラスに赤い色が刺すまで。
本田菊は一切考えたことが無かったのだ。地球のことも本国の事も気にはなっていたけれども、どこかで安心していたし油断していた。だから化身に変化が訪れるなんて考えもしなった。
グラスを離しても口から赤い液体は流れたままで、ゴホゴホとせき込んだアーサーが「あ?」と怪訝な声を出したきり倒れ込んだ。
アーサーが倒れたことで、誰もが地球に何が起こったか真剣に向き合わざるを得なかった。
訪れる災難を前に潤沢な対策を取っていたであろう国の一つが倒れた。地球との連絡が途絶えて二年。もう楽観視できないのだと、病床に横たわるアーサーを見て理解する。
「彼以外で異変のあるものはいるか?」
それぞれが体の調子を確認し合ったりと、自分に訪れた変化から本国に何が起きたか推察しようする。
「今のところは異変はアーサーだけか。つまり本国で二次被害が起きた可能性が」
「症状から分かる事ってないのかな。大きな怪我があるとか、体の部位に変化があったとか」
倒れたのはアーサーだけ。咳と吐血の症状はあるものの、怪我や欠損はない。
過去に似たような症状はないかと化身達は話し合った。そのそばで本田菊は自己嫌悪と後悔に包まれながら、何もできない自分を攻め続けていた。
頭の中によぎるのは最悪の展開である。